TACHIKAWA
BILLBOAD

TACHIKAWA BILLBOAD東京・立川周辺のART&CULTURE情報

report

ウェスタンドリバー・アートフェス 〜西立川をアートの街に vol.2〜

~基地の記憶を残す街、西立川~

荒井由実(松任谷由実)の楽曲「雨のステイション」のモデルとして知られるJR西立川駅では、2003年からこのメロディが発車の合図として流れている。

この歌が生まれた当時は、芝生の緑に点在する米軍ハウスがホームから見える、小さな駅だった。

地元の街は「Tachi West」と呼ばれ、アメリカの匂いのする風が吹いていた。

立川基地が返還されて41年、あの頃の街の匂いは、人々の記憶の中だけに残っている。

2018/11/13 (火) 2018/11/18 (日)
開催場所

西立川

2018.12.23

西立川をアートの街に

「ウェスタンドリバー・アートフェス」は、立川市富士見町の地元商店街、自治会、児童館の代表で実行委員会を編成し、昨年から準備を進めてきた、この街にとって初めてのアートイベントだ。展示作品や作家のブッキング、ワークショップの運営などには、外部団体の協力を得て実現した。

11月3日〜18日の長期間に渡り、展覧会、講演会、ワークショップ、ミニコンサート、映画上映会が開催されたほか、「富士見町」にちなんで、富士山をモチーフにした絵画を街のお店10ヶ所に展示し、これらを巡るスタンプラリーも行われた。

 

「西・立・川」の3つの文字を直訳したネーミングや、「歩く→ある九」を意味したロゴマークの9本の足からは、「気楽に歩いて観ていって」、という親しみが感じられる。アートと地元の人々が「さりげなく」混在する、温もりを感じるイベントだった。
https://www.facebook.com/westandriver.artfes/

 

アート製作ワークショップ 
◇11月3日(土) 〜オープニングワークショップ at 西立川児童会館〜
街を飾る絵をみんなで描こうという「大きな絵を描こうワークショップ」。児童会館の利用者と地元の子どもたちが自由に参加して、1.75m×5mという大きなキャンバスに、思い思いの絵を描いた。

 

このワークショップは、たまfunアートの諸角さんが進行役を務め、アールブリュット画家の玉川宗則さんと、衣裳・アクセサリー作家の姉妹ユニットsaiwaiさんも、子どもたちと一緒に参加した。

「はじめは少し躊躇していた子どもたちも、僕が描いて見せると少しずつ手が動き始め、それからはサーッと水を流したときのように、たくさんの絵が広がっていきました」と語る玉川さん。

完成した絵は2枚あり、縦長のものは街のビル外壁に展示された。展示のために設置した足場の施工業者が、宣伝のロゴを貼っている。
写真には映っていないが、1階のお店のために真っ赤な「営業中」の文字も表示され、人々の暮らしにアートが溶け込もうとしていた。

 

◇11月10日(土) 〜みんなで楽しむだれでもアート at フェローホームズ 森の家〜
2週目の土曜日には、線路の向こう側の高齢者施設フェローホームズでも、ワークショップが行われた。手に入りやすい材料で、簡単に作れる、実用的なアートだ。今回も、たまfunアートの諸角さんが進行役を務めた。

 

全員の完成品を棚に飾ると、とても美しい。
しめ縄をあえて逆さまにした作品は、クリスマスリースにも見える。
年末年始の祝い事が、同時に来たようだ。

 

 

子どもたちが描いた大きな絵と並んで、施設のエントランスを飾る。

 

 

鈴木 伸明 作品展 11月10日(土)・11日(日)
「フェローホームズ 森の家」では、アールブリュット画家、鈴木伸明さんの作品展も開催された。
鈴木さんは、一般の美術展での受賞や企業カレンダーへの作品掲載の経験も持つ。
昨年までの個展は14回を数え、「区別なく、同じ舞台で」と、公平な評価を得ているアーティストだ。

 

講演会「アールブリュットと美術館、街づくり」

◇11月3日(土) 永井画廊 立川ギャラリー 永井 龍之介さん at 西立川児童会館
昨年この街にオープンした「永井画廊立川ギャラリー」のオーナー、永井龍之介さんの講演会が行われた。
「西立川の現在のビルのオーナーは絵画コレクターで、以前からご縁がありました。銀座の画廊で倉庫を探していたときに、オーナーからお話をいただいて入居したのですが、窓から見える昭和記念公園の風景と静かな空間の魅力に、次第に引き込まれていきました。それで倉庫の一部を改装して、ギャラリーをオープンすることにしたのです」。

 

「立川といえばアートの街『ファーレ立川』のイメージが強かった」という永井さんは、ギャラリー運営にあたって、地元の人と一緒に取り組みたいと思い、「立川」と「アート」のキーワードでネット検索をしてみたそうだ。

そのときに目に留まったのが、伊勢丹で開催されていたアールブリュット展の告知。この展覧会を訪れたのがきっかけとなって、アールブリュットを中心としたギャラリーをスタートさせることになったという。

ここでは、週末を中心とした常設展の開催や画廊の貸し出しの他、自ら講師を務める連続講座「知識ゼロからの名画入門」が開講され、多くの受講生を集めている。今回の期間中も「富士山」をテーマにしたアールブリュットの作品が展示され、北向きの大きな窓から入る柔らかい光が照らしていた。

 

「西立川をアートの街にする」という構想について 
「ギャラリーを始めて、それに気付いてくれた人が多かったから、こういう動きが出てきたと思うと嬉しいですね」。

永井さんは5月の展覧会の際にも、「北側の昭和記念公園を訪れた人が、『帰りにアートも観ていこうか』という感覚で南側の街にも立ち寄ってくれるのが、理想の形だと思う」と語っていた。

 

「アールブリュット美術館の開設」という構想について
「美術館を作るのは良いことですが、その後、地元の人たちの力で、集客し、維持していくことの方が実は重要なんです。立川市は『ファーレ立川』という大規模なパブリックアートの街を実現し、作品の清掃や大掛かりな修復も含め、長年に渡って維持し続けています。これは、行政と企業や住民が一丸となって努力を続けているからなのですが、その事実をもっと広く発信してほしいです」。

 

「アールブリュット」の意味について
「美術館は世界中から注目される存在になります。開設するなら、まず『アールブリュット』の意味を正確に理解してからにしてほしいです。ともすると『障がい者アート』という解釈をされてしまいますが、『正規の美術教育を受けず、既成概念にとらわれていない、独自の感性によって生み出された芸術』が正しい意味であり、障がいがある人も無い人も、誰でも関係なく公平に評価されるのであれば、美術館開設には大賛成です」。

 

 アートと街の関係について 
「アートとは、その土地に根ざしているものを掘り出し、街の歴史を再発見するものです。西立川の地は、戦後間もない頃から福祉法人が多い地域だと聞きました。この地に根ざす『福祉』というものを改めて掘り返してみることによって、アートは街に定着させられるのではないでしょうか。社会も時代も変えてしまうほどの大きな力を持つアートには、誰でも何かしら気付かされることが、きっとあるはずです」。

 

—— 商店の店先に展示されたアート ——
期間中は、画廊や児童館以外の店舗にも作品が展示された。
「通りがかりに見えるように」と店先に工夫して置かれたアートは、それぞれのお店の風景に溶け込んでいた。

◇(有)アオキ
この地に生まれ育って、街の歴史をずっと見てきたという社長さんが営む金物と建築資材のお店。
先代社長は、戦後間もなくこのお店を始めたという老舗。

 

◇オガワモータース(有)
こちらも50年くらい続く店、2代目の現社長になってからも40年くらい経つそうだ。

 

◇おかめ食堂
日本の伝統的なアートと言える「おかめ・ひょっとこ」と仲よく並ぶ現代のアート。
こちらも長年営まれている庶民的な食堂。夕方から深夜3時まで営業している。

 

ケーキ屋さんにも、パン屋さんにも、バルにも展示されていた。

 

— 主催者インタビュー —
このイベントの中核となり、実現につなげた西立商店街振興組合の坂村宗紀理事長に話を聞いた。

「私たちは立川市が掲げる『まち全体が美術館』という構想を基に、富士見町全体が回遊性のあるアートの街になることと、障がいのある人もない人も、ともに暮らせる街づくりを目指しています。永井画廊立川ギャラリーがオープンしたとき、遠方からの来場者が大勢この街を訪れたことに驚きました。アートの持つ大きな力を借りて、活気あふれる街づくりができると確信しました。アートフェスとしての規模は大きくなくてもいいと思っています。それよりも、住民の皆さんと一緒に長く続けていくことを目標にしています。また将来的には、作家の活動支援につなげていけたらーという思いもあります。例えば、作品の展示・販売など。作家と住民の双方にとって、無理のない方法を探りながら実現していきたいですね。美術館を造るという構想は壮大であり、時間がかかることです。まずは、できることから一歩ずつ進めていきたいと思っています」。

 

もともとアートにあまり関心がなかった人にとっても、普段買物をする店先に絵が飾ってあったら、少しずつ身近なものとなっていく可能性がある。このようなイベントが地道に継続されていけば、街の内外の人々の意識も変わり、アートが街のイメージとして定着するかもしれない。

いつかこのフェスが「富士見町あーととれいる*」につながったら、立川駅から西立川駅まで、アートを観ながら散策できるようになる。

*「富士見町あーととれいる」とは
立川市富士見町を活動拠点とする、三団体の繋がりのことを名付けたもの。人々が散歩をしながら文化・芸術に触れる機会を多く得られるようにと、3つのスペースで同じ時期に、それぞれテイストの異なるアートイベントを開催している。

◇石田倉庫 http://www.ishida-soko.com/
◇アートイン・ファーム http://www.artinfarm.org/
◇たちかわ創造舎 https://www.facebook.com/TachikawaSozosha/