連載企画 「立川市民オペラ2023 マスカーニ作曲 歌劇カヴァレリア・ルスティカーナを追う」
【vol.2 立川市民オペラ合唱団 特別公開練習〜オペラの合唱は情景の演出〜】
9月29日、来年3月の立川市民オペラ2023公演に向けたプレイベント、特別公開練習がたましんRISURUホール大ホールで開催された。
今回初の試みである立川市民オペラ合唱団の特別公開練習。
指揮者にイタリアから来日されていたマッスィミリアーノ・ピッチョーリ氏を招いた密度の高い公開練習に、立川ビルボードもお邪魔した。
心で歌うオペラを
午後5時、たましんRISURUホール周辺はもう薄暗くなっていた。
団員たちはそれぞれ学校、家、職場からホールへ集い、各々が発声練習終えた午後7時、特別公開練習は始まった。
ピッチョーリ氏の紹介を済ませ、さっそく全員での合唱がスタートした。
スッと息を吸い、一斉に声を出す。声は「見えない」物質ではあるが、まるで、一人ひとりの声が1本の線のようにホールを突き抜けていくように感じられる。
声の中に、心地よく身を委ねていると、ピッチョーリ氏の指導が入る。
限られた時間でピッチョーリ氏の指導を吸収すべく、団員たちも真剣そのものだ
会場からピタリと音が消えて、ピッチョーリ氏の指導に、全員が耳を傾ける。
彼のアドバイスは譜読みの正確さや、テクニック的なことでは無かった。
舞台の背景となる街の風景やその場面の登場人物たちの心情などを団員にイメージさせ、歌声に新たな世界観を加え、会場を包み込んでいく。
「オペラの合唱は、情景の演出である」ことを感じさせる指導だった。
マッスィミリアーノ・ピッチョーリ氏との出会い
今回、ピッチョーリ氏に声をかけたのは通訳を担当した木下周子さんだった。
立川市民オペラでは制作として活動し、普段は声楽教室・音楽事業イベント会社の代表でもある。
木下さん自身、国立音楽大学・大学院を卒業後、イタリアの音楽院も卒業している。
ピッチョーリ氏とは劇場オーディションで知り合い、何度も共演した。
そのため、彼がイタリア国内外の劇場で活躍する指揮者でありながら、市民オペラの活動を理解しつつ、合唱団に本家イタリアオペラの息吹きを注ぎ込める人物であることも既知だったのだ。
ピッチョーリ氏の指導を通訳する木下さん(写真右)
彼の人柄と活動内容をよく知っていた彼女は、彼が来日することを知り、立川市民オペラ合唱団の特別公開練習のマエストロとして参加して欲しいと招聘し、今回の特別公開練習が実現した。
市民オペラの魅力とは
「市民オペラ」という形態はそもそもイタリアではほとんど見られず、日本特有のものと言われている。
ピッチョーリ氏の地元であるラ・スペーツィアという街で、現地在住の日本人男性が、日本で盛んな「市民オペラをイタリアで!」と企画した際、ピッチョーリ氏にマエストロを依頼したのだそう。
市民オペラは逆輸入だったのだ。ピッチョーリ氏はその縁がきっかけで市民オペラを指揮するようになり、イタリアにおける「市民オペラを支える専門家」となったのだった。
木下さん、ピッチョーリ氏、宮﨑さん(写真左から)
「パッション(情熱)。興味があってもなくても、人間関係が複雑でも、結果を出さなければならないのがプロの世界。
純粋に歌いたいと思う気持ちを100%傾けられる市民オペラは、テクニックでは商業的なプロダクションのオペラを越えられなくても、パッションでは凌駕出来る、そんな可能性を秘めてるんだよ」
とピッチョーリ氏は市民オペラの魅力を話す。
メリハリの効いたパッション溢れるピッチョーリ氏の指揮
立川市民オペラもまた、パッション120%、伸び代も可能性も未知数だ。
2023年の本番まで、あっという間に残すところ5ヶ月をきった。
今回の特別公開練習で「心で歌うオペラ」の感覚を得た合唱は、本番に向けてさらに磨きがかけられ、当日は120%越えのパッションと歌声がカヴァレリア・ルスティカーナの舞台、イタリア南部のシチリア島へ観客を誘ってくれるだろう。
練習を終え、緊張感から放たれた舞台の上では笑顔が見られた
◆立川市地域文化振興財団
https://www.tachikawa-chiikibunka.or.jp/
◆立川市民オペラ
https://tachikawaoperaassociation.jimdofree.com/
◆立川市民オペラ合唱団
https://tachikawaoperachoir.jimdofree.com/
◆マッスィミリアーノ・ピッチョーリ氏のプロフィール(立川地域文化振興財団HP)
https://www.tachikawa-chiikibunka.or.jp/a12-20230929/
◆帰国の際のピッチョーリ氏からのチャーミングなお人柄が分かるメッセージ動画
https://youtu.be/PVseejVwC8E
◆連載企画vol.1「立川市民オペラ2023 マスカーニ作曲 歌劇カヴァレリア・ルスティカーナ」を追う」
https://tachikawa-billboard.com/report_list/opera2022_vol1
◆連載企画vol.2「立川市民オペラ2023 マスカーニ作曲 歌劇カヴァレリア・ルスティカーナを追う」
https://tachikawa-billboard.com/report_list/opera2022_vol2
◆連載企画vol.3「立川市民オペラ2023 合唱団員の生の声」
https://tachikawa-billboard.com/report_list/opera2022_vol3
(取材ライター:natsu)