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書評家・絵本作家の「夢だった、本にたずさわる仕事」

書店 有給休暇

国立駅から富士見通りをまっすぐ歩いた所に、そのお店はある。看板にはシンプルに「本」の一文字が書かれている。          
ここは「書店有給休暇」という店名の書店だ。

2024.04.18

開店してまだ1年あまりの同店。

だが町に馴染んだ佇まいは、不思議と何年も前からあるような印象を受ける。 

ドアを開けると絵本のギャラリーが迎えてくれた。

本棚にはビジネス、衣食住、哲学、旅の本などオーナーが自らセレクトした本が並ぶ。

本だけでなくメモ帳、便箋、栞等の文房具にお香やアロマオイルの癒しグッズ、マグカップやグラスなど、心がときめく物がいっぱいだ。


オーナーのナカセコ エミコさんは図書館司書、商品開発の仕事に従事したこともある経歴の持ち主。

「子どもの頃から本屋さんになるのが夢だった」という長年の想いを実現し、この店をオープンさせた。
そんな経歴を持つナカセコさんだからこそ、自らがセレクトした雑貨たちは、どれもを思わず手に取ってしまいたくなる、魅力あふれるものばかりが並んでいる。

肩に力が入らないリラックス出来るお店作り
 取材中、ウインドウに陳列されている色とりどりの絵本を眺め、そのままふらりと入ってくる人も何人かいた。

星の数程ある店で中には、一見様には敷居が高い、なんとなく入りづらい店も多くある。
「書店有給休暇」には道沿いに大きなウインドウがあり、ちょっと覗いてみるだけで、何があるのか好奇心にかられる。

店内は温かみのあるライトが照らされていて、陽だまりのような明かり。

ナカセコさんの手腕が光る居心地のよい空間が、気軽に立ち寄りたい空気を醸し出している。

以前、ここには30年、国立で営業していたイタリアンブティックがあったそうだ。
この跡地での開業を決意した際にナカセコさんは、「店舗を新しくしながら、継承もする」

そして「アンティーク感と新しさ、洗練さと親しみやすさが混在するお店に」

「前のお店の気配を完全には消し去りたくない」

「ここになかったように改装するのは好きではない」と語ってくれた。
 初めて訪れた時に感じた「ずっと昔からこの場所にあったような感覚」は、そんなナカセコさんの想いが現れていたからだろう。

ウエアに込められた優しさ、針が合ってない時計、思い思いの過ごし方
継承しているのは、他にもある。

店舗奥にある洋服が並べられたブースは、中島ナオさんという女性がデザインしたコーナーでもある。

中島さんは乳ガンを患い、その経験を生かし「心と体、双方に心地よくいられる物を作りたい」という思いから、服、帽子をデザインし制作した。

フリルが花のようについていてそっと触れるだけでとても心地よくなる。

中島さんの優しさが伝わってくる肌触りだ。


時間が経つのを忘れてしまう空間。

壁のアンティークの振り子時計に目をやると、「全然時間は合ってないんですよ」とナカセコさんは笑いながら言った。


忙しい忙しいがつい口癖になってしまっている毎日。

時間は気にせず、本や雑貨を通して、ほんのひとときでも現実を忘れ、ほっと一息出来る場所。
ぐるぐる店内を見るのもよし、コーヒーを飲みながら本を読むのもよし、試着室で一人ファッションショーをするのもよし、中には編み物をして過ごす人もいるそう。

楽しみかたは自由だ。


絵本作家の肩書も持つナカセコさんは、出版機能を持つ絵本専門店・ニジノ絵本屋から2冊出版している。

店内に、紺の表紙と黄色の表紙の可愛い小ぶりの絵本が仲良く並んでおり、帰りがけに黄色の本を購入した時、一緒に開店1周年記念のステッカーをもらった。

そこにはこんな文字が。
-Today will be tha best day.-
英気を癒されるだけではなく、明日もまたがんばろうと思える。

一人でも多くの人に足を運んでもらいたい想いと、誰にも教えたくない、秘密の場所にしておきたいと思う気持ちも出てきてしまう。

それが「書店有給休暇」だ。

ナカセコ エミコさん
株式会社FILAGE代表/ 書評家・絵本作家 
(図書館司書・キャリアカウンセラー・認定コーチ)
女性のキャリア・ライフスタイルを中心とした本の事業を行っている。
東京都国立市「書店有給休暇」・ネット書店「働く女性のための選書サービス季節の本屋さん」を運営。
著書に絵本『COFFEE TIME』『LEMON TIME』『窓のようなカレンダー』(ニジノ絵本屋)などがある。

(取材ライター:永田容子)