作り手と観客で完成させる映画祭 支えるボランティアの力https://tachikawaeiga.com/
「第10回立川名画座通り映画祭」が9月14日・15日、柴崎学習館で開催された。
今回は、本映画祭と、翌日の16日にシネマシティ シネマ・ツーで行われた10周年記念イベント「歴代グランプリ作品一挙上映」をレポートする。
柴崎学習館・シネマシティ シネマ・ツー
グランプリ檀上写真
多彩な作品と多才な表現者たちが集う映画祭
応募総数167作品(昨年応募数136作品)から、選ばれた入選作43作品が2日間3部に分けて上映された。
インターバルには、作品関係者がコメントを行い、審査員との質疑応答がなされた。
本映画祭には多くの出品者が来場しており、会場には美大生や、華やかな装いの人、芸術家の雰囲気のある人など、表現者たちと一緒に映画を楽しめる点も魅力だ。
入選された制作者たちのバックグラウンドも作品同様に多彩で、その制作意図や秘話を聞く機会があることで、目にしたばかりの作品にさらに興味が高まる。
来場者はすべての作品を見ると観客賞の投票権を持つことができる。
何年も続けてボランティアに関わっている方は、今年は途中で帰る人が少なく、観客の多くが推しの一作を探し、投票していくようだと話してくれた。
多彩な登壇者(15日の模様)
初日は、アニメ部門、ドキュメント部門、スマホ部門、ミュージック、ドキュメント立川市部門の各賞と市長賞の発表、特別上映 楢崎茂彌監督「銃後の護り―立川の女性の戦争」が行われた。
ボランティアの方の話では、例年集客の出だしが遅いところ、今年は初日から椅子を増設するほどの盛況だったそうだ。
立川市長と市長賞の授与の模様
市長賞には、ひがし沙優監督の「学校おいでよ!」が選ばれた。
映画好きな市長が自ら一本を選ぶという。
「市長賞は、立川市が映画文化を大切にしていることを表している」と、実行委員長の中村能己さんは語ってくれた。
ボランティアたちのアットホームな雰囲気
観客たちの様子
2日目も多くの観客が来場し、早い段階で椅子を増やすボランティアの姿が見られた。
来場者に話を聞くと、出品者や出演者を応援するために市外から来たという声が聞かれた。
制作にかかわる作り手と演じる役者たち、その応援者たちの、一作品一作品への想いの強さが、この場を熱く包みこむ空気を作り出していた。
ボランティアが活躍する姿
さらに、特別上映作品を見に来て、他の作品の質の高さに魅せられたという人もいた。
きっかけは様々だが、この場に集まった人たちが出会い、映画祭の看板の前で交流する姿も見られた。
この場を10年間続けてきたのは、中村実行委員長を中心にした映画祭ボランティアだ。
15日に上映された「在りのままで咲け」の松本動監督をはじめ、今秋完成する「ドーバーばばあ2 つなぐ」の中島久枝監督や、共通デザインのTシャツを着た市民ボランティアの方が誘導や受付、来場者の対応など、至るところで動き回っているのを目にした。
中島監督と松本監督
年々ハイレベルになる受賞作
ドラマ部門にはアート系から、ホラー、SF、コメディ、恋愛といった様々なジャンルの、現代劇から時代劇まで設定も多様な作品が集まっている。
同じような作品は一つもなく、それぞれが独自の映像づくりを行っており、多様なテーマの視点を与えてくれる。
グランプリ作品写真
記念すべき第10回のグランプリを取ったのは西井舞監督の「幸福指数」。
主演した門田樹さんは、監督でもあり、本映画祭で「クジラの背中で話すコト」という、初恋の学生カップルが、浜辺で距離を近づける情景を切り取った作品で、ドラマ部門賞を受賞している。
門田さんは、本作で、自然な演技で、幸せの意味を発見した素朴な人の感動を表現していた。
第10回のグランプリ作品は、映像の斬新さと、ロケーションの力だけでなく、登場人物に対して観客が共感でき、それが等身大の魅力となっているようだ。
中村実行委員長によると、作品ごとの時間は短いが、その分内容の充実度と完成度は年々高められてきているそうだ。
上映される歓びの場
グランプリ作品以外にも、監督賞、作品賞、助演女優賞などが用意される。
21作品あるドラマ部門では、数多くの応募作品から、審査の過程で厳選され、入選作品は作り手の創意工夫がみられた。
今回の各受賞作選びは、クオリティの高さから、難航したと中村さんは語っていた。
「何でも屋物語の裏バイト」高上雄太さんが登壇
実際に、観客賞を受賞した「何でも屋物語の裏バイト」主演の尾崎舞さんは、「何年もこの映画祭に出品しているが、いつでも入選でき、賞が取れるわけではない。
作品は観客に見てもらって完成する。
俳優として、リアルな場で作品を見てもらえること自体が貴重な機会となる」と話してくれた。
この話を聞いて、まさにこの場で、作品を完成させる一人になれたのではないかと思えた。
「ギルトフリーライフ ごめんね」山本監督が登壇
また、3本立てのオムニバスの一部を抜粋した短編「ギルトフリーライフ ごめんね」で子役の鈴木礼彩さんが助演女優賞を受賞。
作品を手掛けた山本大策監督は「緊張していたが、壇上から観客たちの顔を見て、皆の表情が温かくほっとした」と言っていた。
観客が笑顔でスクリーンを眺める光景からは、純粋に映画を楽しむ映画祭の在り方がうかがえる。
制作側と観客が映画を通して一つの達成感を感じられる場として、立川名画座通り映画祭は運営されているだろう。
その土台には、映画が好きだという運営側の気持ちがあって成り立っていると感じる時間となった。
映画祭10年間のメモリアル企画 歴代グランプリ作品一挙上映inシネマシティ
作品上映が行われたシネマシティ シネマ・ツーの夜
第10回名画座通り映画祭終了の翌日、16日の夜、北口の映画館シネマシティ シネマ・ツーで、10周年を記念する過去グランプリ受賞作品の一挙上映が行われた。
制作者や出演者も駆けつけ、当時の思い出や立川名画座通り映画祭への思いを語った。
中村実行委員長は、あいさつで、第1回受賞作から10回まで、立川名画座通り映画祭の受賞作を続けて見る特別な機会を、映画館の大きなスクリーンでふかふかの椅子に観客を入れて実現できたことへの喜びを表していた。
上映作品は、どれも希望のある物語であり、本映画祭が常に人の心を明るく温かくするものであったと感じさせた。
壇上での様子
舞台挨拶で、「土曜日ランドリー」で第3回グランプリに輝いた東かほり監督は、立川名画座通り映画祭への出品をきっかけに、主演の俳優宇乃うめさんと、その後長く続く出会いをしたという。
また、第5回グランプリ受賞をきっかけに制作を続けることになり、その後商業映画デビューしたという「触れてしまうほど遠い距離」の内田佑季監督の話もあった。
また、映画制作と俳優の両方で活躍する「THE BELL」を監督した恵水流生さんは、新作の出演作、山本俊輔監督映画「フリークスの雨傘」を紹介した。
この映画祭が、映画の未来に繋がっていくと感じさせる、監督たちのリアルな声が、観客に届いた。
最後に、実行委員長 中村さんは、映画祭を「いつやめてもいい」と言いながら、望む人がいる限り映画祭を続けるという趣旨のメッセージを伝えてくれた。
作り手、演者、観客の人生にも影響を与えるだろう映画祭として、これからも続いていくことが望まれるだろう。
帰っていく人々の写真
立川名画座通り映画祭は、今年9月14日土曜、15日日曜の2日間と16日に特別企画上映をもって無事に閉会した。
10周年を迎えた立川名画座通り映画祭が成功した陰には、中村実行委員長中心として、ボランティアたちの熱意がある。
その灯が、多くの制作者の背中を押す場を作り出していた。
1日目全体集合写真
2日目全体集合写真
最終日集合写真
(取材ライター:設樂ゆう子)