島内聡士:Shimauchi Takeshi金属造形家
[出身]広島県
[経歴]多摩美術大学工芸学科金属専攻。2012年、大学卒業後、立川の石田倉庫に入居。鉄を中心に鍛金による金属造形を行う。自身の作家作品制作の他に、看板やディスプレイ、ジュエリーなどの小物制作も行う。
一枚の金属の板を叩いて形にする「heat trick — magical metal works」
やりにくさがあるからこその面白さと楽しさ。金属造形って、本当にtrickやmagicなんですよ。
石田倉庫のスロープ下に並ぶ赤い扉。そのうちの一つ、ドアの上にヨーロッパの街にあるような鉄製の看板が出ているのが、島内聡士さんのアトリエだ。看板には、「heat trick — magical metal works」という文字。 「金属って、固くて扱いにくい素材でしょう。ぼくらは、そんな素材からなんでも作り、形にするんです。一枚の金属の板を叩いて形にする、やりにくさがあるからこその面白さと楽しさ。金属造形って、本当にtrick やmagicなんですよ。」
アトリエの中に入ると、作業に使う様々な道具が整理されて壁に並び、シルバージュエリーショップのような雰囲気である。 「おしゃれなアトリエですね」と言うと、「道具そのものが形が面白くて格好がいいからですよ、きっと。これなんか、昔の鍛冶屋さんみたいな道具でしょう。金属に当てて叩いて成形する時に使う道具なんですが、ぼくたちは、こういう道具も自分で作るんですよ。」とのこと。並んでいる道具も作品のように見えてきて、思わず見入ってしまう。
人体という金属からかけ離れたものをただの金属から作ってみたくて。
大学在学中の2011年からアトリエ探しをし、大きな道具は設備が充実した学校でしか作れないからと、道具を作りながら卒業後の準備をしていたという島内さん。2012年から石田倉庫のアトリエに入居し、作家活動を行っている。 「生きているもので一番身近にあるものが人体。2009年、大学3年生の時には、自分の腕をモチーフにした作品を作りました。人体という金属からかけ離れたものをただの金属から作ってみたくて。まず親指から始めて、金属板を叩いて叩いてつなげていって、形にしていきました。」
粘土のようにつけたり、彫刻のように削って作るプロセスと違い、金属は全部つながっていないとならないため、島内さんは、どこをどうやってつなげよう、どこから始めようと考えながらデッサンやラフを描くそうだ。一枚の金属を熱し、叩き、伸ばし、曲げ、溶接しながら形にする作業は、出来上がった完成品を見れば見るほど、気が遠くなるような作業に思えてくる。
自分が形にしたいイメージを思い描いたら、どうしてもその形にしたいという強引さも必要
「せっかちだととても出来ない作業でしょうね。」と言うと、手のひらの上でコップを転がしながら島内さんは、こう答えた。 「いえいえ、逆なんです。せっかちじゃないと鍛金は出来ません。いつまでも時間かけて叩いているだけでは形にならないでしょう?自分が形にしたいイメージを思い描いたら、どうしてもその形にしたいという強引さも必要なんです。
今はこれくらいのコップは半日で作れますが、学生の頃は2週間もかかっていたんですよ。叩いて形にするにはどうやったらいいんだろう?なんの道具を使ったらいいんだろう?って考えて。教わったり、とにかくやってみたり。」
ポートレート撮影をお願いしたら、真っ先に親指を立ててスマイル。誠実で丁寧な話しぶりの中にも、時折茶目っ気たっぷりの素顔がのぞく。金属造形の道にすすむきっかけは、高校生の時にお母様にすすめられて通った「彫金教室」だったそう。石田倉庫で行われるアトリエ展でも、鍛金による作品だけではなく、彫金による指輪も出品している。たばこの煙をくゆらせるおじさんシリーズは、とってもユニークだ。 若き金属造形家島内聡士さん。今後の活躍が大いに期待される注目のアーティストである。