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連載企画 「 立川市民 オペラ 2024 ドニゼッティ 作曲 歌劇 『 愛 の 妙薬 』 」 vol. 3 立川市民 オペラ 公演 「 コーラスサポート 」 に 迫る

立川市民オペラでは、合唱団員以外のいわゆる賛助出演者を「コーラスサポート(CS)」と呼び、長い期間合唱団と共に練習を重ねていく仲間のような存在である。
これは立川市民オペラが始まった当初からある制度だそうだ。
連載第3回は、長年コーラスサポートを務め、今年は合唱指導として公演に携わる今野絵理香さん、今回初めてコーラスサポートを務める清永千裕さんにお話しをうかがった。

2024.01.21

立川市民オペラ公演コーラスサポートの役割
 コーラスサポートの役割は、主に音大・大学院生や卒業した若手の歌手が、市民の合唱団員とともに合唱として公演に出演するだけでなく、練習で合唱団員をサポートすることだ。

団員が音楽を覚えきれていない段階から共に合唱パートを練習することで音楽を牽引し、ソリストのパートを代わりに歌い、合唱のみの稽古の時でも全体像がつかめるようにしている。

また、音楽に演出をつけていく立ち稽古では、合唱団員が暗譜できていなかったり思い出せない時に、オペラの進行にあわせて先を見越した動きや歌詞を合唱団員に伝えたり、立ち位置を修正するなどの役割も担っている。

声楽の道に進むまで
今野さん、清永さん、ともに声楽の道を決めたのは大学受験を考えるぎりぎりの時期だったという。

声楽を目指したきっかけや決断に至るまでの状況について振り返っていただいた。

今野さん
「小学校二年生からピアノを習い始め、中学でユーフォニアム、高校でトロンボーンと吹奏楽部で活動した。

理系クラスに在籍していた高校二年生の夏休み、進学について考えるも、将来の仕事に対してピンとくるものがない状態だった。

そんな中『一生続けることができる仕事』という視点で考え『音楽』という結論に至った。

しかし、ピアノは音楽大学受験までに準備が間に合わない、部活で続けたトロンボーンは歯列矯正のため練習がままならない。

そう考えているうちに気づいたことがあった。

『歌が好き』。

すぐ音楽の先生に歌で音楽大学を受験する意志を伝え、秋には歌のレッスンを開始、並行して楽典など受験に必要な勉強も急ピッチで進めた。

しかし思わぬところに壁があった。

母の大反対にあい、三か月間冷戦状態。

最後には父が『本人がやりたいことを』と、母と自分の間に入ってくれ、両親の応援を得ることができ、初めの一歩である国立音楽大学(以降、国立音大)に合格を果たすことができた」。

理系から声楽の道を選ぶまでを語る今野さん

清永さん
「両親はともに教師であり、特に母は音楽教師だったこともあり年一回演奏会に出演していた。

このような環境で育ち、合唱団で歌を歌い、吹奏楽部でトランペットを経験し、幼い頃から音楽教師になると決めていた。

高校は音楽科に進み、父からは『音楽の先生の一つの技として、歌を歌えます、と言えたらいいよね』とのアドバイスがあったことや、高校の先生から『君は歌をやったほうがいい』と言われ、声楽での受験を決めた。

福岡の実家から通学できる大学を考えていたが、周囲からは合格した大学の中でも国立音大を強く勧められ、入学することに。

しかし実家を離れた寂しさから、立川駅に着いた時は駅前の広場で涙した。

大学では音楽教師になるための教職免許も取得したが、『歌をやっていきたい』という思いが強くなり声楽家の道を選択した」。

音楽教師になる目標から声楽家を目指すまでを語る清永さん

立川市民オペラとの出会い
声楽家として歩まれているお二人。

今野さんは大学三年生の時、所属していたオペラ研究会というサークルの先輩から立川市民オペラのコーラスサポートへの誘いを受け、参加。

学生時代から長くコーラスサポートとして参加し、合唱団員と共有する時間が多い中でエネルギー溢れる団員との共演に充実感もあったが、ソリストへの思いもどこかにあった。

合唱団員からも「ソリストのオーディション受けたらどう?」と背中を押され、チャレンジし、これまでに二度ソリストとして出演することができた。

(立川市民オペラ2019『こうもり』イーダ、立川市民オペラ2023『カヴァレリア・ルスティカーナ』ローラ)

さらに、昨年度の「カヴァレリア・ルスティカーナ」公演後、制作プロデューサーの宮崎京子さんから「来年は合唱指導をやってみない?」との打診をいただき、自分でいいのだろうかという気持ちもあったが、これまでのオペラやミュージカルなどの経験を評価していただいたとの思いと、新たな挑戦・学びの機会ととらえ二つ返事で引き受け、今年度初めて合唱指導を担当している。

稽古の冒頭、発声練習とストレッチの音頭をとる今野さん

清永さんは、コーラスサポートのことは大学の友人が参加していたこともあり存在は認識していた。

大学院修了後、声楽の道に進んだとはいえ、経験の浅さが課題の一つだったため、新しい世界に飛び込み、自分を高めたい、それも大好きな立川で、と思い、立川市民オペラのソリストオーディションに挑戦。

コーラスサポートに選出されたとの連絡を電話で受けた時は、オペラ一本勉強できるということがとても嬉しかった。

実際に稽古が始まり、コーラスサポートとしてソリストパート、合唱パートの両方を覚え、歌えるようにしておくことは大変ではあるが勉強になり、また、体調を崩し練習を休むことは合唱団の練習にも影響があるため、体調管理に今まで以上に気を付けるようになった。

コーラスサポートとして稽古に励む清永さん

お二人から見た立川市民オペラ合唱団
立川市民オペラ合唱団の皆さんについては「明るい、パワフル、やる気にあふれている、素直、笑顔がきらきらしている、フレンドリー」とポジティブワードが並ぶ。

例えばコーラスサポートにおいて悩んでいる素振りを見せると「今まではこういうふうにやってたわ」と教えてくれたり、「今年はこういうオペラだから、こういう感じになるのかしら」と話題を振ってくれ会話が弾み、今ではお互いに寄り添う存在となり、「作品を一緒に作っていこう」という関係性が構築できている。

また、稽古時に過去の市民オペラの公演Tシャツやパーカーを着て練習に臨む方もいて、その気合を感じている。

合唱団員から見た今野さんと清永さん
団員の中には在籍歴の長い方や人生の先輩もいる。

そんな合唱団員にお二人への印象をうかがうと、今野さんについては「明るく褒めてのばしてくれる、とてもやりやすい先生。

今回初めて指導を受けるが、立川市民オペラ合唱団との相性が良い先生だと思う」との声。

また、清永さんについては「気立ての良い、かわいらしいお嬢さんで、丁寧に優しく教えてサポートしてくれる。

失敗してもフォローしてくれる。とにかく『良い子』です」と、合唱団員にとってお二人は信頼できる良き「師」であることが伝わってくる。

なお、制作プロデューサーであり合唱指導の先輩でもある宮崎京子さんは今野さんについて「最初はおっかなびっくりだったところもあったと思うが、だんだん慣れて団員に対して臆することなく的確に言ってくれるようになった。

この現場ではすっかり指導者の顔になってきていると感じる」と評価している。

合唱の稽古風景

コーラスサポートお二人のお互いの印象
今野さん、清永さんは同じ大学の先輩、後輩ではあるが初めて会ったのは今回の「愛の妙薬」の練習だったという。

今日までのお互いの印象を聞いた。
今野さんは清永さんについて、

「コーラスサポートの役割は多岐にわたりその量も多く、初めて参加ということで心配していたが、清永さんは練習に向けた事前勉強をしっかり行っていて素晴らしいです。

愛の妙薬を希望してオーディションを受けられているのでモチベーションも高いと感じる」と話し、

清永さんは今野さんについて、

「明るく、合唱団員のモチベーションを高める言葉で指導されておられ、今野さんのようになりたいと思わせられる方」と話し、互いに信頼し合っていることが伝わってきた。

公演に向けたご自身の目標
合唱指導として「盛り上げ隊長」と自らを表現する今野さんは

「歌は体が楽器であり、メンタルが80%と思っている。

気持ちが萎縮してしまうと体も硬くなり声が出にくくなるため、歌は『楽しく』がモットー。

そして合唱団員一人ひとりの魅力を何倍にもして引き出すことが目標」と言う。
一方、初めてのことばかりだという清永さんは

「今回の経験を活かせるようにしたい。コーラスサポートをやり切り、観客の皆さんに『楽しかった。また観たい。自分も一緒に歌いたい』と思ってもらえる公演にしたい」と意気込む。

立川市民オペラ2024「愛の妙薬」の見どころ
「演技をつける立ち稽古で取り組んでいることの一つとして、作品の時代背景やその時の人々の暮らしなどを学び、合唱出演者一人ひとりが村に暮らす住人として自らに名前をつけ、お互いの関係性も設定している。

そうすることで舞台の中で生きる人をリアルに演じている。

舞台上一人ひとりの表情、演技にもぜひ注目していだきたい」と今野さん。
「楽しい話なのでリラックスして観ていただき、歌を口ずさみながらお帰りになるくらい、楽しんでいただけたら嬉しい」と清永さん。

合唱団員から愛されている清永さんと今野さん

コーラスサポートと合唱団員がお互いに認め合い、音楽を作り上げていく立川市民オペラ2024「愛の妙薬」は見どころ満載なようだ。

この連載では、公演開催まで引き続き立川市民オペラを追っていく。

次回もお楽しみに。
会場に足を運んで楽しみたい!という方は、ぜひHPをご覧ください。

立川市民オペラ2024 ドニゼッティ作曲 歌劇「愛の妙薬」公演情報

■連載企画「立川市民オペラ2024ドニゼッティ作曲 歌劇『愛の妙薬』」
vol.1 立川市民オペラの会市民委員に迫る
vol.2 ネモリーノ役 吉田 連さんに迫る

<関連リンク>
立川市民オペラ
立川市民オペラ合唱団
立川管弦楽団

(取材ライター:後藤直子)