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「おやこ・de・アート展2019」 in 立川

長年に渡り文化芸術による街づくりを推進している、東京都立川市。

3月の飛び石連休にはJR立川駅を挟んで、北と南でほぼ同時開催のアートイベントがあった。

駅北側の街区が野外イベント「ファーレ立川アートミュージアム・デー2019春」で賑わっていた頃、南側の「子ども未来センター」では、全館美術館に見立てて行われた「おやこ・de・アート展2019」in 立川が開催。

多摩地域を中心に多様なアート活動を展開する「Nomad Art ノマドアート」代表の成清北斗さんが企画したこの展覧会を取材した。

2019.04.09

< ノガミ カツキ >
会場に入っていくと、エントランスロビーに誰かがいる。
こちらを見ているのは、服を着た数体のマネキン人形だった。
自らを「92年製アーティスト」と称する、ノガミカツキさんの「山田太郎プロジェクト」だ。

マネキンの服のフードやウィッグの中にセットされたタブレットで自分の顔を撮影すると、そのマネキンに顔を奪い取られてしまう。
さらに他のタブレットもリンクしているので、全員が自分から奪われた顔になる。

「SNS上で他人の顔をアイコンにしている行為を、実際に現実世界で行ってみる」というプロジェクトで、山田太郎とは「不特定の誰か」のことだそうだ。

初日にはアーティスト本人によるパフォーマンスも行われた。

 

< 西本 喜美子 >
日本一有名な「インスタおばあちゃん」こと、熊本県在住のフォトアーティスト。
美容師や競輪選手という多彩な経歴を持つ。

72歳で写真家でありアートディレクターでもある息子の写真教室に入会し、初めてカメラに触れた。
90歳の現在も、面白いことを思いつくと自分をモデルにして撮影し、自らPCソフトを使って画像処理もこなすそうだ。

 

< 堀内 辰男 >
パソコンのExcelソフトを使って絵を描く、群馬県在住のアーティスト。
定年退職してから未経験の絵の世界に入り、独学で描き方を学んだ。

堀内さんは高価なペイントソフトを使わない。
Windowsパソコンに標準装備されている、表計算でおなじみのExcelを使う。
ExcelArtの描き方を自ら考案し、誰でも手に入るツールで美しい作品を生み出す。

初めて描いたのは上の写真の絵だった。
最近は「さらに新しいこと」にチャレンジしているそうだ。

 

< BIEN BIEN >
1993年東京都生まれのアーティスト。
ストリートカルチャー、アニメーション、フィギュアから影響を受け、様々な表現様式を受け継いだ抽象絵画制作やインスタレーションを展開している。
2階のまんがぱーくにある板壁に描かれた「のらくろ」の絵を観てインスパイアされ、作品が展示されているこの部屋で描いたそうだ。

 

< ノガミ カツキ & 渡井 大己 >
廊下に響く話し声。
部屋を覗いてみると、誰もいない。
コンピュータが話している、いや、みんなで輪になって会話をしているように見える。

SNSのタイムラインがAIスピーカーにインストールされている。
いくつものマイクで拾った音声が正しく認識されなかったり、複数の言語を使うAIが誤認することにより、会話はだんだん噛み合わなくなっていく。
先ほど紹介したノガミカツキさんと渡井大己さんのコラボレーション作品だ。

< 榎本 高士 >
1985年生まれ 滋賀県在住
画用紙に様々な色のクレヨンを使い、無作為に描いていく。
何度も色を重ねていき、一つの作品が完成する。

障がいを持つ人のための作業施設、滋賀県の「やまなみ工房」*に所属。
ここでは多様なアーティストが活動している。

この工房のアーティストの作品は、国内外の展覧会へ多く出展されている。
*やまなみ工房 http://a-yamanami.jp/

 

——— OTTI OTTI 公開制作 ———
2003年東京生まれ
幼少の頃より細密な絵を描くのが好きで、15歳の現在、すでにアーティスト活動を展開している。
学校生活との両立で、平日は描ける時間が限定される。
その代わり休日には、長時間集中して描くことも多いそうだ。

部屋には絵画作品を展示できる壁面がないため、成清さんは床に置いたイーゼルに乗せる展示スタイルにした。
幼い子どもや車椅子の人でも、作品を間近で見ることができ、移動しながら空間全体を楽しめる。

 

————「ワタシ・フラッグ」————

市民もアーティストになった。
11月から市内5ヶ所で行われた「ツキイチ☆ワークショップ『ワタシ・フラッグ』をつくろう!」で、地域の子どもたちが描いた、ひとりひとりみんな違う「ワタシ」のフラッグだ。

広場に面した2階のテラスには、「ワタシ・フラッグ」がズラリと並び、春の日射しに輝いている。
「みんなでひとつの作品を完成させた感動と、多様性における『ワタシ』の素晴らしさの発見になれば」と成清さんは語る。

 

会場内にはオリジナルの缶バッジを作るコーナーや、西本さんの等身大パネルと一緒にインスタ撮影ができ
るコーナーもあり、アートを楽しめる工夫が随所に見えた。

「誰もが表現者になれる展覧会」に相応しく、ワタシ・フラッグを制作した1歳7ヶ月の赤ちゃんから90歳の西本さんまで、参加アーティストの年齢は実に幅広い。
作品が生まれる環境や状況も、それぞれ違っている。

多様な作品の鑑賞を通じて、おとなにもこどもにも「アートや多様性について思いを巡らせ、新たな価値観を築くきっかけとなることを願っている」という成清さんの思いが、確かに伝わったのではないだろうか。