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絵画を生きる 多摩の美術家3人が示す絵画表現の可能性https://www.tamashinmuseum.org/post/kaigawoikiru2025

たましん美術館で3月15日まで開催されている「絵画を生きる ― 多摩の美術家3人展」。
それぞれ独自の表現と世界観を築いてきた実力派の3人、加藤学さん、徳永陶子さん、島﨑良平さんに焦点を当てた展覧会だ。

同じ多摩地域で制作を続け、同じ「絵画」という表現に向き合う作家を提示することで、それぞれの魅力と違いが際立つ。
展示は作家ごとに空間を3つに分け、それぞれの展示構成は、作家の考えに任せた。

キャプションも作品解説ではなく、作家自身の言葉を引用したものが中心で、作品と作家の存在に向き合う鑑賞体験が意識されている。

2026/01/10 (土) 2026/03/15 (日)
開催場所

たましん美術館

2026.02.04

作家本人の言葉から見えてきた制作の背景
会期中の1月24日には、展覧会の関連行事としてトークセッションが行われた。
出品作家3人に加え、展覧会の企画に関わった武蔵野市立吉祥寺美術館学芸員の滋野佳美さん、女子美術大学美術館学芸員の藤森梨衣さんが登壇した。
作品の背景や制作の考え方が、作家自身の言葉で語られ、現在の多摩のアートシーンを身近に感じさせる機会となった。
今回の3人展を企画するにあたり、滋野さんが加藤さんと徳永さんを、藤森さんが島﨑さんを、推薦した。

加藤学 「散策するように、風景をたどる」
加藤さんの展示室には、やわらかな色彩の抽象作品が制作年順に並ぶ。
最初の作品は1992年、30代の頃のものだ。
加藤さんは、今回の展示を「散策するような気分で見てほしい」と言う。
大小の作品が起伏をもって配置され、歩きながら視線を動かすことで、自然の中を巡るような感覚が生まれる。
加藤さんは、制作に必要な体力づくりも兼ねて、アトリエのある八王子周辺を歩くことを日課にしている。
「歩きながら感じたことをメモにとり、レコーダーで身の回りの音を録音する」と話す。
鳥の声やエスカレーターの音、思いがけない環境音、電波の影響までが入り込む。
それらがイメージを広げ、制作のきっかけになるという。
「最初からはっきりとした完成像を決めるのではなく、曖昧なものに、少しずつ意思が加わっていく」と加藤さんは語る。
集中して制作しているときは、描きかけの絵と添い寝をすることもある。
朝、目覚めてすぐに見ると、前日とは違うフレッシュな視点で作品と向き合えるからだ。
これ以上手を入れられない、と感じたところで完成だ。
展示室を歩いていると、そうした思考と試行の積み重ねが、静かに画面に滲んでいることが伝わってくる。

徳永陶子 「記憶を重ね、色彩から光を立ち上げる」
東村山市に拠点を置く徳永陶子さんの展示室に入ると、大きな作品が空間いっぱいに広がる。
その中でも今回の展覧会用に描いた新作は、200号2点、130号2点という大作だ。
トークセッションで徳永さんは、長年テーマにしてきた「記憶」について語った。
「物語としての記憶ではなく、ふと呼び起こされるフラッシュバックのような断片。その積み重なりが、制作のプロセスと重なっていく」と言う。
今回は色彩から光を表現したいと考え、展示空間そのものを意識して作品を制作した。
鮮やかな色彩にあふれる大きな作品の前に立つと、光の中に身を置いているような感覚になる。
キャプションを作品のそばに置かず、1枚のパネルにまとめたのも、鑑賞の没入感を妨げないためだ。
制作過程の言葉をまとめたファイルも用意されており、興味のある人はじっくり読むことができる。
徳永さんの作品では、絵具の使い方も特徴的だ。
フランスから取り寄せた透明感のある絵具を用い、混色するのではなく、キャンバス上で色を重ねることで色彩が生まれていく。
下の色が透けて見えるその重なりは、記憶の層とも重なる。
徳永さんは、フランスを含め海外で長く暮らしてきた。
「その経験を経て、自分が生まれ育ったアイデンティティである東村山で制作したものを、この美術館で紹介できるのが嬉しい」と微笑んだ。

島﨑良平 「古典と現代、土地と線をつなぐ」
島﨑さんは、「現代浮世絵師」と名乗り活動している。
日本美術や中国絵画などの古典的な題材を用いながら、セーラー服の少女など現代的なモチーフを作品の中に登場させている。
「拝島駅のホームで見かけた、制服姿の少女がおにぎりを頬張る無垢な姿に心を打たれて描いたことがある」と言う。(未出品)
多摩の、のどかな風景から作品が生まれたわけだ。
以前はグラフィックデザインやイラストをデジタルで描く仕事をしていたが、現在は和紙に墨、アクリル絵の具、金箔などを組み合わせて制作している。
作品には、大きく配置された人物の他に、よく観ると小さな妖怪やキャラクターが所狭しと描かれている。
企画を担当した女子美術大学美術館学芸員の藤森梨衣さんは、「デパートの展覧会で島﨑さんの作品を見たとき、その巧さと、檜原村を拠点に制作していることに驚いた」と語った。
島﨑さんは現在も檜原村に暮らし、山を歩き、川の線を描くときは実際に川に降り、水に触れてから描く。
「自分が生まれ育ったこの自然に触れて感じることが、無意識に描く線に生かされる」と語った。

多摩地域で生きる、絵画を生きる
武蔵野市立吉祥寺美術館学芸員の滋野佳美さんは、「多摩地域には、過去から現在まで魅力的な作家が数多くいる。

たましん美術館のコレクションも、そうした作家の歩みを蓄積してきた。その中で今回は、現役の作家を紹介する展覧会として企画した」と言う。
滋野さんは3人の作家について、「『絵画で表現する』ことと、『生きること』が一体となっている。

来館者には、この空間にゆっくり身を置いて、作家の生き様を感じ、自分自身の生き方について考える時間にしてもらいたい」と語った。
3つの展示室を巡ると、展覧会のタイトル「絵画を生きる」が静かに腑に落ちてくる。
私たちと同時代を生きる作家の作品と向き合うことで、この地域、そしてそこで暮らす自分自身のあり方を、あらためて見つめ直す機会となるだろう。

■絵画を生きる ―多摩の美術家3人展 加藤学/徳永陶子/島﨑良平
会期:2026年1月10日(土)~3月15日(日)
会場:たましん美術館
主催:公益財団法人たましん地域文化財団
協力:公益財団法人 武蔵野文化生涯学習事業団/武蔵野市立吉祥寺美術館
   滋野佳美(武蔵野市立吉祥寺美術館 学芸員)
   藤森梨衣(女子美術大学美術館 学芸員)

●出品作家によるギャラリートーク 
会場:たましん美術館 展示室内
日時と講師:各回14:30-15:00
1月31日(土) 島﨑良平(終了)
2月14日(土) 徳永陶子
3月7日(土) 加藤学

●学芸員によるギャラリートーク
会場:たましん美術館 展示室内
日時:2月20日(金)14:30-15:10
講師:滋野佳美(武蔵野市立吉祥寺美術館 学芸員)
   藤森梨衣(女子美術大学美術館 学芸員)

(取材ライター:いけさん)

会場地図