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たましんRISURUホール(立川市市民会館)大ホール
スペシャリストたちが創り上げる、前代未聞の舞台
本公演には、全国各地で活躍する各分野の実力者5名が出演した。

サンドアーティストの綾砂氏、能楽師として観世流シテ方の多久島法子氏、笛方の相原一彦氏。
そして、ピアニストの阿部篤志氏、ドラマーの榊孝仁氏が集結。
それぞれが自身のジャンルにおいて高い評価を受けているスペシャリストであり、異なる表現者が混ざり合うステージは、まさに圧巻の一言であった。
「能楽×サンドアート」だからこそ生まれる表現力
本公演では、二つの演目が披露された。
最初の演目は「猩々(しょうじょう)」。
酒売り・高風(こうふう)が酒好きの妖精・猩々と出会い、酒を酌み交わしながら酔い戯れる、祝言の能である。
スクリーンには砂で描かれた、にこやかに笑い踊る猩々の姿が写し出され、舞台では楽器隊による軽やかな旋律に合わせて、猩々が楽しげに舞う。
二次元と三次元の芸術が混ざり合い、五感全てで味わう舞台となっていた。
続いて演じられたのは「船弁慶(ふなべんけい)」。
先ほどの「猩々」とは一転し、歴史に紐づいた重厚な物語となっている。
平家の戦い後、鎌倉を離れなければならなくなった源義経が船出の途中で、亡霊となった平知盛(たいらのとももり)に襲われてしまう、といったあらすじとなっており、舞台ではシテ方の多久島氏が平知盛を演じていた。
大きな鉈を持ち義経に襲いかかるシーンでは、実際には存在しないはずの船がそこにあるかのような迫力があった。
音楽も次第に激しさを増し、船を覆うほど大きく描かれた知盛の姿には、太刀打ちできないほどの恐ろしさが漂っていた。

サンドアートによって情景が視覚化されることで、各場面への解像度が一層高まり、物語の世界へより深く没入できた。
また、笛だけでなくドラムやピアノが加わることで、舞の軽やかさや、戦いの禍々しさが表現され、観客の心を大きく揺さぶった。
体験コーナーなどを通じた、能との触れ合い
本公演では、演目の上演に加え、笛の体験コーナーや能についての解説も行われた。
能楽師の多久島氏、相原氏が登壇し、能で演じられるキャラクターや主な楽器について、観客に質問を投げかけながら、子供にも理解しやすい形で紹介していた。
笛の体験コーナーでは、観客の中から数名が舞台に上がり、笛の吹き方を直接教わる機会が設けられた。
笛の内部に「喉(のど)」と呼ばれる短い竹の管が挿入されており、音を出すこと自体が難しいとされる能管。
見事に音が鳴ると、会場からは拍手と歓声が沸き起こった。
本公演は、一般的な能と比較すると楽器や出演者の人数は少ないものの、能への距離を縮めるきっかけとなる内容だった。
私を含め、初めて能に触れた観客にとっては、親しみやすく印象深い体験となったのではないだろうか。


能楽×サンドアートを日本各地で
公演後、本公演にてドラムパーカッションおよびイベント企画を担当した榊さんに話を聞いた。
榊さんによると、この企画の構想は2019年頃からあったという。
当初は珍しい組み合わせであったため、公演の機会は限られていたが、子供から大人、障害のある人まで、幅広い層が楽しめる舞台であることが徐々に知られ、活動の場が少しずつ広がっていったそうだ。
能楽が加わることで、音楽とサンドアートのみの公演とはまた異なる表現が生まれ、海外からの来場者にも好評を得た。
公演に向けて工夫した点については、「それぞれの個性をぶつけ合いながら掛け合わせていくため、演者選びにはこだわった」と語った。
即興演奏を得意とするメンバーで構成し、公演の中で偶然生まれる新たな表現を大切にしたという。
今後の展望については、「世界初となる今回のコラボレーションを、まずは日本各地の自治体で広めていきたい」と意欲を示した。
この新たな芸術同士の出会いは、日本にとどまらず、世界へと広がっていくだろう。


■能楽×サンドアート 砂で描く能の世界 -猩々と船弁慶-
日時:2026年3月29日(日) 14:00開演 (13:30開場)
会場:たましんRISURUホール(立川市市民会館)大ホール
出演:綾砂(サンドアーティスト)、多久島法子(能楽師観世流シテ方)、相原一彦(能楽師笛方)、阿部篤志(ピアニスト・作編曲家)、榊孝仁(ドラムパーカッション・イベントクリエイター/Music Office SAKAKI代表)
チケット:大人3,000円 高校生以下1,500円(全席指定)
主催:公益財団法人 立川市地域文化振興財団
協力:Music Office SAKAKI
後援:立川市教育委員会
(取材ライター:東 樹)