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立川の口福な時間、大地から食の極みへ 五感で巡る奈良・京都の伝統と共にhttps://www.aubergetokito.com/

立川の「オーベルジュときと」で2月11日、12日に「瞬をひきだす」食イベント『ときとと』が開催された。コンセプトは、「旬」ではなく、「瞬」に寄り添うこと。ときとの料理人と独自の世界観を持つ表現者が、互いを深く見つめ、ときにぶつかりながら、 食材、技術、それぞれが最高に輝く瞬間を引き出す。

第3回目のテーマは「再会」。今回は、石井義典総料理長が20代、「京都嵐山吉兆本店(以下、吉兆)」での修行時代を共にした後輩であり、ロンドンの日本料理店「UMU」でも共に腕を振るった奈良県の日本料理屋「白(つくも)」店主、西原理人料理長とともに創り上げた。店名に幕開けの「白」、果てなき流れ「つくも(九十九)」という意を重ね、奈良県を世界レベルのガストロノミーの聖地にしたといわれる名店の匠が、『ときとと』ともに立川の風土と食材を“深化”させ、創り上げた至高の逸皿。今回も、ときとが大切にする一座建立の趣が満ちる空間で、五感を揺さぶる10品が特別なひとときを彩った。

2025/02/11 (火) 2025/02/12 (水)
開催場所

オーベルジュときと

2025.03.08

八寸 River knows
ときとと白(つくも)で腕を振う6名、そしてロサンゼルスから奇遇にも帰国中だった吉兆出身の料理人が加わった7つの味わい。五味が溶け合う繊細さの共演

煮物椀 眠れる森の猪
六角状に型取られた大根は、立川の国宝「六面石幢(ろくめんせきとう)」に因み、6名が集結しそれぞれが役割を担いながら一体となって全体を支え合う姿を表現。独自の狩猟技術を極めた静岡の熟練猟師の猪肉を酒粕、白味噌、実山椒の香りとともに

造り 20代の修行を再現
石井・西原両料理長の原点となる吉兆では、造り場(刺身をつくるところ)で長くの時間を共にした。その修行時代を思い出しながら、一つひとつ丁寧に仕上げた佐渡と三河の魚、ヒラメ、シビマグロ、ホッキ貝、香り高く仕上げられた藁焼きマグロなど

羹(あつもの) 松花堂
吉兆の創業者、湯木貞一(ゆき・ていいち)が考案した「松花堂弁当(しょうかどうべんとう)」を、ときとと白(つくも)の若き二人の料理人が多表現。樋口農園がつくる京都の伝統野菜・聖護院大根を、焼きや揚げなど4つの技法で食感の違いを楽しみながら

肉 鷹峯葱と大和牛の達陀焼き
毎年3月に奈良の東大寺二月堂で行われる修二会、お松明とお水取りの1274回目を立川で再現。室内を真っ暗闇にして炎が舞い上がる演出に、歓声があがった

〆の麺 日高見蕎麦
どんぐりを練り込んだ手打ち蕎麦は、あえて皿を縦に置き、山間を縦に流れる多摩川に見立てた。立川産うどを川の横に広がる山々の見立てとして使い、「立川」という名前の由来である「多摩の横山」を再現。ふわふわと潰れるほどの食感の梅干しは、樋口農園で2日半かけて毎日朝から夜まで、4度の裏返し、戻すの工程を経ることで完璧に仕上がる

甘味 立川の空
イベント期間の立春次候、黄鶯睍睆(うぐいすなく)季節にちなんだ「うぐいす餅」。もった瞬間に手からこぼれ落ちそうなほど柔らかい餅の中には、日本最古の柑橘、大和橘を。ベルガモットの香り漂う柔らかな”白い雲”の下には、色鮮やかなゼリー状のイチゴと微凍結したソルベに、削りたての黒文字の小枝を添えて。大和橘は奈良産の日本最古の柑橘で、10年以上前に西原料理長が”日本らしさを創出できる”として光を照らしたことで注目が集まった

進化と深化を続ける職人たち、伝統を越えた技と味

ときとがこだわるのは、懐石料理の伝統からの脱却するイノベーティブ・キュイジーヌ。白(つくも)は、料理を通じて、奈良県に息づく歴史的遺産や美意識を結びつけ、季節の行事や神事を表現する“深化する”料理を追求している。

西原料理長は、奈良の伝統的な祭事や国宝などをテーマに、料理を独自に振る舞うことを続けてきた。当初は「勝手にそんなことをしていたら怒られるかもしれない」と思っていたが、大変喜ばれ、東大寺の堂内に招待されたことをきっかけに寺社の行事にも深く関わるようになっていった。

昨年は初めて、東大寺で年に一度行われる僧侶が仏さまの御体を浄布で拭い清める行事「お身拭い」に加わった。作業は細かく役割分担され、担当者まで明確に決められており、所属ではない者がたち入れるだけでも名誉なことなのだという。自らの手で仏さまに触れられたことで、歴史や文化を肌で感じることができ、料理に対する想いも一層深まった。

西原料理長と共に店を切り盛る女将、知子さんには料理に宿る歴史と文化、そして時間の流れを見つめる哲学がある。「一番大切にしていることは、その土地の古い歴史や根付いたものを料理で表現すること。懐石料理の形式にこだわって、先付、お凌ぎ、お椀と構成するのではなく、自分達がその時に表現したいことを優先している」。

深く学び続ける忍耐力と尽きることのない好奇心、本物の味を追求し続ける集中力が、料理に結実し、食べる人々に感動を届けている。

取材日には、400年の歴史を誇る京都の樋口農園十四代目、樋口昌孝さんも訪れ、深い思索と喜びが交錯する中で食事を楽しんだ。樋口さんは京野菜をブランドに確立した第一人者として知られ、全国の名だたる料亭やレストランから圧倒的な支持を集める。京都で修行を始めた石井・西原両料理長が10代の頃から慕う“土作りの師”。吉兆閉店後から深夜まで、畑での仕事を共にしながら、大地の手仕事を学んだ。

「畑であらゆる作業を手伝ってくれた二人が、このような会を実現して本当に嬉しい。料理の本質は生産者と料理人の調和、素材の持つ力とその調理方法の深い理解によって磨かれる。食事はひとときの贅沢。その時間の中で、美味しかったと感じてもらうことが大切だと思い、日々土に向き合っている」。

ときとの開店当初から魅せられてきた食通が、今回の体験を振り返る。
「世界を渡り歩いてこられた匠たちの物語と温かい絆から紡ぎ出される繊細で味わい深い料理、そして今回のコラボレーションならではの奈良県の文化が生み出す神聖な世界に感銘を受けた。特に“お松明”と“お水取り”は圧巻。訪れる度に全く違う風景を見せてくれる。毎回、まるで小旅行をしたかのように心満たされる時間を堪能している」。

■Auberge TOKITO

https://www.aubergetokito.com/

東京都立川市錦町一丁目24番地26
JR立川駅よりタクシーで約10分
042-525-8888(9:00-20:00)

(取材ライター:Me Time Japan in Tama )