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連載企画「立川市民オペラ2024ドニゼッティ作曲 歌劇『愛の妙薬』」vol.2 ネモリーノ役 吉田 連 さんに迫る

連載第2回は主演、ネモリーノ役の吉田連さんにお話しを伺った。
吉田さんは立川市民オペラ合唱団の前身である立川市民オペラ学校卒業生初のプロのオペラ歌手だ。
今回は、立川市民オペラ学校を巣立ち、プロとなり立川市民オペラの主演として舞台に立つことになった吉田さんのオペラとの出会い、そして今後の展望に迫るべくたましんRISURUホールへと向かった。

2023.11.22

立川市民オペラ学校卒業生 初の主演
ネモリーノ役で主演を演じることとなった吉田連さん。
実は彼、弱冠35歳にして初代立川市民オペラ学校OBなのである。

フォークソング好きの父をもち、その影響でミュージカルにも興味があった。

母の薦めもあり、立川市民オペラ合唱団の前身となる「合唱から学ぶ、立川市民オペラ学校」に、最年少15歳でオペラの世界の門を叩いた。

立川市民オペラ学校は、後の『プロテノール歌手 吉田連』への道のりを歩み始めた場となったのだった。

真剣な眼差しと笑顔が素敵な吉田さん

オペラ学校は2002年度~2004年度に実施された3年間の講座だったため、修了公演を終えて一区切りついた高校生3年時には、受験勉強もあり立川市民オペラを離れた。

1年後、晴れて国立音楽大学に入学。

恩師から「御礼奉公に」と送り出され、大学1年から立川市民オペラの「コーラスサポート(以後、CS)」として活動に携わるようになる。

CSとは、プロの音楽家やプロを志す学生らが合唱として公演に参加しながら、合唱団員に歌や演技を牽引、サポートする仕組みで、立川市民オペラ独自の特徴の一つでもある。

CSは学生のうちからプロの傍で本番を経験することができ、自らも市民を牽引しながら成長していけるポジションだと吉田さんは言う。

現場で合唱団員と、共に成長し、応援し合える仲間のような関係を築けるため、吉田さんがプロのテノール歌手となった今も応援し続けてくれているそう。

市民オペラの中で育まれたプロの道への想い
市民オペラとは『音楽の本来あるべき姿なのではないか』と吉田さんは言う。

専門的な知識やその道の背景があるわけではなく、「好き」という気持ちを軸に集まったメンバーが、工夫を凝らし身体全体で自分たちの「好き」を体現する。

「好き」だけではなかなか立ち行かないプロの舞台には見られない、純粋で、愛おしい世界だそうだ。

立川市民オペラと自身の思い出を振り返る

「歌うことが好き」その一心で国立音楽大学の入学を果たし、現在はプロテノール歌手として活躍している吉田さんだが、実は音大受験を意識し始めたのは高校2年生頃と、比較的遅めだった。

中学時代は野球、高校時代はサッカー部とバンド、そして立川市民オペラ学校の3足の草鞋を履き、「日本の次世代リーダー養成塾」など興味のある活動には学内外問わず積極的に参加していた。

進路を考えた時、兄からの「自分がやってきたことをどれだけポジティブに捉えられるかが社会で役に立つことだ」という言葉にも後押しされ、大学4年間を費やすならば好きなことをやろうと考えた結果、『好きなこと=歌うこと』という軸にたどり着いたそう。

兄とのやり取りの中で見えてきた「歌うことへの想い」

答えはシンプルだが、吉田さんの家系には音楽を生業とする人はおらず、不安や心配もあったが、自分の軸からブレることなく、プロのテノール歌手となり、「純粋に歌が好き」という軸からブレずに活動を続けている。

ホームグラウンドでの原点回帰と次世代への循環

難しいことを抜きに『好き』という気持ちで集まった市民オペラの土壌で育まれた吉田さんのプロテノール歌手としての想いは今も尚、純度が高く、「僕のように『好き』という気持ちでどこまでもいける、という人がプロの中にいても良いのではないか。

「自分の中にある〇〇が好きという軸でどこまでもいけるロールモデルとなり、僕と同じように好きの気持ちで突き進んでいこうとしている次世代を担う子ども達を応援できる存在になれたらいいと思っている」と語る。

『オペラの門を叩いたここ立川で、次世代を担う子供たちを応援したい。』吉田さんの歌声には過去・現在・未来を繋ぐ想いが込められている。

立川市民オペラ学校修了公演時の高校生の頃の吉田さんの貴重なお写真(写真中央)

その証拠に、吉田さんの経歴をよく見ると「コンクール参加」の文字は無い。

それは、「歌手として研鑽を積む過程で、自分のなりたいロールモデル、やりたいことに、コンクールや留学経験が必ずしも必要だと思わなかった」からだそうだ。

吉田さんは、自分が好きな「歌うこと」を軸に、次世代を応援できるロールモデルになり、古巣である立川市民オペラをはじめ、生まれ育った多摩地区へ恩返しをしたいと考えていると言う。

「オペラは歌、音楽、脚本、衣装、小道具、様々な見所があり、1つのステージで子ども達にたくさんの刺激を提供できるお得な経験。何か1つでも心に刺さるものがあるといい。たくさん経験したその先で、その人の軸となる『好きなこと』に結びつくはずだから」と。

オペラを始めたここ立川の地で、吉田さんの次世代の担う子供たちのロールモデルとしての一歩も踏み出したいと語る吉田さん

自分がオペラ歌手の一歩を踏み出した場所で主役を演じ、そして今後はこの地でオペラの裾野を広げていきたいと語る。

立川市民オペラは吉田さんにとってのホームグラウンドであり、原点回帰の場。

さらに吉田さんが次世代へ伝えていく循環の場にもなっていく。

立川で育まれた文化が時を経てその地に新たな風をもたらし、文化が熟成されていく。

我々はまさしくその瞬間に、この立川の地に生きている時代の目撃者なのではないか。

立川市民オペラ連載2年目にしてそう思わずにはいられない、時代の立役者の言葉を聞いた、そんな取材となった。

次回の取材では、稽古中の吉田さんにお話を伺う予定だ。本番へ向けての緊張感と想いの丈を皆さんにお伝えするべく、現場へ足を運ぶ。

吉田連
5月12日生まれ、東京都出身。
立川市民オペラ合唱団の前身となる立川市民オペラ学校卒業生。
卒業後もコーラスサポートとして立川市民オペラに携わり、立川市民オペラ学校卒業生初の立川市民オペラの主演を演じる。
国立音楽大学音楽学部演奏学科声楽専修卒業、声楽コース修了。
同大学院音楽研究科修士課程声楽専攻(オペラコース)修了。
第81回読売新人演奏会に出演。二期会オペラ研修所57期マスタークラス修了。(奨励賞、優秀賞を受賞)
声楽を飯野英恵、角田和弘、久岡昇、岩森美里の各氏に師事。

2020年9月よりオペラ歌手、アニメーション作家の仲間とともにYouTubeチャンネル「それいけ!クラシック」を開設。
オンラインでのクラシック音楽の裾野を広げる活動にも積極的に取り組んでいる。
近年はその活動が認められ、東京二期会や碧南市芸術ホールとのコラボ動画制作をするほか、22年、23年には名古屋フィルハーモニー交響楽団との共演も果たしている。

吉田連さん 公式HP

それいけ!クラシック公式HP

立川市民オペラ2024 ドニゼッティ作曲 歌劇「愛の妙薬」公演情報

 

■連載企画「立川市民オペラ2024ドニゼッティ作曲 歌劇『愛の妙薬』」

vol.1 立川市民オペラの会市民委員に迫る

<関連リンク>

立川市民オペラ

立川市民オペラ合唱団

立川管弦楽団

 

(取材ライター:natsu)