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八崎篤:Hassaki Atsushi「オトナリatたちかわ」代表

出身:長崎県
2ヵ月に1回、立川市子ども未来センターにて行われる音楽イベント「オトナリatたちかわ」代表。ほかにも間伐材を使ったカホン(打楽器)づくりのワークショップを実施する「CAJON PROJECT(カホンプロジェクト)」にも参加。全国各地でコミュニティづくりやまちづくりの活動に携わる。

2016.06.02

たゆみなく続く「オトナリさん」づくり

偶数月の第1水曜日の夜。照らされた1本の木の下で行われる音楽ライブが印象的な、「オトナリatたちかわ(通称オトナリ)」。今年の6月で丸2年を迎える。イベントに込められた思い、そして来場者の心を掴む訳を知るべく、代表の八崎篤さんにお話を聞いた。

芝生広場でのLIVEの様子。会場内には出店もあり、飲食とワークショップも楽しめるようになっている。フライヤーに付いているリストバンドを見せると、周辺の協力店舗でサービスが受けられる。

芝生広場でのLIVEの様子。会場内には出店もあり、飲食とワークショップも楽しめるようになっている。フライヤーに付いているリストバンドを見せると、周辺の協力店舗でサービスが受けられる。

 

原点=CAJON PROJECT(カホンプロジェクト)

 大学で環境学を勉強した後、建築資材を扱う商社でサラリーマンをしていた八崎さん。今から約5年前、会社をやめた後に元同僚から誘われ、「CAJON PROJECT」に参加することに。「カホン」とは、主に中南米で使われている箱型の打楽器。箱の内部に弦や竹ひご、鈴などが入っており、叩くと独特の余韻が生まれる。同プロジェクトでは間伐材を使って、カホンづくりのワークショップを全国で開催。箱の外側に参加者が自由にペイントをし、自ら演奏を楽しむことで、音楽とアートを取り入れた環境教育を実践。当時「一般の人が、身近な自然環境について楽しみながら知れる機会があったら」と考えていた八崎さんにとって、ぴったりのプロジェクトだった。

 そして八崎さんが初めて立川に訪れたのは、約4年前のこと。このCAJON PROJECTが、新設されたばかりの立川市子ども未来センターで行われたときだった。

立川市子ども未来センター(2012年開設)。子ども・教育支援や市民活動支援の場であり、館内には「立川まんがパーク」も。立川駅南口エリアを活性させるための拠点となっている。

立川市子ども未来センター(2012年開設)。子ども・教育支援や市民活動支援の場であり、館内には「立川まんがパーク」も。立川駅南口エリアを活性させるための拠点となっている。

 

そして「オトナリ」がはじまる 

カホン

施設の前にある芝生広場の木の下でカホンづくりの青空教室。数十人もの人たちが楽器を作って思い思いに演奏する。その光景を見て、施設のスタッフと「ここで楽器の講習会か演奏会をやろう」、と話していた。

 当時は東日本大震災から約1年が経ったころ。八崎さんは、これまで以上に“地域のつながり”のニーズが高まっていると感じていた。

 「僕自身、同じ地域で暮らしている人の顔も知らないのは嫌だと思っていて。せっかくイベントをやるなら、ただお金を払って参加して終わりじゃなく、そこにコミュニティづくりの要素を取り入れたいと思ったんです」

 そこでヒントになったのが、CAHON PROJECT。カホンづくりを通して森林と都市、森林と人がつながるように「音楽を通じて人・まちがつながるようなイベント」を。この構想がオトナリの「種」となる。

 そして同時に八崎さんの頭には、カホンプロジェクトで出会ったアーティストやデザイナー、立川周辺の商店街・お店の店主の顔が浮かんだという。折角なら、つながりのある人たちを巻き込むような「音楽イベント+まちあるき」のかたちにしようと、思いついた。

 「オトナリ」という名前は、八崎さんのアイデア。「オトナリさんがふえると、マチがもっと楽しくなる」という意味が込められている。「オトナリさん」とは、イベントで出会い同じ思い出を分かち合える人たち。

 「イベントが終わった後、関わった人たちの間で『オトナリで会いましたね!』『また次のオトナリで会いましょう!』そんな会話が生まれてほしい」

 

関わる全ての人に自然体でいてほしい

オトナリの音楽ライブには、指定席がない。そして大げさなアナウンスもない。ライブスペースと飲食・談笑スペースがゆるやかに分けられ、来場者は自由なかたちでイベントに参加できる。

 「決まった席を用意して、『ここにどうぞ、あちらにどうぞ』っていうのは好きじゃなくて。もちろん音楽を聴いてほしいけど、何か食べたいなら食べていていいし、誰かと話したいなら話していていいと思うんです」

 参加者の気持ちを邪魔しない工夫が、オトナリの温かく開放的な雰囲気の訳なのだろう。そしてもうひとつ、八崎さん自身がありのままでイベントに関わっていることも、来場者だけではなく、スタッフや出演者が自然体で居られる訳なのだと感じられた。 

初回開催から2年。当初は、2ヵ月に1回という頻度で開催するのでめいいっぱい。困難も多かったという。しかし経験を積んでいくにしたがって、スタッフにも余裕が生まれはじめた。参加者の年代層が広がり、協力店同士のつながりもできはじめ、「まち・ひとをつなぐ」効果が少しずつ見えているという。

 「オトナリでは、人が集まったりつながったりする“フック”として音楽を使っていますが、それだけではなく、ドリンクやフード、ワークショップもひとつの“フック”として考えています」
大事なのは来場者に「共通の思い出」を作ってもらうこと。そのための仕掛けが、イベントの随所に用意されている。

  そして最近では、さらに多くの人たちにオトナリを知って貰おうと、「プレミアムライブ」(栗コーダーカルテット、ビューティフルハミングバード出演)や「エキナカライブ」(ecute立川の改札外にて開催)など既存のかたちに囚われないイベントを開催。

 現在進行しているのは「オトナリビール」づくり。「イベントの中で『乾杯』という共通の思い出を」という狙いで、現在仕込み中(6月販売予定)。他にも多摩のクリエイターの作品を集めたデザインマーケットの構想もあり。オトナリの勢いは止まらない。

 「僕の仕事は料理人みたいだと思うんです。完成形に向かって人や場所を選んだり、マネジメントをしたり、それが僕にできることかなと」

 八崎さん自身、イベントを通じて人とのつながりを広げていく。そしてそのつながりを糧として、さらなる未来を「料理」していく。八崎さんの穏やかな笑顔には、自分を軸として人とまちをつなげる、揺るぎない意志が滲み出ていた。