
TACHIKAWA
BILLBOAD
東京・立川周辺のART&CULTURE情報
ファーレ立川

ジャン=ピエール・レイノー(フランス) 集合場所は高さ5mある大きな赤い植木鉢前
ファーレ街区の地図やリーフレットを片手にアートツアーへ出発
ガイドさんの声よく通る冬木立 丹下京子
マフラー脱ぐかつて原野のオフィスビル 野々柚子子
この企画は、ファーレ立川で活動する市民ボランティア団体「ファーレ倶楽部」と、俳句雑誌「noi」とのコラボレーションで誕生した。
ファーレ倶楽部は、立川市にあるパブリックアート「ファーレ立川アート」の清掃・案内を行うボランティア団体。
ガイドツアーでは作品の背景や見どころをわかりやすく伝えてくれる。
市民が支えるアートプロジェクトとして、地元で長く愛されている存在である。
※まちが好き、アートが好き。アートを介して人とつながる、ファーレ倶楽部。 | 立川ビルボード

ファーレ倶楽部アートガイドの志村みちよさん(右)と関口葉子さん(左)
「街は森に見立てられ、3つのコンセプトのもと森に息づく妖精のようにアート作品が設置されています」と、ファーレ立川のヒストリーから語りはじめた
高さ当てクイズ正解小六月 野島正則
煩悩より多きアートや神の留守 野々宮兎
都市空間に点在するパブリックアートに触れながら、光、風、音、街のざわめきや五感を通して、立川の日常の風景を掬い取っていく。
俳句とアート、そして都市の表情が交わる。
まさに立川ならではの文化活動を109点のアートから抜粋した作品と俳句のコラボレーションでお楽しみいただきたい。

リチャード・ウィルソン(イギリス)共同溝入口、排気口 空へと続く階段の裏面はなんと排気口
地下には本物の階段があり、機械室へ続いているそうだ 機能を美術に変化させ、街になじんだアート
どうしても地より階段うまれ冬 野口る理

ニキ・ド・サンフェル(フランス) 「会話」 生命力を表している蛇は何匹いるでしょう?
座り心地がよく、自然と対話が生まれ、その景色そのものがアートになる作品
冬の蛇めぐらせ言葉足らずの世 野口る理
「会話」という名前のベンチ冷えてをり 丹下京子
ふゆのへびあおいベンチにからみあう 春野れいん

ロバート・ラウシェンバーグ(アメリカ)「自転車もどきⅥ」
普段使っている自転車にネオンをつけ、駐輪場のサインにしたアート
夜はネオンが輝き、ケースに映った光が幻想的な空間をつくりあげるそうだ
冬麗の馬車に棲みたる微光星 吉川拓真

サンデー・ジャック・アクパン(ナイジェリア) 立川に、正装した14名のナイジェリアの首長たちが勢ぞろい
るらるらと葬儀の笛や鷲の舞 藤雪陽

植松 奎二(日本)「浮くかたちー赤/垂」
丸い自然石、ステンレスの円錐、鉄棒、鉄板、という異質な素材を緊張感あるバランスでまとめているオブジェ
ぐるり一周して異なる角度からも堪能できる

山口 啓介(日本)「Tachikawa Box」
三層になった立川の歴史が詰め込まれた地図のアート
古地図を重ねて冬薔薇のありか 北野小町
枯葉道街に軍車のあったころ 野々柚子子

昔生えていた植物のプレパラートが街の記憶を伝えている 夜にはライトアップされ幻想的なマップになるそうだ
愛されし白詰草の気鬱かな 福田春乃
街は森億年の聲耳にあて 野々宮兎

箕原 真(日本)「人の球による空間ゲート」
建築家が表現した移動可能な車止め。描いた影も作品の一部
コート手に車止めだらけの街を 野口る理

フェリーチェ・ヴァリーニ(フランス)「背中あわせの円」
ある特定の場所から見ると、円が浮かび上がる驚きのアート
どうやって完成させたのか?というクイズに講師の一人が見事正解
黒い円潜り街路に揉み合う蛇 神野紗希

依田 久仁夫(日本) 陶芸家がつくる車止めのベンチは、作家自ら何度も磨いて仕上げただけあり、頑丈だがやわらかくあたたかみが感じられる

牛波<ニュウポ>(中国) 「標的の裏側」
切り裂かれたキャンバスが縫い合わせられると、痛々しさが増しているように感じる、との声があがった作品
縫わざれば崖めく傷や冬の雲 神野紗希

冬日さす的に銃痕夥し 弓木あき
穴あらば皆指入れる冬日和 野島正則

坂口 寛敏(日本)「バーコード・ブリッジ」
ペデストリアンデッキ歩道の模様は、なんとバーコード!
バーコードブリッジ資本主義踏む冬の町 松本靖子
水仙や魂へ貼るバーコード 藤雪陽

スティーヴン・アンタナコス(ギリシャ・アメリカ)
昼、夕、夜と違った表情をつくる壁面照明サイン
クリスマス色とりどりのプレゼント 神野純

エステル・アルバルダネ(スペイン)「タチカワの女たち」
道祖神(見知らぬ人)たちがそこかしこで街を見守っている
赤い月人間の手をとどかせる 神野純

肩に乗せた月や魚を連想させるものは一体なに?とシンキングタイムも盛り上がる
皆で同じものを見ることの醍醐味を味わった
日脚伸ぶオブジェの影に影重ね 北野小町

山本 正道(日本) 石とブロンズを組み合わせた車止めのベンチ
かすかに微笑むような表情の子どもは何を思うのか?想像が膨らむ

深井 隆(日本) 木彫りの作家がつくる天使の羽根がついた車止めのベンチは神々しく、まるで王座のようだ
ユメ・トキと天使に名付け冬青空 吉川拓真
凭れれば頭上に翼雪来るか 弓木あき

イーエフペー(フランス) 夜の闇に青空が浮いているというような、視覚的な美しさが楽しめる街灯
青色の電橙冬の蝶ぱりり 弓木あき

アレシュ・ヴェゼリー(チェコ共和国) 100回もディティールを考えたというベンチ
物理学の実験のような緊張した美しさが魅力的
曖昧にバネに揺れたる冬鞦韆 松本靖子
ぐらぐらとふゆのブランコかたいです 春野れいん

アニッシュ・カプーア(インド・イギリス) ビル群より低いヒマラヤ山脈は、しゃがんで低い位置から見上げるとさらに面白い
ビルよりも低きヒマラヤ神の旅 野々宮兎
街に佇つ山脈の錆冷たしよ 北野小町

藤本 由紀夫(日本) 直径6cmのパイプを両耳にあてて、目に見えない空気の姿を聞くための装置
喧噪の中でも独特のうねりをもった音がしっかり伝わる
はつゆきは糸電話から伝う愛 福田春乃
ふゆくさとささやかれ耳こそばゆし 神野紗希

クリスマスムードで賑わうサンサンロード 俳句を詠む視点で観察しながら歩く参加者たち
立川や冬あたたかな犬の街 福田春乃

ジョナサン・ボロフスキー(アメリカ) この道祖神は作家本人の姿だそう モノレール沿いのサンサンロードには、電車内からもアートを堪能できるよう大きな作品が多いという
モノレールの腹くろぐろと行く冬天 丹下京子

右)青木 野枝(日本) 緑の中にひっそり佇む鉄の換気塔
柔らかなフォルムが秘密基地のような不思議さを醸し出している
青木野枝 | ファーレ立川アート
左)モンティエン・ブンマー(タイ) 「石鐘の庭」 西洋と東洋が拮抗する礼拝堂のようなアート
中を見ることができなかったのは残念

宮島 達男(日本) 「Luna」というタイトルの、無限に点滅する数字を使う作家がつくる作家の哲学を表現したアートな換気塔
立体に埋まる文明クリスマス 藤雪陽
散策のあとは屋内へ移動し、句会を開催。
俳句雑誌「noi」代表の俳人 神野紗希 と 野口る理を中心に、散策で得た感覚を五・七・五に結晶させるべく、時間の許す限り語り合った。
noiでは、誌友同士でアイデアを出し合い、様々な場所で吟行を開催しているそうだ。

右)【神野紗希】 俳人。愛媛県松山市生まれ。お茶の水女子大学・同大学院博士後期課程満期退学。高校時代、俳句甲子園の取材を機に俳句を始める。第1回芝不器男俳句新人賞坪内稔典奨励賞、第9回桂信子賞受賞。句集に『星の地図』(まる工房)、『光まみれの蜂』(角川書店)、『すみれそよぐ』(朔出版)。書籍に『日めくり子規・漱石』(愛媛新聞社)、『女の俳句』(ふらんす堂)、『もう泣かない電気毛布は裏切らない』(文春文庫)、『アマネクハイク』(春陽堂)『俳句部、はじめました』(岩波ジュニアスタートブックス)他多数。2025年、俳句雑誌「noi」創刊。現代俳句協会常務理事。現在、「日経俳壇」「信毎俳壇」「青嵐俳談」選者。代表句に〈起立礼着席青葉風過ぎた〉〈寂しいと言い私を蔦にせよ〉〈コンビニのおでんが好きで星きれい〉など。
左)【野口る理】俳人。徳島県生まれ。聖心女子大大学院修士課程修了。高校時代に参加した瀬戸内寂聴の文学塾を機に俳句を始める。句集に『しやりり』(ふらんす堂)。『俳コレ』(邑書林)、『天の川銀河発電所』(左右社)などのアンソロジーにも参加。2025年、俳句雑誌「noi」創刊。NHK学園オープンスクール国立本校「初花句会」講師等。代表句に〈初雪やリボン逃げ出すかたちして〉〈小瑠璃飛ぶ選ばなかつた人生に〉〈チョコチップクッキー世界ぢゆう淑気〉など。

街の色、アートの影、行き交う人々、そして風の温度。
そのすべてが一句の種となり、立川の景色を新しいまなざしで照らしてくれる。
俳句を詠むことは、街を歩きながら“いま、この場所”にしかない発見をすくい上げることでもある。
立川ビルボードが広げるアートと街歩きの時間に身をゆだね、心にふと灯る言葉をそっと掬いあげてみてはいかがだろう。
きっと、見慣れた風景の中に、これまで気づかなかった物語が立ち上がってくるはずだ。
<感想>
今回初めて立川の街中アートの存在を知りました。
ガイドさんから作品の楽しみ方のヒントを頂き、日常の凝り固まった頭がほぐれていくようで、心地よい時間でした。
アートには、見る者によって異なる解釈を受けとめてくれる懐の深さがあり、俳句に通じる部分があるように感じます。
同じ作品でも、夜になると発光したり、別の季節には周りの景色が変わったりと、その時々で感じ方が異なると思うのでまた訪れたいです。
ありがとうございました。(北野小町)
穏やかな小春日の日曜日に、初めて降り立つ立川。
シックな都市に、世界中のトップアスリートの109もの芸術作品がナチュラルに溶け込んでいました。
作品を眺めるだけでなく、触れたり音を聴いたりすることで五感が研ぎ澄まされ、空間の奥行きが広がっていきました。
普段の生活では得られない刺激を受け発想が飛び、画期的な俳句がたくさん生まれました。
立川をあとにしてからも暫く体に残る、新たな細胞が組み込まれたかのような心地良い感覚。
是非、立川に再訪し芸術の風を浴びながらみんなで吟行を楽しみたいです。(藤 雪陽)
冬晴で気持ちの良いアート吟行、とても楽しかったです。
立川の街中にあんなに有名作家のオブジェがあるなんて!
素敵な企画本当にありがとうございました。
またぜひ吟行企画してください!(丹下京子)
「吟行」とは、俳句をつくるために出かけてゆくこと。
今回の吟行は、ただ冬の街を歩くだけではなく、街の中に溶け込むアートをめぐるという、刺激的なものでした。
ガイドの方は補助線を引くように鑑賞のヒントをくれるのみ。
私たち自身が、実際に見て、触り、座り、聞き、遊ぶことで、都市の機能としてのアートを感受してゆくのです。
身体感覚、そして心を通して得た言葉が俳句となる喜びを、あらためて感じる小春日和のひとときとなりました。(野口る理)
ふだん、子どもを連れてよく遊びに来る立川に、こんなにたくさんのアートがちりばめられているなんて。
同じアート作品でも、十人いれば十人の見え方があります。
俳句はそうした個々人の世界の見え方、感じ方を大切にする詩です。
そんな多様性を大切にする俳句を介することで、ひとつのアートをめぐる多様な解釈を、十七音を通して差し出し合うことができました。
今回まわれたのはほんの一部。またぶらりと立川を訪れて、新たな作品との出会いを楽しみたいと思います。(神野紗希)
■立川アート吟行概要
イベント名:立川アート吟行
開催日:2025年12月7日(日) 13:10~17:00
主催: 俳句雑誌noi:https://noi8iku.com/
協力:ファーレ倶楽部(ファーレ立川アートガイド志村、関口)
ファーレ倶楽部:https://www.faretclub1997.net/
ファーレ立川:ファーレ立川アート
アートツアー:https://www.faretart.jp/art-tour/program/
参加者:noi誌友 14名
内容:立川アート散策(約60分)→投句→句会にて講評
(企画・取材・ライター:西野早苗)