TACHIKAWA
BILLBOAD

TACHIKAWA BILLBOAD東京・立川周辺のART&CULTURE情報

report

まち全体で展覧会 〜西立川をアートの街に vol.1〜 

11月3日〜18日、西立川で開催された「第1回ウェスタンドリバー・アートフェス」。

この街は立川市と昭島市にまたがっており、これは立川市側の商店街、自治会、児童館が恊働で主催した、地元では初めてのアートイベントである。

「アートの街づくり」をテーマにし開催されたイベント期間中、10店舗が店先での作品展示するなど、地域全体が一体となり展覧会が行われた。

今回、リポート第1弾として西立川児童会館で行われた作品展の様子を取材した。

2018/11/13 (火) 2018/11/18 (日)
開催場所

西立川

2018.11.22

—11月3日(土)・4日(日) 〜玉川宗則 × saiwai作品展〜 —

「既成概念にとらわれず、独自の感性で生み出された生のままの芸術を『アールブリュット』というのが正しい解釈だ。どのような状況の人でも、区別なく公平に評価されるべきである」と、この街のギャラリーのオーナー永井龍之介さんは、繰り返し提言している。

 

西立川児童会館で行われた作品展は、立川在住のアーティスト2組の合同展示という形で行われた。
まさに何の「区別もなく」、同じ舞台に立った2組だ。

<Artist -1/ Munenori Tamagawa>
アートブリュット作家である玉川宗則さんは、描いた絵を友人から褒められたことがきっかけで、2002年頃から、自身の精神的病理から回復するためのリハビリとして絵を描き始めた。

「絵を描くようになってからは、とても楽になった。絵を描いていると楽しさと同時に新たな苦しさも生まれるが、完成した作品を見ているとそれも消えていく」と玉川さんは語る。

今回、地域の子どもたちと一緒に大きな絵を描いた彼は、かつての自分がそうであったように、「何かで苦しんでいる子どもが、アートを作る体験によって、苦しさから抜け出すためのヒントを見つけてくれたら」と願う。「描き始めたばかりの頃は、暗い絵ばかりを描いていたが、次第に明るい色になっていった」という。

明るく鮮やかな絵の中に、彼の内側から放出された強いエネルギーが蓄積されているようで、見た瞬間に圧倒される。

絵の具、クレヨン、油性マジック、何でも使って描く。
よく見るとアルミホイルや空き缶が埋め込まれている作品もある。

12月8日まで水道橋で開催中の個展をはじめ、今でこそ数多くの展覧会に出展している玉川さんだが、井の頭公園でポストカードを手売りすることからスタートし、売れなかった苦しい経験などもしてきた。

今の彼にとって何より気がかりなのは、立川周辺の若いアーティストたちにとって、発表できる場や活動拠点が少ないことだ。

「展示と販売ができる場がもっと必要だと思う。ギャラリーに限らず、カフェやレストランなど、人が数多く出入りするお店で、値段を付けて展示してくれるだけでも有難い」と控えめに想いをこぼした。

障がいを持つアートブリュット作家の中には、「自分を支えてくれる家族への恩返しとして、少しでも作品が売れてお金になったら」と願う人もいるが、自分では接客ができないという人も少なくない。

様々な制約があって難しいケースもあるというが、夢を少しずつでも実現できるように支援することも、アートと一緒に住んでいける街づくりには、重要なポイントかもしれない。
http://www.ohshimafineart.com/exhibitions/ 「玉川宗則 Episode」11/10〜12/8

 

<Artist -2/saiwai>
市内幸町(さいわいちょう)生まれのユニット「saiwai」さんは、オーダーメイドのドレスやアクセサリーを作るアーティスト姉妹だ。

この名前には、作品を通して「幸せ」をお届けできるようにーという願いもこめられている。

オーダーメイドは「世界でたった1つのもの」だから、どの作品も身に付ける人のことを思い描き、丁寧に作っているそうだ。

普通の布地にとどまらず、和服からのリフォーム、手漉き和紙で作ったドレスなど、珍しい作品が多数あり、いずれもステージやパーティの衣裳として実際に着用されている。

「ファッションは身につけることができる最も身近なアートである(=wearable art)」と言う。

普通ならゴミとして捨てられてしまうものをドレスに変身させるのも、saiwaiさんの得意技。
梱包するときに使うクッション材で作った服。軽くて、着心地がよいそうだ。

 

時代の狭間で短い生命を終えた、数多くのMD(ミニディスク)たちをドレスに仕立て、壊れたパソコンの部品を帯に仕立ててしまう。
物に詰まった大切な思い出が、アートに姿を変えて、再び生き始める。

 

ビーズやコットンパールを使って作られた、アクセサリーや額絵も出展された。
光に当たると生命が吹き込まれ、今にも動き出しそうな、カニ、ヤモリ、龍など。

 

残念ながら実物を見られなかったドレス「メディスンマーメイド」の替わりに、絵に仕立てたものを見せてもらった。

「最近、インドネシアで、saiwai作の衣裳を早替わりで着替えていただく音楽ライブを開催しました。いずれはフランスやアメリカでイベントを実現させたいです。特にフランスでは仏教に対する関心が高いので、今は仏教美術について勉強しています」と語る、ユニット代表のchieさん。

http://saiwaishimai.blog.fc2.com/
Facebook : saiwai-costume
Twitter : @saiwai_shimai

(saiwaiさんイベント情報)

Studio Stråle
The first exhibition with saiwai
2018/12/3(月)・4(火) ・5(水) 11:00-18:30
最終日17:00終了 会場:広尾ギャラリー

詳細はsaiwai blogにて
http://saiwaishimai.blog.fc2.com/blog-entry-424.html

 

「wearable art」は、作品の「昇り龍」のごとく、広い世界へ向かって動き始めている。

—アーティストと地元住民の共存—
アートの力で町おこしを試みる住民と、活動の場を求める地元のアーティストが結びつけば、お互いに「足りないもの」を補える。
地元主催のアートイベントに集客すれば、街は活性化し、出展したアーティストも育つ。
大げさなことではなく、継続的に作品を発表する場を提供するだけでも、結果的に、まち全体が親となってアーティストを育てることになるのだ。
玉川さんの提案のように、可能な形を探って、作品販売に協力することもできそうだ。

 

その街で生まれた子どもたちも、日常的にアートに触れて育っていく。
毎日ゆっくり染み付いていく情緒や感覚は、人々にとって今、最も必要とされていることではないだろうか。