高井吉一:Takai Yoshikazu金工作家http://tetzbo.zero-yen.com
[出身]兵庫県
[経歴] 武蔵野美術大学卒。卒業後は、現代美術家としてインスタレーションを中心に作品を発表。現在は、金工作家として、古美色と言われる伝統工芸の技法を施した金属製の鉛筆型ボールペン「TETZBO」シリーズをはじめ、インテリアから文具まで、幅広い金属加工制作を行っている。
大掛かりなインスタレーションを作る現代美術家から、小さな鉛筆型ボールペン製作をする作家へ。
多摩川で拾った3,000本もの流木を床に並べる、インスタレーション作品を制作していた。
1995年。現代美術家として作品を発表していた高井吉一さんは、展示後の作品置き場兼作業場として、立川にある石田倉庫NO.3の1階を借りた。その当時作っていたのは、多摩川で拾った3,000本もの流木を床に並べていろいろな角度で見渡せるようにするという、とても大掛かりなインスタレーションで作品だった。
それから20年経った2015年。高井さんは同じアトリエで、古美色と言われる伝統工芸の技法を施した金属製の鉛筆型ボールペン「TETZBO」シリーズの製作を行っている。大きなインスタレーション作品を作っていた作家がなぜ、今、小さなボールペンを作っているのか。気になるところだ。
ちゃんと自分に向き合えて、人と思いを共有出来るようなもの、自分にしかできないこと…って何だろう。
「このTETZBOシリーズを作るようになったのは、ここ3年くらいかな。これから先、体力的にも大きいものを造ることが難しくなるだろうって思ってね。ちゃんと自分に向き合えて、人と思いを共有出来るようなもの、自分にしかできないこと…って何だろうって思って。」 機能だけじゃなくて、きちんと心に残るもの。そして、高井さんは考えた。
「ちびた鉛筆って、何故か捨てられないんですよ。もしかしたら、『チビエン』は記憶や思いの扉を開ける鍵のようなものかもしれない…と思ったんです。しかも、万人に共通のmaster key…」 そして、試作品を作る。蔵前の文具店「カキモリ」の店主広瀬さんとの出会いもあり、改良を重ね、ついに、小さくても手に馴染んでなめらかな書き味のボールペンが誕生した。
「僕は文房具のマニアでもないし、まして専門家ではないから、形は出来ても製品として成立するための基本的な知識がなくて…。そこで、広瀬さんに専門家としてのアドバイスを戴き、なんとか製品として形になりました。」
自分にとっての正義って何だろう。いい年してこんなこと言うのも何だけど、近頃はそう思う。
高井さんは、TETZBOシリーズの制作の他にも、門扉やフェンス、階段などの大きなものから、表札、ドアハンドルの小さなもの、インテリアやインテリア小物、文具に至るまで、あらゆる種類の金物のデザインを制作する。オーダーメイドの作品として、最近納品したのが、この富士見台保育園の門扉だ。園長先生からのオーダーは、「高井さんの好きにやってください」というもの。高井さんは、「この保育園で育ったことが誇りになるようなものにしたい」と、手で一からイメージ画を描きおこしたそう。
色とりどりのかわいいガラスがはめこんである夢がいっぱいの町並みは、子どもたちの毎日の登園を楽しく演出している。 「僕ね。器用なんですよ。悪い意味で…。これしか出来ないというものはなくて、不幸なことにこれまで、大概のことはあまり苦労せずに無難にこなして来た…だから何も出来ていない。それで60歳越えてから、もう少し自分にちゃんと向き合ってやらなくちゃいけないのかなって思って。ほんの少し真面目に生きて行こうと思ってね。今まではそのことが出来ていなかった。自分にとっての正義って何だろう。いい年してこんなこと言うのも何だけど、近頃はそう思う。」
TETZBOシリーズは、TETZBOの取扱店「カキモリ」のHP(http://www.kakimori.com)でも購入可能。
毎年開催される石田倉庫のアトリエ展でも展示販売されているが、ホームページやFacebookでも、新しい作品の情報が随時アップされている。高井さんの遊び心と職人としての粋な技、そして作家としての人生観も詰まった作品を、ぜひご覧頂きたい。