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artists

有田夏希:Natsuki Aritaテンセン図案 代表http://ari544422.wix.com/ten-sen-zuan

出身:神奈川県
グラフィックデザイナー。2014年、オリジナルブランドとして「テンセン図案」を立ち上げる。ペーパーアイテムの企画・制作・販売を行う。アイテムに印刷された柄は、季節の風景をモチーフにしたもの。Web販売のみならず、「お客さんと近い距離で接したい」という思いからイベント販売にも力を入れている。
〈minne〉 …オンラインでの購入はこちらからhttps://minne.com/ari544422

2016.06.30

気持ちを包むペーパーアイテム

「ちょっと歩きましょうか」
雨上がりの昼過ぎ。待ち合わせ場所に現われた有田さんは、挨拶を済ませると足取り軽く歩きはじめた。

「よく季節のモチーフを探しに散歩に出かけます。近所の公園や緑道に行くことが多いです」
そう言って有田さんは、歩きながら道端にあるあじさいや空飛ぶツバメの姿を目で追っている。

今回お話を聞くのは、2014年にオリジナルブランド「テンセン図案」を立ち上げた有田夏希さん。グラフィックデザイナーとして活躍しながら、四季を感じる柄が魅力的なペーパーアイテムの企画・制作・販売を行っている。立ち上げから約2年。その間にテンセン図案のメンバーは、イラストレーターの福々ちえさん、ナカイミナさんが加わり、生み出すアイテムや柄も多様に。テンセン図案というブランドに込められた思いと、制作のこだわりをお聞きした。

涼やかな夏模様のペーパーバック

涼やかな夏模様のペーパーバック

 

渡す人も貰う人も笑顔に

季節をイメージさせる、優しい色と柄が印象的なテンセン図案のアイテム。そこには使う人の気持ちに寄り添いたいという思いが込められている。
「普段、メッセージや写真をオンラインで送り合うことが多いと思います。その分、プレゼントとか手紙の“もののやりとり”に込められる気持ちの量が増えているように思っていて…。例えば、ときどき貰う手紙がいっそう嬉しく感じますよね。何か実物のあるものを贈るとき、そこには言葉以上の思いがこもっていると思います。だからテンセン図案のアイテムは“気持ちを包むもの”なんです」

そして有田さんが大切にしている“贈りもの”は、特別なものに限らない。日常の中でちょっとした「ありがとう」や「おめでとう」を伝えることも、ひとつの贈りものなのだ。

ただし「あくまでも“包むもの”だから、主役になってはいけない」。
「贈りものの引き立て役になればいいなあと思っています。渡す人も貰う人も笑顔になるような、明るい柄を目指しています」
「あんまり柄の印象が強いと、包むものを選んでしまうと思うんです。モチーフをリアルに描くのではなく、できるだけシンプルなデザインにして季節の“イメージ”が伝わるように、ニュートラルなデザインにしたいんです」

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新商品のシロツメクサ柄。「よく見ると、シロツメクサの葉っぱにも色んな模様があるんですよね」

新商品のシロツメクサ柄。「よく見ると、シロツメクサの葉っぱにも色んな模様があるんですよね」

 

 テンとセンが生み出すもの

「日常使いができるように、モチーフ選びにも気を遣っています。道端に生えているような、より暮らしに近いところにある草花や生きものを選んでいます。そうすることで、柄を見たときにより季節を感じやすくなるかなと」

街中で育ったという有田さん。自然のある場所が限られているからこそ、季節感を大切にしたいと思っているそうだ。
「モチーフを見つけたら、ひたすらスケッチをします。最初はリアルに描いて、そこから余分な要素をだんだん無くしていって…最後に単純な“テン”と“セン”で表せるように」

デザインを決めるとき「贈りものの引き立て役になるように」「季節感があるように」…コンセプトをかたちにできるよう、メンバーの中で大切にしたいことを共有しているという。2年間で創られた柄は40種以上。眺めてみると、どれもが「テンセン図案」と分かるような、親しみやすさと柔らかな雰囲気をまとっている。

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かたちあるものだから、こだわりたい

「実体のあるものだからこそ、質感を大事にしたいと思っています」
たしかにアイテムを手にとると、表がざらざら、裏がつるつる。表面の細かな凹凸は心地よい手触り。印影がつくからだろうか、柄がより温かい印象になっているようだ。封筒のアイテムでは、ちらりと見える光沢のある裏面がアクセントになっている。

「印刷には自動孔版印刷を利用しています。1色ずつ刷り重ねる独特の色が好きで。柄の大きさと色の組み合わせは、いくつも試作しています」

テンセン図案は“手から手に渡されるかたちあるもの”の価値を知っている。だから私たちがテンセン図案のアイテムを使うとき、それはただの包装紙ではない。優秀な“脇役”となり、私たちの思いを温かく包み応援してくれるのだ。

 

紙だけではない可能性

これからの展望をお聞きすると、コンセプトはそのままに布を使ったアイテムも考えているという。

「布って柔らかくて、結んだり洗えたりしますよね。紙とはまた包むものが違ってくると思うんです。それに紙のアイテムは消耗品に近いですが、布になるともっと長く使って貰えるようになるかな」

「商品のラインナップも増やしたいし、イベントにも積極的に参加していきたいですね。お客さんとの近い距離で、自分たちのペースでじっくり長く続けていきたいです」
使う人の気持ちに寄り添うテンセン図案。そこには使う人の気持ちを大切にする、温かなものづくりの姿勢があった。

テンセン図案が生み出した柄を見つめていると、ひとつひとつの小さなパーツが集まるとこんなにも美しくなるのかと驚く。そして何よりモチーフになっているのは、自分の足元や少し見上げたところにある、些細なもの。「テンセン図案のデザインは、私たちの暮らしの中にある!」そう気づいたとき、なんだか目の前にある当たり前の風景がとても美しく思えた。

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