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「第18回 石田倉庫のアートな2日間 2025」レポート(後編)https://ishidasoko.wixsite.com/arts/blog

「第18回 石田倉庫のアートな2日間 2025」が11月8日土曜、9日日曜に石田倉庫 アトリエで開催された。
レポート後編では、8日に行われたライブイベントや、スロープ下とNO.5棟のアーティストの今年の展示の一部と、代表の想いを特集する。

2025/11/08 (土) 2025/11/09 (日)
開催場所

石田倉庫アトリエ

2025.12.02

レトロな魅力のスロープ下


左側の斜面は立体駐車場の上階に続く緩やかなスロープ。その下にあるアトリエがスロープ下と言われている

NO.3の入り口から入ると、奥にスロープ下という一角がある。

木枠の外壁やくもりガラスのレトロなファサードが、昭和の時代を感じさせる。

中にはネイルサロンも含む4つのブースがあった。

その中で、金属造形のアーティストである安東 桂さんにお話を聞いた。

柔らかな笑顔の安東 桂さんは、居心地の良いアトリエでお話を聞かせてくれた

金属造形の作家、安東 桂さんは、途中部屋移動をしながら石田倉庫 アトリエの中で、13年以上制作活動を続けている。

安東さんの作品は、銅板を用いて細かな造形を実現する、ろう付けという技術で溶接を行っているそう。

「アトリエでは火も使えるし音を出しても良いので、思い切り銅板を使った制作物が作れる」と話してくれた。

絶妙なバランスの造形のみならず、計算されたような緑青が美しいタツノオトシゴの作品「よるのゆりかご」

美しい緑青が目を引くタツノオトシゴの作品は「よるのゆりかご」という名前。

作品名から詩的なイメージが湧くよう考えられているようだ。

部屋の中に並んだ作品には、小さいものにも繊細な細工がなされている。

「パンと笛」は、神話の中のパンという神をモチーフにしている

安東さんは古いものや、神話の世界に興味があるそう。

「パンと笛」という作品には、ギリシア神話の半獣神「パン」が象られている。

モチーフである「パン」は音楽と文化の神でもあるらしく、親しみを感じるような表情が魅力的だ。

下半身が動物で、角もある変わった生き物。作品名は「四肢のカタチ」という

半人半獣の不思議な生き物を表した「四肢のカタチ」は、かけられた白い壁にユーモアを生じさせるように見えた。

安東さんの話を聞いて、はるか昔の人々の想像力が、何千年たった今でも継承され、形になって、私たちに届けられていると感じられた。

たくさんの道具たちがずらりと並べられ、普段から仕事場として機能的に使われる様子がうかがえる

ずらっと道具の揃ったアトリエは、安東さんにとって創作とプライベートを分けるためにも必要な場所だそう。

安東さんにとって「アートは作品を作ることではなく、生きることの一部だ」という。

そのために、石田倉庫アトリエが必要とされていることが伝わってきた。

ワークショップ開催時間になると子ども達が走って部屋に入ってきた。それぞれにアイデアを紙に書きだしている

時間になると、ワークショップ「金属の板でレリーフを作ろう」が始まった。

子ども達がアトリエの机の上で、小さい手を動かしそれぞれのイメージを描き出す。

これを銅板に写して立体的なレリーフに。

出来上がったものをどこに飾ろうか、おしゃべりしながら楽しく進行していた。

心をほぐし参加者が一体となるNO.5のイベント


昼時になると来場者数は増え、飲食ブースには飲み物や食べ物を買い求める人たちが集まる

11月の心地良い気候の下、フードスペースも豊富なアトリエ祭は、昼食目当てで立ち寄る人もいる。

ドラム缶の上にここで買った食事や飲み物を置いて、思い思いに過ごす参加者の姿があちこちで見られた。

NO.5の一階、「アーティーズ」の前にあるステージでは、音楽やダンスのイベントが行われた。

ステージでは音楽イベントが。人が輪を作り心地よい音楽に身を任せている

穏やかな秋の光が射しこむ中、Shizuho&Barnabyのステージが始まると、歌声が集まった人たちを包み、ハンドメイドギターとキーボードの演奏が響いていた。

音楽とアートのコラボレーションは、このアトリエ祭の名物にもなっているようだ。

「第18回(いい葉の会)を祝しみんなで踊ろう!葉っぱのダンスー光合成―」では、老若男女問わず、ステージ前で体を思い切り動かす時間に。

講師の群馬直美先生は、全身を使った躍動感のあるダンスを見せてくれた。

大きな木の下のステージで、参加者たちがダンスを通じて一つになる感覚を味わった。

古楽器を響かせながら演奏する「Sanpin」のステージ

「Sanpin」の演奏では、エスニックなリズムに観客はじっと聞き入っていた。

アートの刺激を受けた後、音楽に没頭することで癒しを得ているのかもしれない。

ドリンクを片手に、秋の昼下がりをまったりと過ごす来場者たちは心からくつろいでいるように見えた。

NO.5二階 自由なアートとの出会い


NO.5二階への階段から見下ろした風景。とても柔らかい木漏れ日が目に優しい

NO.5のステージ前の木のうらにある急な階段を上がって、7つの展示のある2階へ。

ここでは代表でもあるtonoharunaさんに話を伺った。

tonoharunaさんはアトリエと、創造遊び場を隣接させ、活動している

抽象画家のtonoharunaさんはアトリエを構え、その隣で「はるのとなり」という創造遊び場も運営している。

入口には、「あなたの価値はどこにありますか?」という、ドキッとさせるような問いかけが鏡に書き込まれていた。
tonoharuna | 立川ビルボード

創造遊び場には作品を展示している生徒たちが駆け付けた。楽しそうな表情に、日ごろの活動の様子が垣間見られる

tonoharunaさんは、「創作には技術を教え込む前に、個人の感性やときめきが大切だ」という。

創造遊び場は「心をほぐす場」を目指しているそう。

その考えを受けて、それぞれの感性のままに表現された作品たちが自由に部屋を飾っていた。

tonoharunaさんのアトリエでは大型キャンバスの絵画が圧倒的な存在感を放っている

アトリエでは壁にかかった大きなキャンバスの絵画が目を引く。

明るいトーンの淡い色合いの作品に囲まれていると、幸せな気持ちが湧いてくるようだ。

そうした絵を写した御朱印帳や、メッセージカードなど、持って歩きたいと思うような美しいアイテムが並ぶ。
柔らかな雰囲気の絵画と、深いメッセージの間には、ありのままの自分自身が求めるものを創作の起点とする、tonoharunaさんの芸術観があるのだと感じられた。

アトリエ祭に込めた代表の想い


2日目、11月9日日曜に行われたアーティストトークの様子

今年は、代表のtonoharunaさんが、映画上映や、地域アートマーケットなど、新しい企画を次々と実現させた。

2日目には、アトリエの入居者の魅力を伝える、アーティストトークを行った。

今後もアトリエ祭で積極的に自分たちの作品や考え方をオープンにすることで、より深く地域とつながるイベントにしたいという。

駐車場案内や警備を行うスタッフの二人。(写真左から)小説を書いている岡トトキさん、アニメーター中島司さん

アトリエ祭を支えるスタッフにも、アートや創作にかかわる若手が集まっていた。

岡トトキさんは、「息苦しさのある今の時代にこそ、アトリエ祭のような、非日常のアートや音楽が人をつなぐ場が必要だと実感した」と話してくれた。

また、中島さんは「他の美術イベントにも関わっているが、アトリエ祭は、大人も子どもも楽しめるところが良い」という。

アートの力を信じるスタッフが、現場を裏で支えているのだろう。

tonoharunaさんは、代表として、石田倉庫アトリエを地域に開いていきたいと笑顔で話してくれる

石田倉庫のアトリエ祭は、来場者がアーティストと触れ合うことで、その考え方にもリンクできる特別な時間を提供していた。

東久留米在住の外国出身者は、子ども達が自由にアートを楽しんでいる姿を見て、次回は自分も家族で来たいと思ったそう。

アトリエ祭を作る入居者たちの想いは、来場者に確実に伝わっていると言えるだろう。

■2025 石田倉庫のアートな2日間
2025年11月8日 (土) ~11月9日 (日)
https://ishidasoko.wixsite.com/arts
開催場所:東京都立川市富士見町2-32-27

2024 石田倉庫のアートな2日間〜どーも。おひさしぶりです展 | 立川ビルボード
(取材ライター:設樂ゆう子)