TACHIKAWA
BILLBOAD

TACHIKAWA BILLBOAD東京・立川周辺のART&CULTURE情報

news

野外劇「2100年のファーレ」〜アートと人と〜

JR立川駅から北へ5分ほど歩くと「ファーレ立川」と呼ばれるアートの街があり、世界各国の作家が手掛けた109点のパブリックアートが点在している。

この街が誕生してから今年の10月13日で満25年となるが、作品は一つとして欠けることなく、美しさが保たれている。
長い年月の間、多くの人々の手によって手厚い保全活動が行われてきたことは、ファーレ立川を知る人々から高く評価されているが、その道は決して平坦ではなかっただろう。

3月23日の「ファーレ立川アートミュージアム・デー」で行われた野外劇「2100年のファーレ」は、楽しいお芝居であったと同時に、この街の未来について考えさせられるものだった。

2019.04.01

会場となったのは、フランスのジャン・ピエール・レイノーさんの作品。
白い石造りの庭に、高さ5mという巨大な赤い植木鉢が置かれているオープンスペースだ。
普段は小さな子どもの遊び場や、待ち合わせの場所などにも利用されている。

 

真冬に戻ったかのような酷寒の中、野外劇場に設けられた会場では、薄手の衣裳をまとっただけの出演者が笑顔で観客を迎える。
時おりパラつく冷たい雨にもかかわらず、会場はほぼ満席だ。

 

鮮やかな赤の大きな植木鉢は、くすんだ緑色の布に覆われ、荒廃した森を表している。
ここは、2100年のファーレ立川という「都市の森」。
昔からアートの姿をした妖精たちが棲んでいる。

 

植木鉢の妖精と名乗る二人の少女が登場し、美しかった緑の森が、長い年月の間に荒れ果て苔生(こけむ)してしまったことを語り、うなだれる。

 

そこへ表れた一人の老婆。
老婆は、この街で生まれた少女「ネガイ」の年老いた姿だった。

 

幼い頃は明るく無邪気だったネガイは、小学校に入ると友達にいじめられるようになった。
悲しくなったときには森へ来るようになり、いろいろな妖精に出会う。
様々な妖精たちの慰めや励ましを受けて、ネガイは少しずつ強くなっていく。

 

ある時は、「支配者」と名乗る悪者の妖精に取り込まれそうになったネガイを、バイク乗りの妖精が助けに来たこともある。

 

 

成長したネガイは将来の目標を見つけ、北海道の大学に進学すると決めたのに、行かなかった。
行けなかったのではなく、「行かなかった」のだと、うつむくネガイ。

もう一歩が踏み出せない自分をもどかしく感じながら、別の大学へ進み、別の分野を専攻し、それとは全く関係のない会社へ就職した。
やがて結婚したネガイだったが、プロポーズの甘い言葉とはかけ離れた現実の生活に疲れていく。

 

 

そんなときに表れた「影のような」男が、今までに出会った妖精たちからのメッセージを届ける。
「空間ゲートを抜けて!星の宿を目指せ!」

 

妖精たちが次々に現れ、ネガイは「行かない」をやめて、「行く」決心をした。

 

そこへ悪者の「支配者」が強力な武器を持って再来するが、蹴散らされる妖精たちを救うために「バーベルを持った花嫁」が突入し、悪者を退治する。

 

 

「そろそろ帰らなきゃ」というネガイの言葉に、妖精たちは去って行く。
その場に残ったネガイは、再び老婆の姿に戻る。
人生の変化と共に、いつしか森を離れたまま100歳を超えたネガイは、死期を悟って再びここを訪れたのだった。

赤い妖精たちに頼んで、この森のために少しずつ貯めてきた水を、森の地面に注いでもらう。

 

すると、植木鉢に付いた苔がはがれ落ち、森にはたくさんの花が咲いた。
ネガイはそれを見て、安心したように息絶える。
その身体を花で覆い、静かに見送る妖精たち。

 

物語に登場した妖精たちは、全て、ファーレ立川アート作品をモチーフに作られたキャラクターだ。
その他にも台詞に盛り込まれた作品名もあり、その数は30作品を超える。
ひとりでも多くの人に愛され、いろいろな形で維持・活用されていくのを一番願っているのは、他ならぬアート自身ではないだろうかと思わせる物語だった。

 

「たちかわ創造舎:倉迫康司さん」

作・演出は、倉迫康史さん。
演出家であり、廃校となった立川市内の小学校を再活用した文化拠点「たちかわ創造舎」のチーフ・ディレクターでもある。
昨年3月に同じ会場で初めて上演され、好評を得て再演されたものだ。

クライマックスで登場した一面の花の幕は、21日に立川市女性総合センターで開催された、たちかわ創造舎のワークショップで作られた作品だ。
一般参加者の大人と子どもの、たくさんの手形が花々となり、広がって咲いた。

 

 ————取材後記———
今回のファーレ立川アートミュージアム・デーでは、一般来場者に向けた募金活動も含め、「みんなでアートの街を守っていこう」というテーマが前面に押し出されていた。
一方で、「地元の住民や在職者でさえ、ファーレアートに気付いていない人が多い」という話を、アートツアーでガイドを務めるファーレ倶楽部の会員から聞いた。
街がオープンしてから25年を経過しようとしている今、改めて多くの人に「知ってもらう」「関心を持ってもらう」「情報を広めてもらう」ことが必要とされている。

 

ライター:中川内 容子
ファーレ倶楽部会員・立川ビルボード記者。ファーレ立川アートのツアーガイドと清掃活動を務めるとともに、アートに関するテーマを一般市民の視点で記事にする。

<参考URL>
* たちかわ創造舎  https://tachikawa-sozosha.jp/
* ファーレ立川アート  http://www.tachikawa-chiikibunka.or.jp/faretart/
* ファーレ倶楽部  https://www.faretclub1997.net/