料理と陶芸が共鳴する“瞬” 「オーベルジュときと」12名限定イベントhttps://www.aubergetokito.com/
立川の「オーベルジュときと」で2024年12月14日、15日の昼夜4回、各回12名限定で「瞬をひきだす」食イベント『ときとと』が開催された。
同イベントのコンセプトは、「旬」ではなく、「瞬」にこそ寄り添うこと。ときとの料理人と独自の世界観を持つ表現者が、互いを深く見つめ、ときにぶつかりながら、 食材、技術、それぞれが最高に輝く瞬間を引き出す。
今回で2回目となった『ときとと』のテーマは「共鳴(resonation)」。今回は、ときと石井義典総料理長が、イギリス時代からの10年以上のつながりがある陶磁アーティスト、石田和也さんとともに創り上げた。
石井総料理長は「器は料理を引き立てる立役者と思われがちですが、器は単なる食材を入れるための道具ではなく、食事を敬うための『衣装』でもある。料理と器は切り離せないもの。今回は食も器も両方が主役になるようなメニューを考え、みなさんにその”共鳴”を感じていただくフルコースを創りあげた。ぜひ五感で楽しんでいただければ」と語る。
オーベルジュときと
まずイベントのゲストが全員揃ったところで運ばれてきたのは、ときとの庭にあるかやの葉を浮かべた「汲み出し」(茶事の始まりに出される白湯)。柑橘系のさわやかさに加え、森林を思わせる清々しい香りが参加者の五感を引き立てる中、石井総料理長のプレゼンテーションでは、石田さんとの出会いや二人が手掛けた大規模なプロジェクトについて触れた。その中で特に参加者の関心を深めたのは、2015年から始動した「Oxford穴窯プロジェクト」。オックスフォード大学に招かれて、二人の見識と技術、経験を活かし、窯作りや制作ワークショップをしたことが紹介された。
陶磁アーティスト、石田和也さんが生み出した技法『螺法』の杯で振る舞われた「椎茸と鴨」。ゆずと大根が添えられ、味わいの変化を最後まで楽しめる一皿
『ブラックホール』と名づけられた食器に盛り付けられた「鮃 トロ」は、昆布と塩のみを使用した繊細なソースとわさびで楽しむ
削り節が舞う「鮪節 蕪」
「金目鯛」を異なる手法でアレンジした一皿
多摩産の野菜と黒甘味噌が調和する「昆布黒牛」は洗練された一体感がある
ときとが目指す伝統からの脱却と“共鳴”する、陶芸家・石田和也の『螺法』
今回のテーマ『共鳴』は、「未来の日本のために、伝統を守るためには常に変化が必要である」という二人の信念を象徴している。ときとは懐石料理の枠を越えた挑戦を掲げ、石田さんは桃山の再現を超えた独自の表現を追求。どちらも「修行を経て伝統を深く理解したうえで、その先を目指す」とし、新たな世界への妥協なき挑戦だ。石井総料理長は、備前焼が桃山時代の茶湯文化の影響を強く受け、その時代の様式をどれだけ忠実に再現できるかが備前焼の評価に大きく関わるという背景から、桃山陶器の再現が作品制作の前提条件となっていると語る。石田さんは、この枠組みを根本から変えるため、遠心力を用いた独自技法『螺法(らほう)』を生み出した。これは螺旋の印を示すだけでなく、その間にある制御できない遠心力を示している。黄金比に基づいたこの模様は、誰もが自然の美しさを感じ取れるものだという。石田さんは、備前磁器素材で表現するアート作品にも力を入れて、作品制作のみならず、地下150mの坑道で自ら天然の磁器粘土を掘り起こし粘土作りから自ら生成している。記憶に残る食事体験において、器は料理そのものと同じくらい重要だ。石田さんは料理における器の重要性について、作品を作る際、常に命を吹き込むようにしており、作品から発せられる声が、料理人たちにインスピレーションをもたらすだろうと考えている。
アンビエントミュージックをBGMに、目を閉じて、手の感覚だけで形成されていく『螺法(らほう)』の器。石田さんは「素材を扱う時、目で見るよりも感覚だけの方がたくさんの情報をキャッチできる。(視覚を排除し)指先の感覚だけで作る方が心地いい」と語る。石井総料理長が「器というよりもアート」と語る石田さんの『螺法』と、料理がどのように調和するかを料理人たちが徹底的に考えたというプレゼンテーションは、食事そのものの意味を再考させるような新しい体験を提供していた。
立川の歴史を刻む場所 「オーベルジュときと」
「オーベルジュときと」は、その存在自体が歴史の継承を体現している空間。
この地にはかつて、1938年に日中戦争下で開業した「ホテル無門庵」が存在していた。その後、料亭としての形態をとり、多くの人々に親しまれたが、2019年にその長い歴史に幕を下ろした。「ときと」は、無門庵の門や茶室といった歴史的意匠を受け継ぎつつ、現代的な「食・茶・宿」という新たな価値を付加している。この再生は、単なる建築物の保存ではなく、無門庵が築いてきた文化や精神を現代のライフスタイルに調和させたもの。「ときと」は、無門庵の記憶を織り交ぜた空間として、過去と現在をつなぐ役割を果たしており、多くの訪問者にとって歴史を感じさせると同時に、新しい体験を提供する場となっている。
ときと石井義典総料理長
全ての料理が、日山浩輝料理長と料理人の手で完全な姿を迎える
■「Auberge TOKITO」(オーベルジュときと)
東京都立川市錦町一丁目24番地26
042-525-8888(お問い合わせ番号)
火曜日, 水曜日
https://www.aubergetokito.com/
予約専用番号
食房 042-525-2492
茶房 042-525-1124
宿房 042-525-2424
Instagram
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(取材ライター:Me Time Japan in Tama)