上越から訪れた「あおぞら」の子どもたち ファーレ立川を体感する
お揃いの青いTシャツを着て、朝の会議室に入室してきた小学生たち。無言で一列に並んで進み、整然と着席していく。
新潟県上越市立大手町(おおてまち)から来た小学校6年生、総勢50名。
彼らは、卒業までの1年間を通して地元の街を活性化するというプロジェクトに取り組んでいる。
「城下町高田花ロード」という、アートと花で街を盛り上げるイベントをきっかけに、「子どものアートの力で、本町商店街を盛り上げてほしい」という大人たちの思いを預かり、子どもたちのアート体験を広げるため、アートと街が共存するファーレ立川を、体感するためにやってきた。
この日最初のプログラムでは、ファーレ立川のアートプランナー北川フラムさんの講演を行った。実はフラムさんは「城下町高田花ロード」のアートディレクターであり、この大手町小学校の卒業生なのだ。
小学生だった頃の街の様子、山や野原で遊んでばかりいて図工の評点はあまり良くなかったという思い出などが語られ、子どもたちは自然にフラムワールドへと誘われていった。
陸軍飛行場から米軍基地となり、やがて返還されファーレ立川の街となったこの土地の歴史、アートの街を作る過程での苦労話、参加してくれたアーティストや作品にまつわるエピソードなど、フラムさんの話は止めどなく続く。
子ども達は一言も漏らすまいと、一生懸命ノートをとっていた。
講演が終わり、自由行動タイムへ。6人ずつの班に分かれて、引率者なしで行動する。
ファーレ立川のシンボルとも言える、大きな赤い植木鉢の前でフラムさんと一緒に集合写真を撮った後、子どもたちは実際のファーレ立川のエリアへ入っていった。
しばらくすると青色Tシャツ隊はそこかしこに。固まっていたり、散らばっていたり。
「これからどこに行くの?」と、声を掛けてみると、「どこに行ったらいいのかわからない…」という声も。
我々スタッフは、アート作品をたくさん見られるルートを案内しながら、しばらく子どもたちの話を聞くことにした。
「私たちは『あおぞら学年』なんです。学年ごとに名前があって、自分たちで決めました。6年生になるとTシャツを作ってもらえます」
背中に「あおぞら2018」と大きくプリントされたTシャツの写真を撮ろうとしたら、背負っていたリュックをおろして見せてくれた。
水色と群青色の2色がある。あおぞらの色だ。
今日は宿泊体験学習の2日目。猛暑だった昨日は、青梅と川越を見学してきた一行。
立川の後、もう1ヶ所見学の予定があるそうで、ビジネスマン並みのハードな行程だ。それほど今回の体験学習に、彼らや、地元の街の大人たちの本気度、期待度が高いのだろう。
そして、いよいよガイドの説明が聞けるファーレ立川の、アート見学ツアーがスタートした。
「美術は『五感』を使い、心と身体全体で感じるものだ」と、朝の講演でフラムさんは子どもたちに伝えた。
触ってみて質感を確かめたり、音を聴いたり、声を出してみたり、身体を密着させてみたり、自分の姿を映してみたり、彼らは説明を聞くだけでなく、全身を使って鑑賞していく。
「写真もたくさん撮らなくちゃ」と、ツアーの歩調はけっこう速いが、懸命にシャッターを押したら小走りで追いかけていく。
フラムさんはいろいろな場で、「美術は人が自然や風土とつながる手だてであり、美術館でひっそりと自己主張するのではなく、その土地の風土を人に知らしめる役割がある」と話す。
アートによって人が訪れ、その街のことを知る。ファーレ立川もその役割を意図して生み出された。
子どもたちはここで得た多くの情報や全身で感じたことを、生まれ育った街に持ち帰り、そこの自然や風土に合わせて形づくっていくだろう。
上越へ帰る車中では、一人一人それぞれのアートと街の夢を見ていたかもしれない。