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国立音楽大学はどんなところ?

色づいた銀杏木がキャンパスの中央で出迎えてくれる
ー国立音大(くにおん)の特色はなんでしょう?
澤田佳奈子さん(以下:澤田さん)「国立音楽大学はアンサンブル教育を重視しています。
ピアノ・声楽・弦管打楽器等の個人レッスンに加え、トリオやカルテットなどの室内楽からオーケストラや合唱まで、多様な演奏形態で音楽を響かせる教育内容や施設が整っています。
また時代の要請に応え、変革を続けてきた大学で、コンピューター音楽や音楽データサイエンスなどもいち早く取り入れています」
―学生の雰囲気はどうですか?
「演奏者と聴衆、教師と生徒、楽譜と向き合う時には作曲家と、様々な対象とコミュニケーションをとらなければ本当の意味で、音楽は成り立ちません。
そのため、学生はコミュニケーション能力が鍛えられ、演奏を通じて培った協同する力や忍耐力が社会で評価されています」
不動真優さん(以下:不動さん)「附属幼稚園から大学まで国立音楽大学で学んだ実感からお話ししますと、学生は『自由』をただ許されるのではなく、場面ごとに自ら考え判断するよう求められます。
それが学生のカラーとして、責任ある自由として根付いていると感じます」
―自由な精神とコミュニケーション力を発揮し、活躍する学生が多いのですね。
自由な精神を感じる100周年記念事業

広い空の下、100周年を祝う旗が連なる広場
―100周年の記念事業の始まりを教えてください。
澤田さん「100周年の記念事業として挑戦したい企画を、学内で公募しました。
数多く企画が出る中で、絞り込んでいく作業は大変でした。
中でも、『合唱行脚』は、昭和期に全国合唱ツアー等を長年実施していた歴史があり、100周年を機に復活した企画です。
教員をしている卒業生などからの、熱いエールで実現したものです。
また『ブラスオルケスター交流演奏ツアー』は、地域や卒業生の協力を得て各地でアウトリーチとして継続している企画です。
今回は、足を延ばして東北や北陸等の現地中高生と合同演奏を行っていきます。
来年7月には、100年の歴史で初めてのコンクール、『くにおんピアノコンクール』の第一回を開催するなど、新たな事業にも挑戦します」
―2024年から2026年12月まで、長期間にわたって様々な事業が展開されていきますね。
メインイベントとなる来年6月に行われる「くにおん100フェス!」について教えてください。
澤田さん「1日目はサントリーホールで『Ensemble of Memories』『Grand Gala』をテーマに掲げ、これまでの100年の歩みを振り返ります。
全国で活躍する卒業生を集めたスペシャルオーケストラを編成する予定で、合唱は在学生中心に附属生も参加し、祝祭的なステージを目指しています。

国立音大の講堂にある「カリヨン」は、演奏できる鐘の楽器であり、大学のシンボルの一つ
2日目は『Campus Harmony』と題し、キャンパス内で学生の学びの成果発表、様々な音楽ワークショップなどを行います。
学生主体で来場者と一緒に演奏する参加型イベントを実施し、大人から子どもまで、地域の皆様にくにおんを丸ごとお楽しみいただく計画です」
不動さん「楽器学資料館も学生によるミニコンサートや、学芸員課程の学生によるガイドを実施する予定です。
実践的な体験をすることで、学生にとっても良い刺激になると期待しています」
澤田さん「3日目は、立川ステージガーデンでイベント『Circle of Music』を行います。
くにおんのスターともいえる卒業生によるポップス、ジャズ、映画音楽のステージをお届けします。総合演出に武部聡志さん、総合司会にアナウンサーの加藤綾子さんを迎え、今をときめく音楽家たちが大集結する一夜になる予定です」
―3日間の豪華開催は準備する側のパワーも相当なものかと思います。各会場も出演者も魅力的ですね!
時を超えて復元されたフォルテピアノ

デモンストレーションの演奏をしてくれた宇井紗也香さん
―楽器学資料館の周年記念イベントについて教えてください。
不動さん「モーツァルト時代のフォルテピアノを歴史的鍵盤楽器制作者の太田垣至さんに、限りなく当時の素材、同じ工法で、およそ2年かけて製作していただきました。
フォルテピアノは現代のピアノと比べて、音域や、音色、楽器自体の大きさ、重さ、弦の張り方も異なります。
演奏者がキーを押し下げて音を出す際のタッチにも違いがあるなど、現代のピアノで、モーツァルトの曲を演奏する時には気づけない、曲の成り立ちや当時の演奏方法などにも想いを馳せることができるんです。
このピアノを展示し、本学で、教育・研究に活用するとともに、100周年記念イベントコンサートや公開レッスンを企画・開催しております。

現代のグランドピアノよりも、幅が狭く弦が平行に張ってある
また、演奏者が座る椅子や譜面台には、本学新一号館を建てる際に伐採したシンボルツリーを使っています。
いつの日か楽器に生まれ変わらせようと、乾燥させ、保管していた先生がいて、その意思を引き継いだ形です。
100周年に際して、学生だけでなく立川市民の皆さんに、音楽の楽しみや学びの機会を提供する記念事業を開催しています。
年間を通してコンサートとサマースクールを企画し、6月にはトマシュ・リッテルさんをお招きしてリサイタルをしました。
各作曲家が活動していた時代の楽器を「ピリオド楽器」と言うのですが、その世界的なコンクールで1位を取られた方で、学生たちも刺激になったとも思います」
―想いのこもったフォルテピアノの演奏を聴いた感想はどうでしょう?
不動さん「素晴らしい演奏でした。
楽器の特性をうまく活かしながら、本学がこの楽器に込めている想いを表現しようと、演奏してくださったと思います。
この12月にも記念事業として、フォルテピアノのコンサートがあります。
このモーツァルト時代のフォルテピアノをはじめ、国立音楽大学の所有するウィーンのフォルテピアノや、1820年頃のイギリス製のオリジナルピアノの演奏を聴ける、貴重な機会になります。
古典派の音楽を、ピリオド楽器の演奏で聴き比べることで、一口にピアノと言っても『こんなに音色と響きが違うんだ!』と、ご理解いただけるかと思います」
~次の100年へ続くあゆみ~

広い学生食堂では、名物のから揚げが人気
―これからの時代に対して何か変化していくことはあるのでしょうか?
澤田さん「100周年のコンセプトは『くにおん新世紀』といって、これまで本学に関わってくださった方々への感謝と、音楽の力を未来へつなぐことを目的としています。
国立音楽大学は、5人の創設者によって、自由な発想で、理想的な教育をする音楽学校を作ろうと、始まりました。
その精神は、柔軟に社会の要請に応えようという今の姿に繫がり、この先の100年も刻々と変化を続けながら歩みを進めていくものと思います。
記念事業の一つに、図書館が保有するベートーヴェン初期印刷譜コレクション等のデジタルアーカイブを公開するプロジェクトを進行中です。
クラシカルなものを守る姿勢と、最新技術を取り入れる未来志向な部分を併せ持った本学の魅力が、新しいレガシーの中に息づいていると、感じてもらえれば嬉しいです」

新1号館の西側にある楽器学資料館へは、階段を降りて入っていく
―お二人にとって音楽とはどういった存在ですか?
澤田さん「音楽は生活に自然に寄り添う存在になっています。
音楽文化によって社会が豊かになると伝えていきたいし、音楽を通して人と人を結びつけ、音楽の力を未来に繋げたいと思っています」
不動さん「近年は学芸員として楽器に触れているので、音楽の元となる楽器から、各国の文化や歴史を深く知ることができると実感しています。
この喜びを学生に伝えたくて、様々な活動をしています」
―不動さんには、実際の活動を見せていただいて楽器の魅力を紹介していただければ嬉しいです。
10分講座で 楽器学資料館の資料に触れる

所蔵数は2600近く、様々な国の楽器が慎重に管理されている
―楽器学資料館の取り組みについて教えてください。
不動さん「毎週水曜日は、展示室を公開しており、どなたでも無料で見学できます。
また、水曜日と金曜日の12時40分から、お昼休みの時間に、10分間で様々な楽器の解説をしています。
今日はアフリカのラメラフォンを紹介します。最近は「カリンバ」という名称で人気のある、親指で音板をはじく楽器です。
人は自分の知らないものには身構えてしまいがちですが、楽器を通じてその土地の音楽や文化を知る中で、リスペクトが生まれてきます。

市民や学生の前で楽器の解説をする学芸員の武田有里さん
アフリカの文化と日本の文化に共通点を発見したり、また違いを面白いと感じられたり。
本学の学生はそれぞれ専攻がありますが、世界各地の音楽文化をここで実際に目の当たりに、耳にして、世界観を広げてくれています。
音楽を自分で演奏することはもちろんですが、楽器自体から知識が広がり、文化と繋がってく、それが面白いなと思っています。
立川駅からも玉川上水はそんなに遠くないので、ぜひ、10分講座にもお越しください」
―音楽への想い、音楽でつながる場としての国立音楽大学の活動を教えていただきありがとうございます。
100周年行事や10分講座に参加して、生活の中に音楽を身近に感じる体験を暮らしに取り入れたいと思いました。
■国立音楽大学
東京都立川市柏町5-5-1
国立音楽大学 – くにたちおんがくだいがく – 公式ホームページ
国立音楽大学100周年[国立音楽大学100周年特設サイト – くにたちおんがくだいがく]


(取材ライター:設樂ゆう子)