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ユーモラスな漫画で日本の近代史を復習できる「日本漫画会 最近三十年史図絵展」https://www.tamashinmuseum.org/post/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E6%BC%AB%E7%94%BB%E4%BC%9A

「漫画」といえば子どもから大人まで多くの人が親しみ、世界でも人気の日本文化の一つ。
そのルーツは意外と古く、今から約100年前に活躍した漫画家集団がそれにあたる。

描かれたのは明治・大正・昭和という激動の時代の風刺漫画。
庶民の目線で表現豊かに描かれた作品の中には、お札にもなったあの有名人の姿も。
そんな漫画を見て近代の歴史を楽しく学べるユニークな展覧会が国立駅前の美術館で7月14日まで開催中だ。

2024/04/06 (土) 2024/07/14 (日)
開催場所

たましん歴史・美術館

2024.06.17

たましん歴史・美術館
国立駅の南口に出るとすぐに煉瓦色の大きな建物が目に入る。
その建物の6階にあるのが「たましん歴史・美術館」だ。
1階のウインドウには「日本漫画会 最近三十年史図絵展」のポスターが貼ってある。
エレベーターで上がると、国立駅前のロータリーを見渡せる開放的な空間の展示室に、額装された多数の作品が並んでいる。
たましん美術館の学芸員で今回の展覧会担当の藤森梨衣さんに、展示について話を聞いた。

「最近三十年史図絵」とは
展示されているのは、1927年に制作された「最近三十年史図絵」。
墨と水彩で描かれた絵と文字で構成された作品で、28点収められた蛇腹折の冊子状のものだ。
描かれているのは、明治、大正、昭和初期にかけての日本の社会を表す風刺画。
27人の漫画家によって、軽妙洒脱な筆遣いで描かれている。
印刷ではなく各作家が同じ絵を複数枚手描きして販売されていたそう。

絵はとてもユーモア溢れる豊かな表現で、描かれた人物はどれもかわいらしく親しみが感じられる。
中にはあの有名な作家「夏目漱石」を描いた作品もある。
机に向かって何かを書いている漱石と、その側には「吾輩は猫である」に登場する猫のモデルと思われる黒猫の姿も。
こちらを見ている漱石の顔はとても柔和でリラックスしている。
「この絵を描いた人は漱石先生から信頼されていてすぐそばで描いたのでしょうね」と藤森さん。
これらの漫画作品を描いたのが、日本で最初に「漫画家」という職業を確立させた人たちだ。

日本の漫画家の原点「日本漫画会」

この時代の新聞社には、「漫画記者」と呼ばれる職種があった。
世の中の出来事を、絵と文字で表現して新聞の記事として載せる仕事だ。
当時から新聞には写真も掲載されていたが、漫画は写真よりも出来事の要点を絞って分かりやすく表現できる手法として、新聞社で採用されていた。
そんな漫画家同士が横のつながりを持とうと結成したのが「東京漫画会」。
その目的は、互いの情報交換に加えて、報道メディアとしての漫画を民衆芸術として確立しようと結成されたものだったという。
漫画の創始者ともいわれる北沢楽天や、岡本太郎の父でもある画家・漫画家の岡本一平、洋画家としても活躍した池田永治らが初期のメンバー。
岡本一平は夏目漱石と親しく、展示されている作品「漱石先生」を描いた。
会には東京美術学校出身の人も多く含まれ、現代になって再評価されている画家もいるという。
東京漫画会は後に「日本漫画会」となり、「最近三十年史図絵」をはじめテーマごとに漫画を編纂した冊子をいくつか刊行した。

展示の経緯

なぜ今回たましん歴史・美術館で日本漫画会による「最近三十年史図絵」の展覧会を開催したのか。
この作品は館が持つ5300点余りある収蔵品の一つ。
近現代の絵画作品が多い収蔵品の中で、漫画作品はこれだけだったという。
学芸員である藤森さんは、ある時からこの作品に注目し調べていくうちにその価値に気付き、魅力にはまって急遽ここで展示することを決めたという。
たましん歴史・美術館では漫画作品のみの展覧会は今回が初めて。
しかし一つの絵画作品として質が高く、美術館で展示する価値があると考え実現させた。

展示の見どころ

作品には、それぞれ描かれている世の中の事件や事象についての解説が付けられている。
どれも学生時代に歴史の教科書で学んだことがあるテーマで、大人も子どもも楽しみながら学ぶことができる。
作品は目次順におおむね時系列に並べられているので、近代の歴史の復習にとても良い。
作品を描いた27人の作家のうち、多摩ゆかりの作家が5名含まれることも、ここで展示される意義があると藤森さん。
キャプションに記された作家の来歴を読んでいると、多摩地域が日本の歴史の流れの中にあることを感じられる。

日本の漫画の原点
今の漫画の礎を作った人といえば手塚治虫や石ノ森章太郎が思い浮かぶが、彼らが活躍した時代からさらに半世紀も前に、墨と水彩を使って、豊かな表現で描く漫画家たちがいたことは驚きだ。
「東京漫画会」が日本の漫画の原点の一つとして重要な意味があることにも注目してほしいと藤森さん。
確かにまだあまり注目されていない作品に切り込んだ、意欲的な展覧会と言えるだろう。
もちろんそんな背景は知らずとも、とてもユニークなアート作品として楽しめるので、気軽に来館してほしい。

学芸員さんのおすすめ

個性豊かな作品群の中で藤森さんが特に好きな作品は、一番最後にガラスケースの中に展示されている北沢楽天作の「カフェとモダン」。

変化する時代の中で、流行の最先端のお洒落を楽しむ二人の姿が微笑ましいとのこと。

自身も手塚治虫の「火の鳥」や、大友克洋の「AKIRA」のような漫画界の金字塔的な名作が好きだそう。

そんな藤森さんが次に手掛ける展覧会が、たましん美術館で7月20日から開催される『浮世絵 歌川広重「名所江戸百景」』展。

多摩地域の風景を写した浮世絵を展示し、江戸時代の風俗・文化を紹介。

夏休みの学習教育の一環として大人も子どもも楽しめる展覧会だ。

こちらもぜひ伺いたい。

日本漫画会 最近三十年史図絵展 【併設】たましんコレクションの近代絵画
会場:たましん歴史・美術館
会期:2024(令和6)年4月6日(土)~7月14日(日)
主催:公益財団法人たましん地域文化財団
HP:https://www.tamashinmuseum.org/

(取材ライター:いけさん)