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たましん美術館
絵を見て、話して、また見えてくるもの
「おしゃべり鑑賞会」は、市民団体「あーちゅびー」と、たましん美術館が開催する90分間のプログラム。
10名の参加者が2チームに分かれ、展示作品を囲んで鑑賞しながら語り合う、という内容だ。
今回のイベントが行われた「たましん美術館」は、多摩地域にゆかりのある作家の作品や、近代日本の優れた美術作品、質の高い古陶磁器などのコレクションを所蔵している。
気軽に立ち寄れるガラス張りの外観は、地域に開かれたアートの拠点として親しまれている。
開催中の展覧会は、「春のたましんコレクション展 対話する美のかたち」。
同館が所蔵する絵画や陶磁器などの中から、「対話」をテーマに作品同士の関係性や鑑賞者とのやりとりを意識した展示がされている。
この日、イベントの参加者は、建物の3階にある「Winセンター」のセミナールームに集合。
受付を済ませると、美術館の学芸員・村山閑さんが挨拶に立ち、「今回の展覧会は、“対話”するようにコレクション作品と向き合ってほしい、と思い企画した」と話した。
展示に込められたテーマが、これから体験する“対話する鑑賞”そのものであることがわかり、期待が高まる。
「今回のイベントは、参加予約が告知後すぐに埋まった」という。
紙芝居で「おしゃべり鑑賞」の楽しみ方を
プログラムを進行するのは、「あーちゅびー」の代表・石山敬子さんとメンバーたち。
「あーちゅびー」は、多摩地域を中心に、アートを介したコミュニケーションの場作りを行っている。
手作りの紙芝居を使って、「自由に話していいんだよ」「感じたことを大切にして」「みんなで楽しもうね」と、やさしい言葉でプログラムの流れを紹介。
初めて参加する人の緊張も自然とほぐれていく。
続いて、5人ずつ2チームに分かれてアイスブレイク。
テーブルの上に用意されたのは、たましん美術館の収蔵作品を印刷した21枚のアートカード。
参加者はその中から「今日の気分」にぴったりな1枚を直感的に選び、選んだ理由を一言添えて自己紹介する。
「雨の晴れ間の空みたいな青がきれいで選びました」「赤い花の絵が元気をくれそう」など、カードをきっかけに自然と会話が生まれていく。
唯一の子どもの参加者は「いろんな色があるのが好き」と虹色の絵を手にしていた。
作品と、そして人と語り合う時間
美術館の展示室に移動すると、いよいよ本番。
各チームにあーちゅびーのメンバーがつき、それぞれ3つの作品を鑑賞していく。
最初にメンバーから「作品を1分間、静かにじっくり見てみましょう」と促される。
次に「何が描かれているように見えますか?」「どんなことを感じた?」と問いかけると、参加者が次々に手を挙げて話し始めた。
例えば、複数の女性が座って顔を寄せ合っている様子が描かれている、河瀬うた代の作品「うわさ」では、「旦那が同じ仕事の奥さんたちが集まって話している場面?」「これは“ひそひそ話”かも」と、人物の姿勢や仕草から状況を想像する声が次々にあがる。
メンバーが「それはどのあたりから感じましたか?」と投げかけると、参加者が感じた画面の色や表現を言葉にしていく。
それを聞いた他の参加者は、「どれどれ」と作品に顔を近づけたり、互いの意見に反応して会話を自然と始め、作品世界がぐんと広がっていく。
山﨑洋子の作品「見る」では、床に座っている1人の女性の視線の先にある“何か”に皆で想像を巡らせた。
「未来を見つめてるようにも見える」「膝に手を置く姿勢が、気持ちを抑えているよう」と対話を重ねる参加者。
「病気だった知り合いに似ている。彼女はどういう気持ちだったのかしら」など、観る人の人生経験がそのまま語りに反映されるような、奥行きある対話が続いた。
鑑賞が深まる、思いがけない出会い
堀本惠美子の作品「CURRENT B-20」では、「水の流れのよう」「空にも見える」「魚が隠れていそう」など、自由なイメージが次々と語られた。
「見ているとエネルギーをもらえそう」といった声もあり、対話がいっそう盛り上がる。
この場には、作者である堀本さんも鑑賞者の一人として参加していて、参加者は堀本さんから作品に込めた想いを聞き、とても喜んでいた。
まさに“作品と作者と鑑賞者”の三者が響き合う、かけがえのない時間となった。
アートはみんなで楽しめば、もっと身近に
再びセミナールームへ戻り、みんなで体験をふりかえる。
参加者からは「1人で観るより、みんなで観ると視点が広がった」「アートに詳しくなくても楽しめた」「おしゃべりしながら観るなんて、初めての体験だったけど心があたたかくなった」などの声が次々にあがった。
中には、「どこかのお宅でおしゃべりしているような、居心地の良い美術館だった」と幸せそうに語る参加者もいた。
あーちゅびーの副代表・河野さやかさん(写真右)も「参加者同士の会話が自然に生まれていたのが良かった。美術館のスタッフさん達も一緒に楽しんでいて、場全体が繋がっていた」と振り返る。
代表の石山敬子さん(写真左)は、「たましん美術館が“良い鑑賞の場づくり”を目指していたからこそ、私たちの活動とうまく結びついた」と語った。
「作品との出会いが、生まれていた」
「参加者同士の対話、作品と作品を比較しながらの対話。
今回の展覧会の意図そのものが、来場者の中で自然に起こっていた」そう語るのは、たましん美術館の学芸員・村山閑さん。
展示室で交わされた深い対話に「驚きと喜びがあった」という。
「作品との出会いが本当に生まれていた。美術館としてとても嬉しい成果だった」と声を弾ませた。
展覧会「春のたましんコレクション展 対話する美のかたち」は、7月6日まで開催中。
日常のなかでふと足を止め、誰かと一緒にアートを見て、話してみる。
そんな時間が、心を豊かにしてくれることを、「おしゃべり鑑賞会」は教えてくれた。
次に展覧会を訪れるときは、ぜひ誰かと一緒に、感想を交わしてみてはいかがだろう。
■「春のたましんコレクション展 対話する美のかたち」
会期:2025年4月19日(土)~7月6日(日)
会場:たましん美術館
HP:https://www.tamashinmuseum.org/post/collection2025spring
■「あーちゅびー」
HP:https://artyubee.com/
Instagram:https://www.instagram.com/artyubee_info/
(取材ライター:いけさん)