
TACHIKAWA
BILLBOAD
東京・立川周辺のART&CULTURE情報
GREEN SPRINGS
つながりと気づきが生まれるユニバーサルチャリティイベント

会場となった「GREEN SPRINGS」は、JR立川駅から徒歩約8分、国営昭和記念公園に隣接する複合施設。
心身ともに健康的で心地よい状態を意味する「ウェルビーイング」をコンセプトに掲げており、350種類以上の植物やビオトープが点在する緑豊かな空間が特徴だ。
2020年のオープン以来、市民の憩いの場としても親しまれている。

「PARA HOOP FES!」は、さまざまな違いを持つ人々が互いを尊重し、個性を発揮できるユニバーサルチャリティイベントだ。
福祉・アート・市民活動に携わる団体が集い、多様な人々が交流しながら新たな気づきや理解を育む場として、年に一度開催されている。

今回は、「車椅子体験」と「デジタル化」をテーマにした企画を中心に、イベントの様子を紹介する。
第2回、第4回のレポートでは、イベント主催者の想いや、アート展示、手話講座などについて詳しく紹介している。
ぜひあわせてご覧いただき、「PARA HOOP FES!」の歩みや多彩な魅力を感じてほしい。
▼Vol.2レポート
https://tachikawa-billboard.com/report_list/parahoopfes
▼Vol.4レポート
https://tachikawa-billboard.com/report_list/parahoopvol4
車椅子体験を通して、福祉をもっと身近に

第1回の開催時から車椅子体験ブースを展開しているのが、「ボランティア・市民活動センターたちかわ」。
ボランティアに関する情報提供やコーディネートを行っている地域の団体だ。
担当の倉品真隆さんに話を伺った。
「今回は、乗っている本人が自分で動かせるタイプの車椅子を用意しました。
車椅子は、実際に乗ったり操作したりしたことがない方も多いんです。
お子さまから上は90代の方まで、幅広い世代の方が参加してくださっています」
私がブースを訪れている時も、祖母と2人の孫が交代で車椅子を押し合う姿が見られた。
笑顔で楽しみながら体験しているのが印象的で、肩肘張らずに、気軽に車椅子と触れ合える、よいきっかけとなっているようだった。
「このフェスは街の真ん中で開催されるので、多くの方に立ち寄っていただけます。
福祉と一言でいっても幅広いものですが、まずは自分で体験し、考えてもらえることを意識して、日々の活動に取り組んでいます。
こうした機会をきっかけに、福祉に目を向けていただけたらうれしいですね」

触れて、聞いて、知る。視覚障害の世界

「視覚障害者が活用するデジタルツールを通じて、『見えない世界』を体験してもらいたい」。
そんな思いから企画されたのが、立川市視覚障害者福祉協会による「デジタル化〜私たちもゆっくり一歩前へ〜」。
デジタル化をテーマに取り組みを展開するのは、今回が初めてとなる。

入り口の目の前に設けられていたのは、視覚障害者が普段どのようにスマートフォンを活用しているのかを体験できるブースだ。
担当を務めるのは、視覚障害当事者のおくざわゆうやさん。写真に写っている内容を音声で読み上げるアプリをはじめ、電話のかけ方やSNSの利用方法などを実演しながら紹介してくれた。

視覚障害者の歩行をサポートするナビゲーションデバイス「あしらせ」を体験する高校生の2人。
「あしらせ」を靴につけ、専用アプリに目的地を設定することで、振動でルートを案内してくれるという。
体験後、高校生の一人は「何も見えないのは、思った以上に怖かったです。
白杖が何かに当たったとき、『何だろう』とすごく警戒しました」と話してくれた。
初めての“見えない体験”に戸惑いながらも、視覚障害者の日常に思いを巡らせるきっかけになったようだ。

ゲームを通して視覚障害への理解を深められるのが、「目隠しオセロ」だ。
盤面と石が一体化しており、黒色の面には溝、白色の面には凹みがあるため、手で触れるだけで石の色を判別できる。
高校生たちは実際にゲームを楽しみながら、視覚に頼らないコミュニケーションや遊び方を体験していた。

立川市朗読サークル「こえ」のブースでは、音訳した図書の読み聞かせを行っていた。
専用の再生機器を操作すると、章ごとに音声を再生できるほか、聞きたい箇所へ移動することもできる。

カラフルで立体的な布絵本を展示していたのが、絵本の読み聞かせや布絵本づくりに取り組むボランティア団体「ぐる〜ぷ遊楽子(ゆらこ)」だ。
布地やボタン、ひもなどを使って作られた布絵本は手で触って遊べるもので、目の見えない人だけではなく、誰もが楽しむことができる。
SNSで偶然イベントを知り、来場したという男性に話を聞いた。
「困りごとを抱えている人が、どのような状況に置かれているのかを知りたくて来ました。
普通に生活していると、なかなか知る機会のないことばかりでした。
私は普段、高齢者介護の仕事をしています。
利用者の人の目が見えづらくなったり、視覚に障害のある人が来所したりした際に、今回の体験を活かして提案の幅を広げていけたらと思っています」。
「デジタル化〜私たちもゆっくり一歩前へ〜」を企画した立川市視覚障害者福祉協会の佐藤譲二会長は、「視覚障害者の暮らしを取り巻く現状を伝えたかった」と話す。
「僕らにとって、目が見えないことは特別なことではありません。
日常的な、当たり前のことです。
そういう意味では、特別な見方をせず、普通にお付き合いいただけるとうれしいですね。
今回、一番伝えたかったのは、視覚障害者の今の生活を知ってもらうことだけではありません。
デジタル技術の進歩によって、これから先、視覚障害者の暮らしがどのように変わっていくのかを感じてもらいたいと思っていました。
もちろん、変わってほしくないものもあります。
たとえば布絵本のような、手で触れながら楽しめるものです。
従来のものと新しい技術が、うまく融合していければと考えています」。
毎年楽しみに訪れるアートパフォーマンス

毎年恒例で人気を集めているのが、アートパフォーマンス。
障がい者アートの普及や展示活動を行う市民団体「アール・ブリュット立川」が企画・実施している取り組みだ。
アーティストの林航平さんが展開する「ペットの粘土細工」を依頼した来場者に話を聞いた。

イングリッシュブルドックのべんつくん
「GREEN SPRINGSは、普段の散歩コースなんです。
毎年このフェスに来ていて、今年で3回目。
今回は、スイカをテーマに作ってもらいました。
昨日は作家さんが忙しかったようなので、写真を渡しておいて、今日、作品を受け取りに来ました。
体の柄も忠実に再現されていて、すごいなと思います。
友達にも、作ってもらったんだって、いつも宣伝しています。
これまでは、障がいのある方が作ったコーヒーやクッキーを購入したことも。
よいイベントだなと感じています」。
つながりの輪が育むウェルビーイング

イマジネーションプロみなみかぜのボニー・小野さん(左)とGREEN SPRINGSのイベント担当者
今回のイベントを企画した株式会社イマジネーションプロみなみかぜのボニー・小野さんは、イベントに込めた思いをこう語る。
「高校時代に赤十字のサークルでボランティア活動をしていて、手話や点字、障がい者施設でのお手伝いなど、さまざまな経験をしてきました。
ただ、社会人になってからは、福祉に触れる機会が減ってしまって。
GREEN SPRINGSがオープンした2020年は、ちょうど東京オリンピック・パラリンピックの時期(実際には2021年開催)でもありました。
“障がいのある方と一緒にイベントができないか”と考えたことが、このフェスの始まりです。
6年目を迎え、毎年来てくださる方や出店を楽しみにしてくださる方も増えてきました。
継続することで、だんだんと地域に馴染んできたと感じています。
イベントの副題は『つながろう!輪になろう!』。
一人では難しくても、皆がつながることでできることがあるはず。
このフェスは、誰でも気軽に参加できる、障害の垣根を超えた交流イベント。
障がいのある方と触れ合ったり、手話やこれまで知らなかったコミュニケーションツールを体験するなかで、新しい世界に出会うきっかけとなればうれしいです」。
GREEN SPRINGSのイベント担当者にも話を聞いた。
「来場者の様子を見ていて印象的だったのは、子どもたちの『これ何?』という声から、親子で福祉について考えるきっかけが生まれていたこと。
また、障害のある方同士が久しぶりに再会し、交流する場にもなっていました。
GREEN SPRINGSでは、開業当初から『ウェルビーイング』を大切にしてきました。
心も体も健康でいられること、その実践の一つがこのイベントだと考えています。
お食事やショッピングなどの目的がなくても、新しい発見や心地よさを見つけられる場所です。
ぜひ気軽に遊びに来ていただけたらうれしいです」。
紫陽花が咲き始めたほがらかな休日。
PARA HOOP FES!では、障がいのある人もない人も、ともに学び、語り合う時間が流れていた。
人と人との輪から生まれる出会いや気づきが、誰かにとっての「ウェルビーイング」につながる。そんな可能性を感じる一日だった。

(取材ライター:原田美緒)