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居場所を見つけたアートたち〜ファーレ立川〜

東京都立川市。JR立川駅から北へ5分ほど歩くと「ファーレ立川」と呼ばれるアートの街区があり、世界中の作家が手掛けた109点のパブリックアートが点在している。

2019.02.05

「109点のアート」というと相当な数だが、もともとこの街には展示するためのスペースは無かったうえに、設置作業が街全体の建設と同時進行で行われたことが、大きな意味を持つこととなった。

 

例えば、チャールズ・ウォーゼン氏(アメリカ)の作品「水瓶」は、街の中4ヶ所の目立たない場所にひっそりと立ち、水遣りや清掃に使うための水栓を中に収めている。

 

 

ファーレ立川のアートは、それぞれ車止め、ベンチ、街灯、排気口のカバーなど「街の機能」を担うことで、自らの居場所を確保したのだ

 

 

建築上の問題をアートが解決した例もある。

代表的なものが、市橋太郎氏(日本)の作品「94・82」。

ここのペデストリアンデッキの支柱は、全て円柱のデザインで統一されているが、この1本だけは構造上、写真のような形にしかできなかったという。

しかし彼はこの柱の形がとても気に入り、濃淡の青い色を塗って美しい作品に変えてしまった。

 

青い柱の作品から駅の方向に歩いていくと、右側に眼鏡のような形の作品が見える。

上を見上げると、2つの大きな建物の間にペデストリアンデッキの2階と階段部分が挟まっている。

伊藤誠氏(日本)は圧迫感のある薄暗い空間を、鮮やかな黄色と明快な形で、明るく魅力的なものに変えた。

彼は、このようなデッドスペースを「創造力が入り込む余地のある場所」と考え、2ヶ所に異なる形の作品を置いた。

 

こちらは、さらに暗く狭い建物と建物の間に置いた、柳健司氏(日本)の作品。

古くからある街と新しくできたファーレの街との「境目」となっている、大きな赤いゲートである。

鮮やかな赤の色は、階段やデッキの笠木として奥へ伸びていき、さらに向こう側にあるもう一つのゲートまで続く。

ファーレの街の「東玄関」とも言える巨大な作品は、殺風景になりがちな「都市の隙間」を明るく彩っている。

 

 

彼は1階部分の通路の壁に、青いネオン管も仕込んだ。

夜になると真っ暗な奥の方がぼうっと光り、幻想的な雰囲気を醸し出す。

 

人ひとりが通り抜けられるくらいの通路で、昼でもあまり光が入らない。

夜になるとさらに暗く、ひっそりとしている。

 

好条件とは言い難いこの空間に、自ら望んで作品を置いた二人のアーティストがいる。

 

 

ジミー・ダーハム(アメリカ)は、立川のこの空間に、彼が血筋を引くアメリカ先住民族チェロキーの記憶を残そうとした。

多摩川の河川敷で拾ってきた石を据えて、そこからワイヤーを張り巡らせた作品。ガラガラヘビが匂いの記憶を辿って、来たところに帰っていくという性質と、帰るところを持たないチェロキーの人々の世界を例えているのかもしれない。

 

ここを選んだもう一人の作家、トニー・バーラント(アメリカ)は、「洞窟の中の、泉が湧き出る神聖な場所」と捉え、金属のプレートを貼り合わせた色鮮やかな作品を作った。

彼はアメリカ先住民族の刺繍やパッチワークの研究家でもあるのだが、同じ空間をチェロキー出身のジミー・ダーハムと共有することになったのは、偶然のことだそうだ。

 

 

今回紹介した作品はごく一部であるが、109点それぞれにアートの居場所が決まったファーレ立川の街は、1994年にオープンし、今年25周年を迎える。

これだけ長い年月の間、パブリックアートが健全に守られてきた例は少ないというが、その陰には多くの人々の努力があることを忘れてはならない。

 

土埃による汚れや経年劣化だけでなく、ゴミの不法投棄、違法駐輪、落書き、事故やいたずらによる損壊など、都市生活の一部分として起こることに対し、官民の関係団体が協力して作品と景観の保全活動に取り組み続けている。

 

3月10日(日)には、年2回恒例のアート清掃イベント「ぴかぴかアートプログラム」が開催される。

アート見学ガイドを行っている、ボランティア団体のファーレ倶楽部が主催で、2002年から実施してきた。

会員とともに、一般市民の参加者がこの街のアート作品をきれいに清掃するプログラムだ。

ファーレ立川に関わるアーティストを招いてのワークショップもあり、今回は記事に登場した「赤いゲート」の作者、柳健司さんがゲスト講師を務める。

 

ぜひこの機会にファーレ立川の魅力を、体感してみてほしい。

 

— イベント詳細と参加申込みはこちらから ー

 ファーレ倶楽部 https://www.faretclub1997.net/

 

<参考文献>

別冊太陽「パブリックアートの世界」監修・北川フラム

「ファーレ立川パブリックアートプロジェクト 基地の街をアートが変えた」著者・北川フラム

立川市市報コラム「ファーレ立川のアートたち」 寄稿・北川フラム

 

<参考URL>

* ファーレ立川アート  http://www.tachikawa-chiikibunka.or.jp/faretart/

* ファーレ倶楽部  https://www.faretclub1997.net/