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国立らしくて、国立らしくない/元編集者が営む昭和レトロな「おうちギャラリー」

ギャラリービブリオ

国立駅、富士見通り沿いのブックオフがある辺りに、かつて「富士見湯」という名の、国立市最古の銭湯があった。
60年前、その裏に一軒の家が建てられた。富士見湯の経営者・十松家の住宅である。

それから時を経て、十松家住宅は「ギャラリービブリオ」に生まれ変わり、多くのお客さんを楽しませている。

2024.07.29

まるで、バートンの絵本「ちいさいおうち」のようなギャラリー

バージニア・リー・バートンの「ちいさいおうち」という絵本をご存じだろうか。

『ちいさいおうちは、ピンクの壁に素敵な窓と玄関。静かな丘の上に建っています。しかし、時の流れで周りの景色は変わり……』、

というストーリーの名作絵本だ。

今回ご紹介する「ギャラリービブリオ」、前・十松家住宅は、いつのまにか国立駅前エリアで一番古い家屋となった、さながら「昭和のちいさいおうち」のようだ。

茶色のペンキの壁に赤い屋根。十松家住宅が建築された昭和40年当時、この辺りでは目立ってモダンな家だった。

設計施工したのは、大工の棟梁・山上弥一さん。

この辺りの沢山の家を建てた名工である。

数年前まで国立にあった料亭「夏の家」も、この山上さんによるもの。

しかし、今、残っている家屋はここだけになってしまった。

昭和30年頃の富士見湯 (画像:ギャラリービブリオ提供)

「昭和のちいさいおうち」は、2012年、住居としての役割を終え、「ギャラリービブリオ」として新しい道を歩み始める。

十松家住宅3代目で店主の十松弘樹(とまつ ひろき)さんに画廊内を案内してもらった。

1階には畳敷きの展示室と小会議室、2階には小会議室とアーティストに宿泊場所として提供している小部屋がある。

改装は最低限に止めてあり、傷みがそれほどでもない北側は建具もそのままに残されている。

日本家屋の特徴である欄間や床の間、神棚、掘り炬燵も現役だ。

それに加え、山上棟梁の工夫がそこかしこに施されていて、さすが名工と唸ってしまった。

まさに、失われつつある昭和の庶民の暮らしを知ることが出来る貴重な建築である。

そこを活用することで、懐かしくも斬新なギャラリーが誕生したのだ。

昭和家屋らしい部屋や廊下には、現代アート作品が飾られ、まるで美大生の下宿屋を思わせる独特の趣がある。

店主によると実際、映画の撮影にも使われているという。

良い意味でキレイにしすぎない本物のレトロさが、このギャラリーの持ち味だろう。

沓脱石に残る猫の肉球跡。建築当時、コンクリートを固める際に付いた60年もの

年代物の真空管ステレオ/小会議室

昭和家屋らしい急な木の階段

どの部屋にもアート作品が飾られている/2F小会議室

 

「病を抱えた時、やりたいことをやろうと決めた」

ギャラリービブリオは、展示・イベント内容も多彩でユニークである。

どうしてこの様なギャラリーを作ることが出来たのか。

店主の十松さんにこれまでの経緯を伺った。

ギャラリーをオープンするまでの経緯を教えて下さい。

(十松さん) ずっと編集者をやっていたのですが、49歳の時に脳梗塞で倒れまして、約半年間休職した後、職場復帰しました。

しかし、見た目には分かりづらいのですが障害が残りまして、これまでと同じように働くのが難しくなりました。

そんな中、「やりたいことをやって生きた方がいいのではないか」と思うようになり、51歳の春、退職してギャラリーを開業することにしました。

初個展は、編集者時代に親しかった画家・イラストレーターの林静一さんです。

その前のプレオープン企画では、ライター・書評家の岡崎武志さんの一人古本市や、小説家の長野まゆみさんの個展・グッズ販売を開催しました。

銭湯絵師・丸山清人さん/ライブペインティングによる銭湯背景画

お客さんの反応はいかがですか。

(十松さん)「入りにくかったけど、入ってみたらすごく面白い」、「国立らしいようで国立には今までなかったようなものが見られる」なんて言われますね。

国立らしくないというのは、目指したわけではないんですよ。

図らずもそうなったっていう感じです。高円寺や阿佐ヶ谷、下北沢っぽいと言われることもあります。

 

ポジティブに!面白さを見出す力、好きになる力

そもそも、十松さんがそういうテイストのものが好きなのでしょうか。

(十松さん) そういう意識はないんですけどね。ただ、出会ったものの中に面白さを見出すのは上手なのかもしれません。

「面白がる力」や「好きになる力」、そういうものが強いのだと思います。

それは元々?それとも、編集者時代を通して身に着けたものですか。

(十松さん) 編集者時代に身に着けたスキルかもしれません。企画を考える時は、ポジティブシンキングを大切にしてきました。

決めつけることはせず、「よく分からないけど面白いかもしれない、やってみようか」と考える。

あと、無理な企画を上司に通すプレゼン力も付いたかも。今はもう上司はいないんですけどね(笑)

 

なぜ、国立にはアーティストが多く住むのか?

先日開催された「国立うちわ市」を観覧しました。

「国立うちわ市」は、国立ゆかりの作家やアーティストが、それぞれうちわに絵を描くという企画展示ですが、国立ゆかりの方がこんになにもいるのかと驚きました。

なぜ国立には作家やアーティストが、多く住んでいるのでしょうか。

(十松さん) 僕も不思議なんですけど、アーティストにとって適度に田舎で適度に街という土地柄が住みやすいんじゃないかな、という気がします。
 
以前、絵本作家の田島征三さんが当廊でのトークショーで話されていたのですが、1960年代半ば、国立市に児童文学作家・翻訳家の今江祥智さんが住んでおられて、それを慕って引っ越してきたのが、絵本作家の田島征三さん・西村繁男さん、動物画家・絵本作家の薮内正幸さんだったそうです。

みなさん、国立で切磋琢磨されて、それぞれキャリアを積み、その後、別の街へ引っ越されました。

かつては、ミュージシャン志望の若者が住んでいた「ぶどう園アパート」もありましたし、変わった人たちを受け入れる土壌が国立にはあるのではないではないかなと思います。

あとは、40年以上前に国立音大があったことも影響として残っているのかもしれません。

何処かしら、音楽が聴こえてくるような街でしたから。

国立うちわ市に参加して下さっている作家さんたちのほとんどは、国立市出身ではなく、他の地域から引っ越してきた方ばかりですので、国立に住みやすさを感じたのでしょうね。

 

「街と本と平和」をキーワードに

「国立うちわ市」は毎年恒例の人気イベントですね。ギャラリービブリオさんの発案ですか?

(十松さん) この企画は、元々はかつて同じく国立市にあった「ギャラリーエソラ」のオーナーが発案したものです。

「市内各地でうちわ市をやって地域を盛り上げたい」との思いから始まりました。

その後、エソラのオーナーが亡くなって閉店、今、開催しているのはうちだけになりましたが、今年で12回目になります。

参加している作家のみなさん著名な方ばかりですが、あまりに破格の値段で、何度もプライスリストを見直してしまいました。

作家さんとの信頼関係の強さと、なにより作家さん自身がこの企画を面白がっているのかなと感じました。

みなさん趣向を凝らしていて、見ていて面白い!

(十松さん) そういうことですよね! ピューと描いて終わりにしてもいいくらいの値段設定なんですが、段々みなさん面白がって採算度外視で描いて下さっています。

国立うちわ市/展示室 (画像:ギャラリービブリオ提供)

今後、ご予定しているイベントを教えて下さい。また、どの様なギャラリーにしていきたいとお考えでしょうか。

《開催予定イベント》 *詳しくはこちらのサイト https://www.gbiblio.jp/

◇ 8月1日(木)~12日(月祝) 塚本やすし絵本原画展 「焼けあとのちかい」
◇ 8月17日(土)/18日(日) YO-EN唄会 「黄昏に恋して⑳ 2DAYS」
◇ 9月12日(木)~24日(火) 『ちきゅうパスポート』 原画展

(十松さん) 『焼けあとのちかい』(大月書店)は、ジャーナリスト・作家の半藤一利さん原作によるもの。

中学二年生の時に東京大空襲に遭い、九死に一生を得た経験を描いた作品です。

それを絵本にした塚本やすしさんの原画展を行います。

半藤さんは後世に伝えたい言葉として、『戦争だけは絶対に始めてはならない』 と言っていました。

YO-EN唄会 「黄昏に恋して 2DAYS」 は、今回で20回目になります。

YO-ENさんは作家の嵐山光三郎さんも絶賛する歌い手で、毎回、満席の人気イベントです。

『ちきゅうパスポート』 (BL出版)は、24人の絵本作家が地球に暮らす子どもたちへのメッセージとして描いたジャバラ絵本。

収益の一部が、ウクライナの子どもたちの支援のために使われます。

日本各地で巡回展を行っていて、ギャラリービブリオでも開催することになりました。

驚いたことに、『ちきゅうパスポート』 に参加している絵本作家さんの4分の一が国立ゆかりの方なんですよ。

小さい街ながら、これだけ多くの作家がいるということは、「国立の宝」だと思います。

ぜひ、これからも盛り上げていきたい。

もうひとつのキーワードは「本」。

「ビブリオ」とは「本の」又は「書誌学」という意味。

本の周辺の面白いものを見つけて、多くの方に楽しんでもらえたらと考えています。

最後に、今この時代で思うのが「平和」です。

このことも、意識してやっていきたい。「街と本と平和」。

それらを考えていきたいと思っています。

とは言え、面白いことがあれば何でもやっていきたいとも思っているんですよ。

ポジティブに、どんなことでも決して冷笑せず、面白がるってことを入口に、僕自身、面白がっているものを見せたい。

それを、お客さんが「面白いね」と言ってくれたら最高ですよね。

店主・十松弘樹さん/手に持っているのは木製のトラック
ギャラリービブリオを建てた山上棟梁が作ってくれたもの

■ギャラリービブリオ
所在地 /東京都国立市中1-10-38
定休日 /水曜日
営業時間 /11時~19時(会議室は21時まで)
営業内容 /レンタルギャラリー、レンタル会議室、企画展・イベントの実施

◇「ギャラリービブリオ」サイト https://www.gbiblio.jp/
◇店主ブログ https://ameblo.jp/banka-an/

ギャラリービブリオ

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ギャラリービブリオを建築した山上弥一さんのお孫さん・山上一郎さんは、立川市で住宅や店舗を多数手掛ける建築デザイン会社「KITORI」を営んでいます。

以前、当サイトでもご紹介させて頂きました。

(ライター 岡本ともこ)