
TACHIKAWA
BILLBOAD
PLAY!MUSEUM
かはく巡回展「WHO ARE WE 観察と発見の生物学」がスタートした理由
巡回展を監修した国立科学博物館 研究員の川田伸一郎さんは、自らを「標本バカ」と呼び、これまでに製作した標本は数万点にも及ぶ。
モグラの標本なら15分で1個作ることができるというから驚いてしまう。
川田さんは標本を製作する際、100年先を考えて作るという。
「標本とは、ひとつの命を奪うということ。だから、今だけでなく100年後も利用できるようにしなければならないと考えている。
もしかしたらこの先、その種が絶滅するかもしれない。実際に見ることができる標本はとても貴重な資料」。
しかし、標本資料の大半は収蔵庫に保管され、人の目に触れることはほとんどない。「それはもったいない!」。
そんな思いから、この巡回展プロジェクトはスタートした。
2022年 国立科学博物館「WHO ARE WE」展示風景(提供:国立科学博物館)
デザインの力で、「観察と発見」の入り口をつくる
今回の展示は、「知りたい」という気持ちで見てもらいたいと川田さんは話す。
その仕組みづくりが、展示キットによる演出だ。
会場内は非常にシンプルで、いつもの博物館の印象とは少し異なる。
あえて情報量を減らし、ひとつひとつを丁寧にくっきりと見せているのだ。
なにより画期的なのは、展示台の「ひきだし」システムだ。
標本が展示されているボックスの「ひきだし」を来場者自ら開けると、中から観察のヒントが現れ、その意外性や美しさにきっと興味をひかれることだろう。
これらの演出が、従来の鑑賞するだけとは違い、来場者の好奇心を刺激し、「観察と発見」へ導いてくれる。
デザイン力によって、「観察と発見」の入口に気づいたら入ってしまっている楽しい展示方法だ。
キットには11のテーマがあり、哺乳類の多様性やヒトとの異同を知ることができる。
世界屈指の動物標本のコレクション「ヨシモトコレクション」の素晴らしさも見どころだ。
「アルガリ」や「カナダオオヤマネコ」など貴重な動物の剝製も間近で見ることができ、あらためて動物たちのオリジナリティや存在感に畏敬の念を抱く。
「WHO ARE WE」のテーマから発展した5つの個性的なインスタレーション
次のエリアでは、「WHO ARE WE」のテーマから発展した、横浪修さん(写真家)、松原卓二さん(写真家)、鈴木康広さん(アーティスト)、矢部太郎さん(芸人・漫画家)、下岡晃さん/Analogfish(ミュージシャン)、松山真也さん/ siro Inc.(テクニカルディレクター)による5つのインスタレーションが展示されている。
まずは、横浪修さんと松原卓二さんによる「笑顔の森」。
入ったとたんに馴染み深いほっとした気分になるのは、人にとって「笑顔」はとても大切なものだからだろう。
「笑顔」という人ならではのコミュニケーションに注目した写真によるインスタレーションだ。
鈴木康広さんによる「模様の惑星」は、どの生き物も持っているのに、実はよく分かっていない模様の不思議に着目。
泡だて器のようにワイヤーを丸い形にして回転させたものにプロジェクターを投影、残像によって球体を浮かび上がらせ模様を映すインスタレーションを展示する。
鈴木さんは毎日ボーダーの洋服を着ているが、その日、たまたま無地の服を着たら周囲の反応が違った経験があるという。
「人の身体には模様はないけれど、服を着ることで何らかのメッセージを与えているのではないか」と鈴木さんは話す。
動物にはずばぬけた身体的な特徴があるが、人にだってそれぞれ個性がある。
その豊かさを、数字を使ってマンガで描いたのは、芸人・漫画家の矢部太郎さんの「ずばぬける!」だ。
「良いところもダメなところもあるのが人間らしい」と矢部さん。
ちなみに、矢部さんの「ずばぬける!」は、38mmの輪ゴムを通り抜けることができることだそうで、その場で披露してみせ会場を沸かせた。
やはり芸人さん、面白さがずば抜けている。
鑑賞者もずばぬけたエピソードをカードに書きこめる参加型インスタレーションだ。
スリーピースバンド・Analogfishの下岡晃さんが手がけたのは「心拍ソング」。
血の色である赤の部屋に心拍ソングが流れる。
動物にはそれぞれの心拍リズムがあるらしい。
鼓動(ビート)を感じるインスタレーションは不思議と落ち着いた気持ちになってくる。
最後の展示は、siro.Incの松山真也さんの「しっぽはすごい」。
最新のテクノロジーを使用して懐かしくて美しい作品を作り出す松山さんが、しっぽが生えてくる椅子の作品を制作。
来場者が椅子に座ると、ジジジと何かの動物のしっぽが出てくる仕組み。
しっぽ の種類は39種類。思わず盛り上がってしまう楽しいインスタレーションだ。
9人の現代アーティストが創造したどうぶつたち「ユートピア」
最後のエリアでは、9人の現代アーティストの作品群が展示。人間に与えられた創造力の凄みに圧倒される。
参加作家は、大曽根俊輔さん(乾漆彫刻家)、鷹山真彩さん(陶芸家)、はしもとみおさん(彫刻家)、清川あさみさん(アーティスト)、土屋仁応さん(彫刻家)、ミロコマチコさん(画家)、瀬戸優さん(彫刻家)、名和晃平さん(彫刻家)、安田ジョージさん(彫刻家)。
ミロコマチコ「Live Painting 2022.11.18」(2022)
撮影:高野友実、画像提供:京都精華大学ギャラリーTerra-S
名和晃平「PixCell-Flamingo」(2023)
撮影:表恒匡
PLAY!PARKどうぶつ展関連企画「みんなの想像うんち」「いきものたまご便」
「みんなの想像うんち」は、生き物たちはどんなうんちをしているか想像を膨らませながら粘土で作ってみるコーナー。
作った作品は自分で名前を付けて展示できる。
早速、子どもたちが作った独創性のある愛情のこもったうんちたちが楽しそうに並んでいた。
また、「いきものたまご便」は、館内のあちこちに散らばっている大小色とりどりのたまごを見つけ出し、色んな道具を使って運んで集めるイベント。
「みんなの想像うんち」は毎日、「いきものたまご便」は土日祝日、不定期で16:30-16:45頃に開催する。
■詳しくはこちらをご覧ください
https://play2020.jp/article/park_doubutsu/
楽しくポジティブに生き物と人の未来を一緒に考えてみよう
「わたしたちはだれか、どこへむかうのか」。
“わたしたち”とは人だけでなく生き物すべてと捉えると、これから先、わたしたちが地球上で共に生きていく道はどこに向かっているのか。
岐路に立つ今だからこそ、関心を持って前向きな気持ちで考えてみようというメッセージが感じられた展覧会だった。
ぜひ、家族や友人と観に来て、語り合うきっかけにしてみるのもいいかもしれない。
■「どうぶつ展 わたしたちはだれ? どこへむかうの?〜WHO ARE WE? WHERE ARE WE GOING?」
会期/2025年4月16日(水)~7月6日(日)*会期中無休
会場/PLAY!MUSEUM (東京・立川)
開館時間/10:00~17:00(土日祝は18:00まで/入場は閉館の30分前まで)
入場料/一般1,800円、大学生1,200円、高校生1,000円、中・小学生600円
*未就学児無料、いずれも税込み
・割引制度(併用不可)
①[立川割]一般 1,200円/大学生700円/高校生600円/中学生400円/小学生400円/未就学児無料
*立川市在住・在学を確認できる免許証、学生証等をご提示ください
②[障害者割引]障害者手帳をご提示の方とその介添人1名は半額
◎無料提供/オーディオテクニカが贈る「ながら聴き」音声ガイド
約60分に渡り、特定の作品の解説ではなく、動物の鳴き声や解説、詩が聞こえてくる音声ガイド。
“かはく”の川田さんのうんちくも聞ける。
*音声ガイドの利用にはBluetooth接続が可能なスマートフォンが必要です
■詳しくは下記サイトをご覧ください
WEBサイト/ https://play2020.jp/
主催:PLAY! MUSEUM
特別協力:国立科学博物館
(取材ライター・岡本ともこ)