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有賀 幹夫 : Ariga Mikio写真家https://www.facebook.com/ mikio.ariga

全面ガラス張りの大きな窓から、夏の名残の陽が差し込む。

「僕、小平が地元で、ここ『茶間茶間』の地下にある『ゴリポポレコード』によく来るの。取材前に降りて見る?」と挨拶もそこそこに、たわいのない会話が始まる。

音楽の話も写真の話も途切れることがない。
時代の移り変わりを撮り続けてきた写真家 有賀幹夫さんにお話を伺った。

2025.09.30

「The Rolling Stonesとの出会い」
「73年。僕が13歳の頃って暗いフォークソングが流行っていた時代で、子供心にすごく嫌だったの。

そんな時代にストーンズや世界のロックに触れて、『こんなにやばいのに』トップなんだ、『こんなにやばいのに』っていうカッコ良さに凄いなって。

当時、日本にもカッコいいロックバンドはあったけれどチャートにはいなかった。

ストーンズは王様の様な、自分たちの王国の様な世界を生きている。

そこから僕はロックにはまっていったんだ」。

子供の頃から音楽が好きで、「そういう世界で生きていけないかな」という想いが漠然とあったという。

The Rolling Stones Tokyo 2014

「写真は独学」
「大学は、日本大学芸術学部でデザインを学んでいたんだけど、日芸大っていろんな学科があって、写真学科にも友達がいたの。

それで写真もいいなと撮り始めたんだよ。

あの人みたいな写真家になりたいみたいな目標はなかった。

けれど、アメリカの音楽や政治、文化を扱う『ローリングストーン誌』のドキュメンタリータッチなロックミュージシャンの写真。

それと、79年にショーケン(萩原健一さん)のライヴを観に行ったの。

後に、このコンサート・ツアーライヴが『熱狂雷舞』というタイトルでライヴアルバムとして発売されるんだけど、このアルバムに、モノクロの16ページくらいだったかな、ドキュメントブックがついていて、そのブックのカッコ良さに衝撃を受けて、こんな写真を撮りたいなという想いはあった」。

実家が小平というのもあり、アルバイトしながらでも「写真だったらできるかな」と続けた。

「きっかけは、忌野清志郎さんとの出会い」
「70年代末。ロックバンドとしてのRCサクセションが派手に出てきた。

こんなにカッコいいバンドが日本にいるのなら撮りたい。

僕も写真家をやろうかなと思った」。

忌野清志郎(RCサクセション) 日比谷野音1986 
2025年10月15日から原宿で始まるRCサクセション&忌野清志郎 55th Celebration POP-UP STOREの 特設サイト でもこの写真が使われている

「このままではダメだ」
「RCサクセションを撮影できるようになった頃。

同世代で一番はまったのが『THE BLUE HEARTS』僕も意気投合させてもらって、自分なりにいい写真も撮れた。

けれど、彼らを撮影していく中で『彼らはちゃんと自分達で曲を作り、素晴らしいライヴをしている』これでは、ただの取り巻きで終わってしまう、『自分だけが撮れる。その先に辿りつかないと』と思い、子供心に憧れたストーンズを目指すことにした。

当時、周りには良い意味で笑われていたと思うんだよ。

なぜかと言うと、ストーンズが初来日する予定だった73年、チケットまで売り出したのに、日本政府が中止させてしまいライヴは中止、来日もできなかった。

だからストーズは日本では永遠に観ることができないバンドというイメージが定着し、海外に行って何とかしてストーンズを撮らなければとなってしまった。

それが僕の20代後半。

そして、90年に初来日が決まった時、僕自身がストーンズ側の目に留まる位置にいたんだよね、それでオフィシャルカメラマンとして撮影できるようになり、80年代半から周りの人に言っていたことが現実になった。

僕は、芸術家でもないし芸術作品を撮っているわけではないけれど、あまりにも好きがこうじ、そこまで行くことができた」。

Keith Richards Tokyo 1990

憧れのストーンズを撮影したが、これ一回で終わってしまったら「そんな人いたよね」となってしまう。
そうはなりたくなかった。目標に辿り着いた後どうしたらいいのか、ハードルは上がっていった。

「どこに辿り着きたいのか」
「僕、65歳になったんだけれど、正直どこまでやれるかが課題なのかもしれない。

20代の頃、レコードからCDに移行して音楽業界は右肩上がりで音楽雑誌も沢山あった。

毎日毎日撮影があって、30代の頃はオラオラな時代だった。

そんな幸せな時代は過ぎて自分も年を取ってきて、煮詰まったのが50代。

でも、そのあと60歳過ぎてから逆に楽になった。

去年は、CDに編集された清志郎さんとRCサクセションのベストアルバムに僕の写真が選ばれた。

今年は、渋谷のイケシブという巨大な楽器店のイベントスペースで、自分が撮影し続けてきたストーンズの写真展をやらせていただいたんだけど、僕の写真を使ったグッズの作成許可がストーンズ側からも正式に下りて、ストーンズ公認のTシャツを作ることができた。

できあがったモノもすごく良くて本当に嬉しかった。

それって凄く大事なことだと思うの。

35年も前に撮影した写真が公認されグッズに使われる。

そんなこともあり、若くてバリバリの同業者に『60歳を過ぎたらどうするのか考えてる?』っていうようなことは伝えたい。

僕が若かったらアドバイスをされても『そっすか』で終わってるとは思うんだけどね」。

蓄積という年を重ねていくのも悪くないと話す。

The Rolling Stones London 2022

有賀さんが撮影した写真が使用されているレコード、ブック、CD、Tシャツ

「伝説の写真家の思い」
「最近、若いバンドの現場に行くと『えっ有賀さんきてるんだ』とか『挨拶させてくださいとか』『THE YELLOW MONKEYの写真集死ぬほど見ました』と相手の方が僕を知っていて話しかけてくれる。

真面目に『伝説の人』と言われたりもしてね。

撮影に関しては、僕側は相手の良いところを把握して、もちろん弱いところもあるから、写真で良いところを強調させるように考える。

敬意をもって、こちら側が理解して撮影すればいい。

あと、僕のように音楽が大好きな人が撮影に来るとミュージシャン側も安心してくれる。

今のミュージシャンは本当に厳しい時代だと思う。

でも必ず突破口はあると思うの。

例えば、『民謡クルセイダーズ』。

彼らは日本の民謡にグルーヴをつけて世界を熱狂させる。

言葉の壁を軽く超えていく。

ありきたりの発想ではダメだ、というか。

それから、2年前から撮影をしている『暴動クラブ』。

オールドスタイルのロックバンドなんだけれど『おいらスカンピン』(『すかんぴん・ブギ』より)なんて歌詞が出てきて、僕ですら忘れていた昭和な言葉を自然に使いこなす。

本当にネット時代の子たちなんだけど、しっかりと自分たちの言葉やスタイルを持っている。

そんな若い世代に力を貸すことができているのが嬉しい」。

「時代論なんだか、音楽論なんだか、写真論なんだか、世の中厳しい論なんだか、僕の話はごちゃごちゃしちゃうね」と笑う。

「フィルムからデジタルへ」
「僕はフィルムで撮ってきた世代だから、デジタルカメラになった時にカメラマンを辞めようと思ったよね。

フィルムカメラの撮影と同じ方法論では通用しない。

環境の変化があまりにも大きかったから。

ずっと、日芸大の写真学科から買った、お下がりのカメラを使っていたんだけれど、当時発売されたばかりのデジタル機材は、1~2年も経てば価値はガクッと下がってしまうものなのに、揃えたら車も買えてしまうくらいの価格で、それで買い時をしばらく考えたりしていた。

そんな中、重要なクライアントさんからデジタルカメラで撮影できるかと聞かれ、できないと答えてね。

そこから仕事がなくなったり、徐々にフィルム撮影の必要性がなくなっていた。

最悪だったし、もだえ苦しんだ。

でっ、『やるしかない。まだ終われない』との思いで乗り切った。

フィルム時代で引退できた先輩たちのことが、本当にうらやましかったよ」。

「その時代だけが持っているもの」
「音楽業界のバブルは、ざっくり言うと90年代とその前後。

海外撮影が当たり前で、香港から北京、ニューヨークからロンドンみたいな感じでね。

僕、普段はカメラを持たないし日常の写真は撮らないの。

でも、知らない場所で撮影する時のロケハン撮影は大事でね、スナップも含めたくさん撮ってた。

今後は、昔のフィルム、デジタルも含め、そういう時に撮影した風景写真をまとめていきたいの。

いろんな時代を生き抜いてきた誇りかな。

誰も『スマホ』なんて見ていないストリートってあったんだよ」。

Sicily , Italy 1998

Rio de Janeiro , Brazil 2001

Hoboken New Jersey , USA 2018

写真家 有賀幹夫さんが、写真の中に閉じ込めてきた移り変わる時代の息遣いが聴こえた。

■有賀幹夫 略歴
1980年代半ばより音楽関係を中心に撮影を始める。
1990年ザ・ローリング・ストーンズ初来日の際オフィシャル・フォトグラファーとして採用され、以降全ての来日公演を同様の立場で撮影。写真はバンドのオフィシャル制作物に多数掲載。
2016年ロンドンから開始された世界巡回型ストーンズ展(日本では2019年に開催)において、日本人として唯一の作品提供者としてクレジットされている。
2022年地元小平にある「茶間茶間」にてThe Rolling Stones写真展開催。
2025年ザ・ローリング・ストーンズ 初来日35周年記念 有賀幹夫 特別写真展 in SUMMER 開催。

■イベント・展示・販売情報
RCサクセション&忌野清志郎 55th Celebration POP-UP STORE特設サイト
UNIVERSAL MUSIC STORE HARAJUKU
住所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-20-6(JR山手線「原宿」駅竹下口 徒歩3分)
期間:2025年10月15日(水)~10月26日(日)

 有賀幹夫ザ・ローリング・ストーンズ写真展限定グッズ
イケシブ(池部楽器) イケシブ|IKEBE SHIBUYA|池部楽器店 渋谷旗艦店にて販売中

■お問い合わせ
X:@mikio_ariga
Facebook : https://www.facebook.com/ mikio.ariga

(取材ライター: 高橋真理)