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市民と共に成長する映画祭 「第11回立川名画座通り映画祭」https://tachikawaeiga.com/index.html

11回目を迎えた「立川名画座通り映画祭」は、これまで以上の規模に進化した。
上映会場を、立川市柴崎学習館と昨年10周年記念で歴代グランプリ受賞作品を上映したシネマシティ シネマ・ツーに加え、kino cinéma立川髙島屋S.C.館にも拡大※。
それに伴い、予選と決勝の選考方式に変え、期間も一週間に延長した。

今回は、9月6日に柴崎学習館、7日にシネマ・ツーで行われた本映画祭のクライマックスと、映画祭を支えたボランティアスタッフたちの姿を取材した。

2025/09/01 (月) 2025/09/07 (日)
開催場所

立川市柴崎学習館・シネマシティ ・kino cinéma立川高島屋S.C.館

2025.09.18

立川駅周辺映画館が協力!3拠点開催に進化

予備審査を経た作品は、市民審査員、特別審査員と多くの人の目を通して入選作が絞り込まれていく

2015年に行われた「第1回立川名画座通り映画祭」は、商店街と立川の映画好きたちによる、手作りの小さな映画祭であった※。

10分以下の短編、自主制作映画という応募条件のもと、回を重ねるごとに作品数は増加していった。

第11回を数える今年、応募総数120本までとなった。

応募総数の増加は、受賞作のクオリティを向上させ、プロからアマチュアまで、自主映画制作者たちが切磋琢磨する場となっている。

今回初めてのコラボレーション、kino cinéma立川髙島屋S.C.館での開催の様子

1日、2日目は、シネマシティ シネマ・ツーで、3日目・4日目はkino cinéma立川髙島屋S.C.館で、応募総数の多いドラマ部門から各日7本ずつ上映された。

お馴染みの柴崎学習館での表彰式の様子。一日短編映画に浸る贅沢な時間

6日には柴崎学習館で、アニメ部門、スマホ部門、MV部門、ドキュメント部門、立川部門市の合計26本が上映され、各賞の受賞表彰式が行われた。

そして最終日は、シネマ・ツーで決勝10作品のコンペティションおよび、グランプリ発表を含む表彰式が行われた。※

選び抜かれた決勝作品からグランプリが決まる

昨年の映画祭に来場したkino cinéma立川髙島屋S.C.館の支配人の田嶋 高志さん(現:株式会社kino cinéma 興行部所属)が、実行委員長の中村能己さんに声をかけたことで、会場拡大へとつながったという。
映画祭と映画館双方の「立川で映画を盛り上げたい」という想いが重なり、この形態が実現された。

関係者、一般客が押し寄せる週末の映画祭をレポート

続々と集まってくる観客たち。一般客も関係者も短編映画を楽しもうと期待しているように見える

6日は短編映画を長時間見ていられる豪華イベントだ。

作品ごとに作品名と紹介文を読み上げる雰囲気は学習館ならでは。

審査員長の中島久枝監督を中心に、特別審査員が当日は最前列に並ぶ。

作品関係者以外にも、当日券の観客が来場し、総数176席と補助いすが出るほどの盛況ぶりだった。

「ファンタスティック・ベーカリー」は、ソフトビニールの人形を動かしたいという想いから作られたストップモーションの作品だ

アニメ部門には、子供も楽しめる作品も多く、昼間に無料で開催することで、映画を身近に感じさせる工夫もされている。

NHKのプチプチ・アニメの制作者でもある、きしあやこさんは、映画祭サイトから本映画祭を知ったという。

この入選をきっかけに「立川に来ることができて良かった」と話してくれた。

雨に満たされた世界がどこかなつかしい画風で描かれる

さらに、特別賞を受賞したアニメーションは台湾から届いたものだ。

葉昭均監督の「Dancing in the rain」は、柔らかいタッチで独特の世界観を見せていた。

ネットを活用した映画祭は、国内外から作品を集めるようになっている。

「アートな2日間」で立川市部門受賞のSUBARU監督の喜びの声が聞かれた

立川部門賞をとったSUBARU監督の「アートな2日間」では、石田倉庫で行われたイベントを題材にしたドキュメンタリー作品だ。

同じ市内で活動しながら、これまで互いの存在を知らなかった者同士が知り合い、アトリエと映画祭の間に交流をもたらす作品となっていた。

楢崎監督の「軍事教練・勤労動員―立川の中学生の戦争」は、立川周辺で実際に起こった戦時中の出来事を伝えている

また、この日の特別上映、楢崎茂彌監督の「軍事教練・勤労動員―立川の中学生の戦争」は15分のドキュメンタリーだ。

現在の東京都立立川高等学校で行われていた手りゅう弾を投げるための訓練や、軍隊方式の訓練について当事者の証言があった。

自分たちの町の歴史を伝承する意義を持つ本映画祭の一面がみられた。

堀田さんは、俳優賞受賞への感謝を述べた

最終日の7日、シネマ・ツーの3階で、予選を勝ち残った10本が上映された。

上映後に、未発表の各賞の表彰と、受賞者インタビューが行われる。

能登半島大震災をテーマにした伊藤優太監督の「走馬灯」で普段は悪役の多い俳優、堀田眞三さんは優しい祖父を演じ、俳優賞を受賞した。

乙木監督の「ラストオーダー」は、わずか9分33秒で、時間を旅することができる映画の可能性を見事に演出している

特別賞の、乙木勇人監督作『ラストオーダー』は、死別した男女の一瞬の邂逅を定点ワンカットで撮った、シンプルながら心に残る作品だ。

門田監督は、毎年、日常的で温かみのある物語映画をバリエーション豊かに創り出している

監督賞、FMたちかわ賞の門田樹監督は、今回3作品を決勝に進めた。

受賞の喜びとして、本映画祭への思い入れを語っていた。

「Alien in The Smartphone」は、宇宙人に乗っ取られたAIアプリと会話する女性のフィクション作品で、縦型で撮られている

栄えあるグランプリに選ばれたのは、ドラマ賞も受賞した川中玄貴監督の「Alien in The Smartphone」だ。

子どもの頃から立川で映画を見ていたと川中監督は述べた。

本作のように、AIと何かを組み合わせたSF映画は今後も数多く作られるだろう。

ミステリアスな脚本が秀逸である。

本映画祭は、映画を楽しむ場として、多彩なジャンルの映画人たちが集まっている

取材中、審査員を務める松本監督は、自主映画を劇場で流すチャンスを出品者に、という想いを語ってくれた。

そして、目にした短編映画のなかで好きな一本を見つける場になって欲しい、さらに制作者が横のつながりをつくるきっかけになればと話してくれた。

ボランティアたちが支える舞台裏

映画出演者で俳優の稲葉祐子さん、アーティストである新原充子さんや手作り腕時計作家 ユリクさん、他にも映像作家や監督なども裏方として活躍している

本映画祭を裏で支える市民ボランティアの姿も様々な場面で活躍していた。6日の柴崎学習館に設置された受付では、ボランティアスタッフが、来場者を明るく出迎えた。
ボランティアの声掛けは例年、春ごろに始まる。

毎年参加しているボランティアの方は、年中行事のように本映画祭を楽しみにしているそうだ。

決勝進出作品を呼び上げる実行委員長の中村さん

「常連に交じって新しいボランティアメンバーが加入している」と実行委員長の中村さん。

多世代が映画祭を盛り立てようと、この場に集まっていることを実感した。

最終日も、中村さんはボランティアたちをまとめる

会場直前のミーティングでは、中村さんの指示をきっかけに、それぞれが主体的に動き出していた。

中村さんは、本映画祭の魅力として、こうしたボランティアの人と人をつなぐ温かさがあると語ってくれた。

ボランティアたちは来場者を快適に、そして出品者や受賞者が気分よく過ごせるように尽くしていた

立川名画座通り映画祭の到達点

最終日の受付には、受賞者たちのサイン付きのポスターが収められた

今年の「立川名画座通り映画祭」では、期間を通じて延べ474席が埋まった。

10周年を迎えた際に掲げられた「立川駅周辺の施設を巻き込むなど、市を挙げたイベントとして成長させる」という目標へ、今年大きく近づいた。

実行委員長の中村さんは、「ここまで来るには立川の市民の力が欠かせなかった」と振り返る。

それは、一般審査員の市民目線が入っている点と、長い時間をかけて本映画祭を支え続けるボランティアの姿からも見て取れる。

「立川名画座通り映画祭」が進化を遂げ、外国からも応募があり、商業映画の監督を輩出し、上映館の規模が拡大していっても、市民が主役であることに変わりはない。本映画祭を愛する市民の力で、これからも映画と人を結びつけていく場であり続けることが期待される。

立川名画座通り映画祭受賞作品一覧 

※シネマシティ株式会社 映画ファンのためのシネコン シネマ・ワン&シネマ・ツー|シネマシティ
※kino cinéma立川髙島屋S.C.館 劇場案内 | kino cinéma立川髙島屋S.C.館 | kino cinéma(キノシネマ)by KINOSHITA GROUP

※諏訪通り商店街振興組合
※立川市商店街連合会立川市商店街連合会 | たちかわ商連
※立川市商工会議所立川商工会議所 
※立川南口西通り西会商店会

(取材ライター:設樂ゆう子)