TACHIKAWA
BILLBOAD

TACHIKAWA BILLBOAD東京・立川周辺のART&CULTURE情報

report

作品を見て、話して、世界を旅する。たましん美術館「旅と美と」https://www.tamashinmuseum.org/post/tabitobito

芸術の都フランス・パリから東ヨーロッパ、光あふれる地中海、アメリカ、そしてアジアへ。
美術館の展示室を歩いていると、次々と目の前の景色が変わり、世界を一周しているような気分になる。

たましん美術館では、展覧会「旅と美と 倉田三郎と美術家たちが出会った異国」が開催されている。
たましんコレクションが所蔵する、海外の作家の作品と、日本の美術家たちが異国から受けた刺激を表現した作品を紹介する展覧会だ。

中でも、40を超える国々を訪ねた洋画家・倉田三郎の旅と作品に焦点を当てている。
7月21日には、対話型鑑賞会「美術館を貸切!『あーちゅびーとたびとび♪ツアー』」も開催された。

2026/07/18 (土) 2026/10/04 (日)
開催場所

たましん美術館

2026.08.03

涼しい美術館から世界を巡る旅へ
会場に入ると最初に目に入るのが、パリの街角を描いた作品だ。
横には、「美術といえば、パリから」という吹き出しとエッフェル塔のイラストが載ったパネル。
展示室を進むにつれて、「渋くてエモい?!東の国々」といったパネルを境に、作品に描かれた国や地域も移り変わっていく。
表現方法も、油彩や水彩、スケッチ、切り絵、彫刻、壺や工芸品など、様々だ。
大きく迫力のある作品も多く、前に立つと、実際にその土地に立っているような気分になる。
ロダンやブラマンクといった海外の著名な作家の作品も多い。
これほど幅広い作品を立川で見ることができる、たましんコレクションの充実ぶりに驚かされる。

休館日の美術館から「アートの旅」へ
7月21日には展覧会の関連イベント「あーちゅびーとたびとび♪ツアー」が開催された。
午前の部には親子5組10人、午後は大人9人が参加。
集合場所は、美術館がある建物の3階「Winセンター」のセミナールーム。
初めに、たましん美術館の学芸員・村山閑さんが挨拶に立った。
「今回の展覧会は『旅』をテーマにしています。今日は休館日なので、ほかの来館者はいません。多少大きな声で話しても大丈夫です。

いろいろな意見があることを、皆さんに感じてもらえれば」と話した。

プログラムを進行するのは、多摩地域を中心に、アートを介したコミュニケーションの場づくりを行っている「あーちゅびー」のメンバーたちだ。

最初に手作りの紙芝居を使って、「自由に話していいんだよ」「感じたことを大切にして」「みんなで楽しもうね」と、鑑賞について優しい言葉で紹介した。

午前の部では、大人と子どもが別々のチームに分かれて鑑賞する。
そう伝えられると、親も子どもも少し不安げな様子だ。
鑑賞の前に、たましん美術館の収蔵作品を印刷したアートカードを使って、アイスブレイクを行った。
参加者は、約20枚のカードから「今日の気分」に合う1枚を選び、理由を添えて自己紹介する。
一人の子どもは、青く丸い形が描かれた作品を選び、「外が暑かったので、涼しそうな絵にしました」と話した。
「シャボン玉みたいで素敵」と、ほかの子どもからもすぐに言葉が返ってくる。
アート作品を間に置くことで、初対面同士の会話が自然に始まっていた。

自由に動いて自由に感じる
「それでは、アートの旅に出かけましょう」と声をかけられた参加者は、セミナールームから美術館へ移動した。
様々な国や地域を描いた作品の中を、子どもチームと大人チームに分かれて進んでいく。
それぞれのチームには、あーちゅびーのメンバーが付き、3つの作品をみんなで鑑賞した。

子どもチームが最初に見たのは、藤井哲の「ガリシアのピーマン売り」。
スペインのガリシア地方を舞台に、褐色の肌の女性たちが小さな椅子に座る様子を描いた油彩作品だ。
「まず1分間、静かにじっくり見てみましょう」と促されると、子どもたちは作品に近づいたり、遠くへ離れたり、下から覗き込んだりしながら、全身を使って見始めた。
「何が描かれているように見えますか」との声掛けに、「ピーマンか唐辛子を売っている」「干しているのかも」「刻んでいるんじゃない?」と、絵の中の女性たちが何をしているのか、次々に意見が出る。
「この人がどこを見ているのか気になる」という子がいると、別の子が「こっちに来ると目が合うよ」と話した。
みんなで絵の周りを動き、どの位置で人物と目が合うのかを楽しそうに探し始めた。
誰かの発見によって、ほかの子どもの見方も変わっていく。

次に鑑賞したのは、19世紀に朝鮮半島で作られたとされる「華角張十長生文箱」。
赤い箱の表面に、動物や植物など様々な文様が描かれている。
子どもたちはガラスケースの周りを何度も行き来し、上からも下からも覗き込む。
「外側に鹿みたいな動物がいる」「上に鳥みたいな、飛んでいるものがあるよ」「想像上の生き物じゃない?」と次々と発見していく。
「もしかして、箱の中にこの動物が入っているんじゃない?」と誰かが言うと、みんなから「わあっ」と声が上がった。

3作品目は、ジェイムズ・ハーバート・スネル「霧けき夜の月」だ。
淡く落ち着いた色で木々や空が描かれ、前の2作品とは一転して、静かな風景が広がっている。
誰からともなく床に座ると、ほかの子どもたちも並んで座り、じっと作品を見つめ始めた。
一人が立ち上がり、「羊がいるよ」と指さす。
「羊を数えると眠くなるよ」との言葉にみんなが笑った。
学年も違い、初めて会った子どもたちが、いつの間にか気兼ねなく話している。
自分の発見を伝えるだけでなく、ほかの子の意見にも耳を傾け、反応している姿が印象に残った。

 

子どもと離れて、一人の鑑賞者になる
大人チームが最初に見たのは、モーリス・ド・ブラマンクの「古い教会」。
暗い色調の中から、白い教会が浮かび上がるように描かれている。
子どもたちとは対照的に、大人たちは静かに作品を見つめていた。
やがて、何が描かれているのか、どのような感じを受けたのかを話し始める。
一人の言葉を受けて、別の人が新しい視点を加える。
その後の作品でも、画家が意図した光の表現や色彩のコントラスト、その土地に暮らす人々の逞しさなど、様々な視点で語り合っていた。

午後の大人の部でも、それぞれ異なる意見が出ていたが、誰も否定することなく、「そういう見方もあるのか」と受け止めていた。
描かれた人物の表情や、作品の時代背景にも思いを馳せ、自分たちの経験や記憶を重ねながら鑑賞が深まっていった。

それぞれの旅を持ち帰る
3作品の鑑賞を終えると、参加者は再びセミナールームへ。
「長旅から帰ってきましたね」と、あーちゅびーのメンバーの言葉に迎えられ、今度は旅のカード作りが始まった。
色紙のカードに鑑賞した作品の写真を貼り、この日体験したことや感想を書き込む。
かわいい吹き出しや、旅をイメージしたイラストのシールも用意され、子どもも大人も楽しそうにカードを仕上げていた。

完成した親子それぞれのカードを同じテーブルに並べ、みんなで鑑賞する。
別々に作品を見たからこそ、親子の間にも「何を見たの?」「どう思った?」という新しい会話が生まれていた。
参加した子どもからは、「ほかの人の意見や発見を聞くと、自分とは違っていて面白かった」「学校の美術の授業とは違って、本物の絵を見ながらおしゃべりできてよかった」という声が聞かれた。
大人からは、「子どもと一緒だと、つい子どものことばかり気にしてしまう。親としてではなく自分が感じたことを話せたのがよかった」「有名な作品でなくても、見ているうちに、こんなに素晴らしい絵があったのだと気づいた」といった感想があった。

旅で見つけた美しさを分かち合う
本展の企画を担当した、たましん美術館の学芸員・村山閑さんに話を聞いた。
「たましんコレクションには、海外の作家の作品と、日本人作家が海外を旅して描いた作品の両方が多くあります。

それらを合わせて紹介し、世界を旅するような展覧会にしたいと考えました」と語る。
展覧会のタイトル「旅と美と」には、どのような思いが込められているのだろう。
「海外で見て感動したもの、美しいと感じたものを伝える手段の一つが美術です。

旅そのものが、美しいものを探す手段でもあります。

だからこそ、昔から多くの作家が旅をしてきたのだと思います」と答える。

今は経済や世界情勢の不安などもあり、誰もが気軽に海外へ行けるわけではない。
「美術館で作品を見ることで、若い人が海外へ目を向ける機会を作りたい」と村山さんは話す。
会場には、世界地図と洋画家の倉田三郎の作品が載ったワークシートも用意されている。
作品を見ながら、世界の広さや、ほかにもたくさんの国があることを意識してもらうためだ。

今回、対話型鑑賞会を実施したのは、「誰かと一緒に見て、旅の感動を分かち合ってほしい」と考えたからだ。
印象に残ったのは、子どもたちが作品の周りを大胆に動きながら、思い切り話していたことだという。
「一度このような鑑賞を経験すると、普段の展覧会でもいろいろな見方ができ、より良い鑑賞体験につながると思います」と村山さんは語った。

目と心で味わう、夏の世界旅行へ
「旅と美と」は、美術家たちの旅をたどりながら、見る人自身も新しい景色や見方に出会える展覧会だ。
「暑い夏に、涼しい美術館で世界旅行を楽しんでほしい」と村山さん。
たましん美術館があるGREEN SPRINGSには、世界各国の料理を楽しめる店もあるので、食事でも旅の続きを楽しめそうだ。
この夏、たましん美術館から、目と心で味わう世界旅行へ出かけてみてはいかがだろう。

●「旅と美と 倉田三郎と美術家たちが出会った異国」
会期:2026年7月18日(土)~10月4日(日)
会場:たましん美術館
主催:公益財団法人たましん地域文化財団
●ワークショップ「思い出を額に入れよう!」
開催日:2026年8月22日(土) 午前の部:10時~、午後の部:2時~
会場:女性総合センター・アイム 作業室
主催:たましん地域文化財団 共催:立川市 協力:一般社団法人Co-production of art Works-M

●「あーちゅびー」
HP:https://artyubee.com/
Instagram:https://www.instagram.com/artyubee_info/

(取材ライター:いけさん)

会場地図