
TACHIKAWA
BILLBOAD
東京・立川周辺のART&CULTURE情報
「背中を押した姉の一言」
「最初の記憶は、リビングで広告の裏紙に機関車かなにかの絵を描いていたことで、暇さえあればというより、鉛筆1本あれば何時間でも絵を描いている子供でした。
振り返ってみると、幼少期の頃から遠足のしおりや文集の表紙の絵を担当したり、学級新聞を作ったりしていました。
小中高は、ずっとサッカーをしていたのですが、怪我など悩みも多くあり。
高2で進路をどうするかとなったとき、姉に『美術大学という世界もあるよ』と言われ、好きな絵を描くことができると予備校に通い始めました。
そこで出会った気の合う仲間と共に絵を学ぶことが楽しくて楽しくて、『僕にはこの道だ!』と思えたんです」。

左:お泊まり保育の思い出(幼稚園)右:日光東照宮に衝撃を受けて描いた文集の表紙(小学6年)
「個性豊かな仲間たちとの出会い」
「美大を目指す上で色々なコースがありましたが、水彩画は子供の頃から身近で日本美術が好きだったこともあり、日本画学科に進みました。
大学では日々絵画制作に夢中になりながら、音楽活動や芸祭を通じて他学科の個性豊かな友人も増えて、徐々に世界が広がりました」。
本当に楽しかったと言葉がほころぶ。
「何のための 誰のための」
「画家の道へ進むことも考えましたが、絵一本で食べていくには厳しい世界。
悩みながらも就職を選びました。
勤務先は広告系の製作会社。
入社当時は、巨匠のようなプロの先輩方に絵を教わりながらお給料がもらえることに幸せを感じていました。
ただ分業制だったこともあり、マニュアル通りの絵作りやお客さんの顔が見えないこと、同じような作業の繰り返しに疲れてしまって、『何のために仕事をしているんだろう』 と悩むようになりました。
次第に腰痛やストレスで体調を崩してしまい、医者の勧めもあって半年ほど休職したんです。
その間、教員免許のおかげで特別支援学校にアルバイトに行く機会がありました。
様々な境遇の子供たちのサポートをして、誰かに一生懸命尽くすということは伝わるのだと学びました。
そして少しずつ体調が回復してきたタイミングで、初めてペンネームを使って売り込みをしてイラストのお仕事をいただきました。
街中の雑誌に自分の絵が載った時の感動もですが、自分の絵を喜んでくれる人がいることが嬉しくて、『あっこれだ!』と思えたんです。
ちょうど 30 歳という節目だったこともあり、意を決して独立しました」と現在に至る気持ちの移り変わりと、当時の気づきを話してくれた。

自宅兼事務所の仕事場
「地元にいる意味」
「一人になったら苦労も寂しさもありますが、自分が動いた分だけ新たなご縁が繋がっていく。
地元に長くいることにコンプレックスもあったんですよ。
みんなが外に出ていくことに憧れたりして(笑)。
でも、同じ場所にいるからこそ、仕事も含め深く色んなことに関わることができる。
定点観測というか、人にしても街にしても移り変わりを目の当たりにできることも面白い。
それに多摩地域は広々としている場所や緑が多いし、どこに行くにも出やすい。
地元の仲間や知り合いも増えて、どこかに行けば誰かにばったり会ったりして、しみじみ幸せだと思います」。

五味さんが手掛けたFSX株式会社の国立ラベルシール付きおしぼり(旧国立駅舎内のまち案内所)
五味さんについて「イラストを見るだけで地元愛を感じる」「勉強熱心で細かなところまで観察をして作り出しているのが伝わってくる」と話すスタッフの皆さんは、まるで教え子を迎えるように温かい。

国分寺史跡めぐり手ぬぐい(こくぶんじ観光まちづくり協会)

国立うちわ市オリジナル手描きうちわ
「シャッターを切るように」
「写真もよく撮るのですが、なにか満たされなくて。
たまたま出会った人でも風景でも、何気ない日々の中で心がときめいた瞬間にスケッチします。
予備校時代に先輩が絵の練習に競い合うようにスケッチをしていて、それを真似していた時の延長なんです。
シャッターは一瞬だけれど、絵は少なくとも30秒とか1分ぐらいは向き合っていないと描けない。
その向き合っている時間、自分の心の記憶に焼き付くというか、それがすごく楽しくて。
没頭して、集中して描いている時は誰にも邪魔されない、その世界にどっぷり入りこむ、とても大切な時間です」。
最近は友達と目的を決めずに、スケッチ散歩やサイクリングに行くこともあるという。

普段持ち歩いているスケッチ帳

五味さんお気に入りの筆記用具
「デザインをするということ」
「依頼されるお仕事には、自分がやったことのないものも多く、日本画学科出身なのでデザイン面は独学。
新たな引き出しを開けるために一から勉強するつもりで向き合うので、インプットには時間をかけます。
図書館に行ったり、人間観察をしたり、散歩や銭湯でただぼーっとしたり。
そこから、頭の中で考えるというよりも白い紙にひたすら描き出す。
昔、自由帳に描いていたように手を動かしているうちに頭と体が繋がってイメージが膨らんでくるんです。
器用な方ではないので、すごく遠回りしたり時間がかかることもありますが、なんとか生み出したものがお客さんに喜んでもらえた時はこの上なく嬉しいですね」。

BALL. 創刊号 表紙イラスト(株式会社けやき出版)

nonowa国立SOUTHのコンセプトパネル
「ストーリーをもたせること」
「タリーズコーヒー&TEAのサステナブルな店づくりと国立をテーマに描いた壁画です。
お隣に小児科クリニックもあるので明るく楽しい絵になればと。
旧駅舎や国立にゆかりのあるイチョウ、国立の老朽化した桜材から作られた照明やスピーカー、多摩産材を使った家具、古着の繊維からできたランプシェード、廃棄予定のりんごや玉ねぎからできたファブリックたちを、国立駅で昔から大切にされているツバメが案内しているんです」。
最近は絵にストーリー性を込めることと同時に説明しすぎないことを意識していると壁画に込めた思いを教えてくれた。

TULLY’S COFFEE &TEA nonowa国立SOUTH店 店頭壁画
「この先」
「初めて美術に接する時って、実は子供の頃読んだ沢山の絵本だったのかなってふと感じて。
いきなり絵が好きになったわけではなく、親に読んでもらっていた本や、幼稚園での読み聞かせやもの作りから、作る喜びみたいなものが育まれたのかなと思うんです。
もうすぐ45歳になるんです。30歳で独立して15周年。
大きくは変わらず、自分の描きたいと思った絵は我慢せずにどんどん沢山描いていくことを軸にし。
その上で人とのご縁や繋がりを大切にして、古いことや慣れたことだけではなく、新しいことにもチャレンジしていける自分でいたいんです。
あと、いつか絵本は作ってみたいです。
子供が喜んでくれることが幸せというか、僕が子供の頃、絵が好きになったように世界が広がったように、ワクワクするようなものを作れたらなと思います」とチャレンジし続ける思いを話してくれた。
いつの間にか描かれた世界に入り込んでしまうような五味さんのイラスト。
この先どんな世界に連れて行ってくれるのだろう。
■五味 健悟 / Kengo Gomi
1981年国分寺市生まれ、国立市在住。
武蔵野美術大学 日本画学科卒。
広告系の制作会社を経て、2011年よりフリーランスとして独立。
紙やWebのイラストを中心に、デザインやフォトレタッチなど、多様なビジュアル制作を手がける。
近年では地域でのモノづくりに携わりながら、創作活動も続けている。
【HP】 https://gomikengo.com
【Instagram】 @gomi_kengo
(取材ライター: 高橋真理)