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「知と創造を生む畑」 ブックカフェ「マルベリーフィールド」

ブックカフェ「マルベリーフィールド」

東京都昭島市にあるJR青梅線「中神」駅。
改札を出て左に向かうと、駅舎の窓から黄色いビルが見える。
午後の日差しを受けた外壁には、ポツンと小さな看板があるのみだ。

2019.12.27

 

街の本屋さんがブックカフェに変身

以前ここには1975年創業の「かつざわ書店」があったが、現在はブックカフェに姿を変えている。

ブックカフェ「マルベリーフィールド」。
養蚕が盛んだった明治時代末期から大正時代にかけて、このあたり一帯は蚕の餌になる桑畑が広がっていた。
かつてこの地が上質の絹を生み出したように、「上質な『知』を生み出す『知と創造の畑』を創りたい」という店主の想いが込められ、店名は名付けられた。

 

自慢のサンドイッチがテイクアウトできる、建物側面のショップ。店主の名前に因んだ「勝つサンド」を始め、どの種類もはみ出す勢いで具が挟まっている。

 

人々を静かに見守るブックカフェ

小じんまりとした店内には書棚とテーブルが配置され、ドライフラワーや小ぶりの絵画などが飾られている。
平日は7時から19時までオープンしているので、出勤前や帰りがけに立ち寄る人も多いそうだ。

この地で生まれ育った2代目店主の勝沢 光(かつざわ ひかる)さんは、2008年に父親から店を譲り受け、2013年に現在のブックカフェにリニューアルした。

何でも置いてある書店でなくていい、という勝沢さんが選び抜いた本が店に並ぶ。
「健やかな心と身体を育む本」がキーワードになっているそうだが、ジャンルの幅は広く、時には女性スタッフに選定を任せることもあるという。

これらの本は売りものでありながら、ドリンクを片手にゆっくりと何冊でも試し読みできる。

まろやかで香り高いコーヒーは、100%地下水の地元「昭島の水」を使って淹れられている。
素材を厳選した手作りのフードメニューも、なかなかのボリュームで美味。
サンドイッチも店内で食べられる。

静かに本を読む人、パソコンを開いて仕事をする人、勉強をしている学生さん、楽しげに語らう女性客など、ここはドリンクやフードを注文すれば思い思いの過ごし方ができる空間なのだ。本のお買い上げは、もちろん大歓迎だ。

「世の中は便利になっているはずなのに、心の充足感を得られずに将来への不安やストレスを感じている人が多いと感じます。ブックカフェの運営を通して、来店されたお客様が、いつもより少しスピードを落として時間を過ごすことで、心穏やかにお店を出ていく姿を見守ってきました」と、勝沢さんは語る。

訪れた客が心おきなく過ごせる店の雰囲気は、スタッフの笑顔が生み出している。
特別にお願いして、控室に掲げられたメッセージボードを見せていただいた。

 

経営理念とともに貼ってあるのは、写真入りのメッセージカード。
時間割で交代勤務をしているため、なかなか全員が顔を合わせられないメンバーのために作ったそうだ。
背景の黒板は、以前働いていたスタッフが書いたものを消さずにとってあるという。
さりげなく皆を気遣う勝沢さんの「思いやり」が、居心地の良い店の空気に表れているのだ。

 

新たな空間を求めて

ブックカフェになってから、店には人が集まり、語らうようになり、街のコミュニティスペースとしての役割が大きくなったという。
訪れた人の中から場所を借りたいというニーズが生まれ、各種の講座やワークショップ、アコースティックライブなどが店内で開催されるようになり、店頭スペースでも手作り雑貨などの販売が行われている。
こういった試みに積極的に取り組んできた姿勢も、街の書店が姿を変えて成功していることの要因なのだろう。

減り続ける街の書店を守ること、街の文化振興に寄与すること、人々の息抜きや交流の場を守ることを地道に続けてきたある日、勝沢さんはこれらのこととリンクさせて、「創業支援」を強化することを考えた。
前職だった会計関連の仕事と現在の仕事の経験を活かした、彼ならではの発想だ。

これまでも店内や店頭のスペースを時間貸しすることで、「発表の場」あるいは「販売の場」といったニーズに対応してきたが、新たな多目的スペースの確保をプランし始めたのだ。

 

カフェサイドギャラリーM

初めはよその建物でスペースを借りようかと考えていた彼は、ある時、店の地階にある倉庫に思い至った。
この空間を活用するプランが動き出して1年、2019年11月に「カフェサイドギャラリーM」はオープンの日を迎えた。

サンドイッチ売り場の横に、細い階段の降り口がある。
目立たない場所なので、近々外壁にフラッグが付けられるという。

内装を依頼したのは、KURUMED COFFEE(国分寺・西国分寺)やAdam’s awesome Pie(立川)などの内装で有名な株式会社「kitori」。
カラフルで楽しげな壁画が、暖かく出迎えてくれる。

真新しい木の匂いに包まれながら赤い扉の入口を入り、細い通路を抜けた瞬間、予想していたよりも広々とした空間が広がっていた。
たった今通ってきた狭い通路との対比効果をねらい設計された。

現在、会場には写真家の萩原義弘さんの作品が展示されている。
昭島市在住の萩原さんは、1階店内での写真教室で講師を務めたこともあるそうだ。

「例えば、何気なく来店したお客様が読書を楽しみつつ店内の告知を目にして、地下のギャラリーに絵画を鑑賞しに行く」。
彼はこのように、1階の店内と共に丸ごと楽しんでもらえる「ブックカフェ&ギャラリー」をイメージしている。

絵画や写真などの作品展示だけでなく、ワークショップや体験レッスン、トークイベントなど、多様な使い方ができる空間として、幅広く展開していくそうだ。

新年は、1月から3月まで6回シリーズの「おとなのピアノワークショップ」で幕を開ける。
全くの初心者でも、両手を使ってビートルズの曲が弾けるようになるというのだから楽しみだ。

これと並行して、毎月の自主企画イベントも決まっている。
2月はお茶農家の方による「お茶を美味しくいただく」、3月はパン屋さんによる「ドイツパンを楽しむ」、5月はお坊さんによる「人の心と仏教の話」、6月は昭島の水で作られた「クラフトビールを楽しむ」、7月は「アロマを楽しむ」など、生活に密着した多彩なテーマが用意されている。

ギャラリーの真っ白な壁は、次々にいろいろなアイデアが湧き出てくる勝沢さんの脳内を映し出すキャンバスだ。
これから先、どんな色にも染まることができるという無限の可能性を秘めている。

実はこの壁、ギャラリー完成前のワークショップで一般参加者がプロの左官屋さんに教わりながら、汗を拭きながら仕上げたもの。
人から人へと繋がって、マルベリーフィールドには本当に多くの人が集まってくる。
さらにその輪は広がって、夢を語り、実現させていくのだろう。

 

◆マルベリーフィールド

昭島市中神町1176-36

042-544-3746

https://www.facebook.com/mulberryfield71/