知識だけではない。体験型講演会「能からみた「源氏物語」の魅力」
日本の伝統芸能の一つである「能・狂言」は室町時代から650年以上の歴史をもつ。
立川謡曲会は昭和24年に設立された団体で、とくに能に、触れて、聴いて、謡って、継承していく活動を続けている。
その一つとして、たちかわ市民交流大学団体企画型講座「能からみた『源氏物語』の魅力」が5月21日(日)午後2時~4時30分、女性総合センター・アイム 1階ホールで約49名が参加し開催された。
講演会が開催された女性総合センター・アイム 1階ホール
「能」を身近に感じてほしい
「能は魂を表現し、仏教的なものが多い」と立川謡曲会事務局の木戸口辰雄さんは言う。
戦に翻弄される人びとの悲しみや親子の別れと再会といった「魂」を表出する作品が多くある。
見えない世界を可視化することも「能」の魅力の一つなのだろう。
立川謡曲会では能の魅力を伝えていきたいと考えているが、会員の高齢化に頭を悩ませている。
若い人は能を見ても「言葉がわからない」「難しい」と言い、中には寝てしまう人も。
このような状況から伝統古典芸能の継承に危機感を募らせている。
楽しく、わかりやすく能を伝え、多くの人に能を身近に感じてもらえる機会をこれまで以上に創出したいと模索していた所、
5年前にたちかわ市民交流大学団体企画型講座の募集を目にした。
たちかわ市民交流大学団体企画型講座とは、地域学習館をはじめとした市内の生涯学習関連施設を会場に、
サークルやNPO法人などの市民グループ自身が企画、運営して市民に提供する形の講座だ。
応募企画は毎年立川市により審査がなされ、実施可否が決定する。
実施可の場合、会場、広報などの支援を受けることができるものであり、本講演会は5回目(昨年は新型コロナの影響により中止)を迎えた。
立川謡曲会事務局 木戸口辰雄さん
固定観念を崩す
講演会講師はわかりやすさで定評のある武蔵野大学・文学部教授 能楽資料センター長の三浦裕子さん。
学生に能の印象をたずねてみると「敷居が高そう」だった。
見たことがないにも拘わらずなぜこのような印象を持つのか。
学生に限らず、育ってきた環境下で植え付けられた固定観念を持っている大人が多くいるのではないか。
これを覆したいと思い、学生時代から師事しているシテ方喜多流能楽師・日本能楽会会員の大村定先生に協力を仰いだ。
「能を知ってもらいたい、広めたい」という同じ思いから、快く引き受けてくださったという。
武蔵野大学・文学部教授(能楽資料センター長)三浦裕子さん(左) とシテ方喜多流能楽師・日本能楽会会員大村定さん(右)
知識+観る、聴く、触れて「能」を体験
講演会は、1部で知識を得る+実物を見る、2部で体験するという流れだ。
1部では三浦さんから能の歴史などの概要に加え、能<葵上>の名場面「枕の段」についての解説があり、
その後、貴重な能面や能装束を大村さんがたっぷりと披露。
単に見せるだけでなく、面のつけ方、装束の着け方などについて三浦さんが質問され、大村さんが身にまといながら答える形式で進んだ。
大村さんの丁寧な解説のたびに会場からは「ほぉ」という声があがっていた。2人のわかりやすい言葉による説明が心地よかった。
大村さんはこれまでにも能面、能装束、扇などを携えて小学校に出かけ、生徒たちにそれらを実際に見せ、
さらに装束を着けるという準備の様子も見てもらうようにしている。
様々な角度から本物の能に触れてもらうこと、経験することでしか得られない感覚があり、「それは記憶として残り続ける」と大村さんは考えている。
そしてこの体験を通して能が生徒たちのこれからの様々な「学び」につながればと願っている。
第1部にて講演される三浦さん
能面のつけ方、表情のつくり方を解説される大村さん(左)と三浦さん(右)
能面袋から能面を取り出し客席に披露する大村さん
きらびやかな装束を身にまとう大村さん
2部の「仕舞・所作の体験コーナー」では6人の観客がステージにあがり、大村さんの指導で仕舞・所作を体験。
持ち慣れない大きな扇を手に、慣れない動き。
初めはかたさが感じられたものの、数回繰り返すうちに「能」の滑らかな動きに近づいていたのには驚いた。
その後、立川謡曲会会員の日ごろの練習成果として連吟「小袖曽我」を披露。
最後に1部で解説した「枕の段」を、実際に舞:三浦さん、地謡:大村さんで演じられ、講演会の幕が閉じた。
連吟「小袖曽我」を披露する立川謡曲会
「枕の段」を舞う三浦さん
<参考>
◆武蔵野大学能楽資料センター
◆能楽協会
初心者におすすめです
能楽ガイド
能楽事典
◆たちかわ市民交流大学 講座情報誌「きらり・たちかわ」
(取材ライター:後藤直子)