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絵本の世界が小劇場に~「ぼくはおくりもの」に見る立川と演劇の新しいカタチ~

写真:絵本の世界が小劇場に~「ぼくはおくりもの」立川と演劇の新しいカタチ~(撮影:金子愛帆)

立川シアタープロジェクト「子どもとおとながいっしょに楽しむ舞台」の第8回公演が、2024年12月20日~22日まで、たましんRISURUホール 小ホールで行われた。
今回は、立川で活躍する絵本作家maymay titi / KITORIさんの絵本「ぼくはおくりもの」を舞台化した。

最終上演回の直前に、演出家で、立川シアタープロジェクト実行委員長の倉迫康史さんと、原作を出版する「水玉舎」を運営するKITORIの代表山上一郎さんに話を聞いた。

2024/12/20 (金) 2024/12/22 (日)
2025.01.24

小劇場文化と立川の絵本作家 夢のコラボ

 「ぼくはおくりもの」公演のチラシでは主人公のくまの涙が目を引く

「子どもとおとながいっしょに楽しむ舞台」は、立川シアタープロジェクトの主要な活動として、クリスマス時期に親子で楽しむ企画として始まり、今回で第8回目を迎える。

会場となるのは、たましんRISRUホールの小ホールだ(第4回目までは大ホール)。

左:KITORI代表 山上氏 舞台美術を担当する

右:Theatre Ort/たちかわ創造舎ディレクター 倉迫氏 台本・演出を担当する

倉迫さんは、「親子の思い出となる体験を、演劇を通じて届けたい」と語ってくれた。

クリスマスの時期、この公演を見に来た家族に、大切な思い出を残そうとする熱意が感じられた。

また小劇場という、演者と観客の距離の近い濃密な演劇空間の文化として浸透させることも、今回のプロジェクトの目的の一つであるようだ。

本公演には、小劇場らしい演者たちの個性が際立つ演出や、絵本の余白から台本を作り上げる実験的な要素が盛り込まれている。

子ども向けのわかりやすさだけでなく、打楽器奏者の古川玄一郎さんのマリンバの本格的な演奏など、大人も十分に楽しめる舞台が作られている。

ぬいぐるみのくまと屋根裏のねずみはいつも一緒に何か楽しいことを見つけだす(撮影:金子愛帆)

作中で、役者から観客席への声掛けは次第に増えていき、会場は徐々に一体感を持って温まっていく。

特に、原作者によって舞台オリジナルに創られたキャラクターのねずみが、次々と観客に陽気に話しかけていた。

ねずみの言葉を通じて、観客はぬいぐるみのくまに寄り添い、大切なともだちになっていく仕掛けだ。

くまを応援する気持ちが会場で一つになって、役者と観客のコールアンドレスポンスは自然と大人にも広がっていく。

参加型で作り上げた舞台装置

ぬいぐるみのくまは、水玉の森を見つけると、そこにはたくさんの水玉模様のアイテムを振る観客が森の仲間として待っていた(撮影:金子愛帆)

インタビューで、建築業やそのデザインまでトータルで手掛け、さらに絵本事業も行うKITORI代表である山上さんは、この舞台美術には、夢の世界を再現するためのこだわりが詰まっていると話してくれた。

書割の部分や床の装飾は、絵本作家maymay titi / KITORIさん本人が手掛けたことで、絵本の世界が現実世界に再現されたそう。

水玉の森で新しく出会ったお菓子屋さんのうさぎは、得意のポーズと明るい性格でくまの心を開いていく(撮影:金子愛帆)

舞台後半に配置されるツリーには、特に力が入っているそう。

事前に行われた子ども未来エンゲキ部「ものでつくるワークショップ 舞台にでてくる『水玉の森』をつくろう」で、子どもたちは、このツリーにきらきらするものを飾り付けたということ。

自分たちが手掛けた作品が、舞台上で世界を作っている様子を見る体験は、とても貴重だ。

子ども未来エンゲキ部では、多くの人に見てもらう舞台制作に参加することの楽しさ、作品を創るメンバーの一員になったような感覚を味わえるだろう。

夢のつづきと余韻を楽しむロビー空間

絵本の世界観の延長を再現したロビーの様子。お菓子屋さん2号店や、ワークショップで作ったツリーが目を引く

山上さんは、さらに舞台の延長としてロビー装飾にも力を入れたと語ってくれた。

物語に出てくるお菓子屋さんの2号店がロビーに設置され、絵本の世界から飛び出したようなお菓子が売られている。

さらに、お店の屋根瓦には、子どもたちがワークショップで作った思い出が込められているそう。

お菓子屋さん2号店のかわいいうさぎの店員さん。お菓子は連日すぐに売り切れてしまう

公演が終わって再びロビーに戻ると、来た時より身近になったように感じるだろう。

特に、子どもたちは、慣れ親しんだ 絵本の世界に浸りきり、その世界がまだ目の前に存在する不思議な現実を楽しんでいるようだ。

出演者たちとの写真撮影の長い列ができていた。

「わたしも、くまさんにさわってみたい」と、子どもの囁き声が聞こえてくる。

絵本の世界が現実になることを、戸惑わずに受け入れてしまう子どもの素朴さは、小劇場の参加型の文化と親和的だと言えるだろう。

終演後もロビーからはなかなか人が去らず、覚めない夢の余韻に浸っているように見えた。

循環する贈り物の魔法

誰かに贈りたくなる絵本やポストカードがロビーに並ぶ

maymay titi / KITORIさんの絵も販売されていて、家の中にもこの日の思い出を連れて帰りたくなる

物語の最後には、くまの言葉を通して贈り物の大切な役割が発見される。

大人の観客は、劇中で自分の贈り物の思い出を思い浮かべて、幸せなノスタルジーと同時に、贈り物を永遠に大切にできないことへの罪悪感も生まれるだろう。

しかし、自分が贈る側になったとき、それを超えるほどの喜びが、子どもたちの純粋な姿から得られるのかもしれない。

この小劇場では、劇に夢中になり泣き出す子どもの姿も許容される、温かい空間が作り上げられていた。

倉迫さんと山上さんが目指す、親子で楽しめる夢のような舞台は、そこに確かに存在した。

 

■立川シアタープロジェクト子どもとおとながいっしょに楽しむ舞台vol.8
「ぼくはおくりもの」
2024年12月20日(金)〜2024年12月22日(日)

(取材ライター:設樂ゆう子)