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自由な発想と色彩があふれる「第51回全国大学版画展」https://www.tamashinmuseum.org/post/daigakuhangaten51

版画というと、学校の授業で彫刻刀を使って制作した木版画や、年賀状に押した消しゴムはんこを思い出す人も多いだろう。
いずれも黒1色で刷った記憶があるのではないだろうか。

たましん美術館で開催されている「第51回全国大学版画展」では、そんな従来の版画のイメージを覆す作品が展示室に並ぶ。
人物や動物、風景などを描いた作品から、抽象的な表現、立体的な作品まで、実に多彩だ。

全国の美術大学や教育系大学、短期大学、専門学校で、版画を専攻する現役学生の作品を紹介する展覧会となっている。
北海道から沖縄まで、全国37校から各校が推薦した97点の作品が集まった。

全国大学版画展は、版画教育の進歩発展と造形表現の研究を目的に、半世紀にわたり開催してきた。
たましん美術館での開催は今回が初めてとなる。

2026/10/21 (水) ~2026/12/20 (日)
開催場所

たましん美術館

2026.11.06

多彩な素材と技法で表現する学生たち
会場には、写実的な具象作品から、色や形を組み合わせた抽象作品まで、幅広い表現が並ぶ。
漫画やイラストを思わせるコミカルな作品、写真のように精緻な作品、社会的なメッセージを感じさせる作品もある。
細部まで丁寧に描き込んだ作品からは、学生たちの高い描写力が見て取れる。
大胆な構図や鮮やかな色彩を用いた作品も多く、若い作り手たちの力強い表現が会場を彩る。
版画といえば紙に刷った平面作品が一般的だが、布やプラスチック、糸、ビーズなど、さまざまな素材を取り入れた作品も展示されている。
どうやって制作されたのか、作品の表面に顔を近づけて観察する来場者の姿もあった。

 

4つの版画技法を知る
今回の展覧会では、作品を大学別ではなく、版画の技法ごとにまとめて展示している。
代表的な技法は、木版画、シルクスクリーン、銅版画、リトグラフの4つだ。
木版画は、木の板を彫って版を作り、インクや絵の具を付けて紙などに刷る技法。
シルクスクリーンは、細かな網目を通してインクを刷る方法で、鮮やかな色彩表現にも適している。
銅版画は、銅の板に刻んだ線や腐食によって生じた凹部にインクを詰め、紙に刷り取る。
リトグラフは、水と油が反発する性質を利用した版画技法だ。
展示室には、4つの技法について解説するパネルと、制作に使う道具を紹介するコーナーも設けている。
各作品の解説には、使用した技法を色分けして表示されている。

 

版画ならではの魅力
たましん美術館の学芸員・相澤美貴さんに、展示の工夫について聞いた。
「従来の全国大学版画展では、大学ごとに作品を展示していました。

今回は技法ごとに分けることで、技法による表現の雰囲気の違いや、同じ技法でも学生によって表現が大きく異なることを楽しんでほしいと思いました」。
技法を紹介するコーナーについては、「木版画は学校の授業で経験した人も多く、親しみがあると思います。

ほかの技法についても知ってもらい、作品がどのような工程を経て作られたのか、想像するきっかけになれば」と話す。
版画ならではの特徴も説明してくれた。
「油彩や水彩とは異なり、直接画面に描くのではなく、途中に『版』を作る工程が入ります。

版を介することで独特の質感が生まれ、制作過程では制御できない偶然の表現が生まれることもあります。

制約があるからこそ生まれる表現も、版画の魅力です」。

学生の言葉から制作の背景を知る
作品の下には、作者である学生自身のコメントが添えられている。
制作の意図や技法の工夫、作品に込めた思い、独自の物語など、内容はさまざまだ。
相澤さんは「作者の人柄やキャラクターも想像しながら楽しんでもらえたら」と話す。
会場では、4人組の学生が作品を1点ずつ丁寧に見ながら、楽しそうに語り合っていた。
経済学や社会学、情報処理などを学ぶ学生たちで、美術は専門外だという。
「たまたま入ってみたのですが、とてもおもしろいです。版画とは思えないほど色があふれています」。
「作品と解説を見ながら、作者の思考のプロセスをたどるのがおもしろい。自分の考えていることを、作品として表現できるのがすごいと思います」。学生たちは、作品に込められた作者の思いや、表現方法に関心を寄せていた。

多摩地域で開催する意義
全国大学版画展は、「日本の美術大学における版画教育の進歩発展と造形表現の研究」を目的に発足した大学版画研究会(現・版画学会)の活動の一環として、開催してきた歴史を持つ。
多摩地域で開催する意義について、相澤さんは次のように話す。
「多摩地域には美術系の大学が多く、芸術家も多く活動しています。

若い学生たちの作品を紹介することで、作り手同士が刺激を受ける機会にもなるのではないでしょうか」。
全国から多くの学生の版画作品が集まり、技法や表現の違いを比較しながら鑑賞できる機会は貴重だという。
「学生にとっても、自分の作品が美術館に展示される機会は多くありません。

若い作家たちに発表の場を提供できることも、大きな意義があると思います」。
集まった作品については、「力強く、生命力にあふれた作品ばかりです。

学生たちは、さまざまな表現方法を試しながら、自分のやりたいことを探しています。

これから作家として活躍するのを見るのが楽しみです」と語る。

五感で作品を楽しむ「はじめての作品鑑賞」
取材当日には、相澤さんが案内する鑑賞プログラム「はじめての作品鑑賞」も開催され、5人が参加した。
「作品の見方は自由ですが、今日は五感で作品を楽しんでみましょう」。
相澤さんが提案したのは、視覚だけでなく、聴覚や嗅覚なども使い、作品の世界を想像する鑑賞方法だ。
「作品の中に入った気持ちになり、感じたことをおしゃべりしましょう」。
参加者は、2〜3分ほどかけて気になる作品を選び、静かに画面を見つめた。

相澤さんが「何か感じた作品はありましたか?」と尋ねると、年配の男性が、複数のカーブミラーを描いたカラフルな木版画について話し始めた。
「踏切の『カンカン』という音が聞こえた。踏切自体は描かれていないが、ミラーの後ろにあるように感じました」。
別の男性は、プールに飛び込もうとする水着姿の人物を描いた作品から、「水に飛び込む『ドボン』という低い音を想像した」と語った。

「では、次は嗅覚で感じてみましょう」と相澤さん。
狼のような険しい顔の動物が、何かをくわえた姿を描く作品を見た女性は、「野生の血の匂いがします。何の獲物を獲ったんだろう。本気で食べに行っている感じがします」と話した。
作品には描かれていない音や匂いを想像することで、参加者からさまざまな言葉が生まれた。
参加した女性は、「こういう見方があるのはおもしろいです。普通に見るより、作品の中に入り込める感じがします。

ほかの作品も同じように見てみたい」と感想を語った。
展覧会についても、「若い人たちが自分の好きなものを作り出そうとする、エネルギーを感じました」と話していた。
相澤さんは、鑑賞プログラムの意図について、「お気に入りの作品を見つけて、じっくり見るきっかけになればと考えました」と説明する。

 

若い作り手たちの多様な表現に出会う
版画には、多彩な技法と素材を生かした、豊かな表現の世界が広がっている。
全国の学生たちが、自由な発想と若い感性で制作した、個性あふれる作品が立川に集まった。
相澤さんは「学生たちの作品を、いろいろな人に見てほしい」と話す。
作品を見て、作者の言葉を読む。
まるで全国の意欲あふれる学生たちと対話しているような、楽しさがある展覧会だ。

 

■第51回全国大学版画展
会期:2026年10月21日~12月20日
会場:たましん美術館
主催:版画学会、公益財団法人たましん地域文化財団
●ワークショップ「生命の木-版画でオリジナルツリーを作ろう-」
開催日:2026年11月28日(土)①10:30-12:00、②14:00-15:30
講師:笹井祐子(日本大学芸術学部 教授)
会場:たましん事業支援センター(Winセンター・多摩信用金庫本店3F)
●はじめての作品鑑賞
開催日:2026年11月14日(土)14:30-15:00
講師:たましん美術館学芸員
会場:たましん美術館 展示室

(取材ライター:いけさん)

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