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鑑賞が楽しく豊かになる、たましん美術館のコレクション展https://www.tamashinmuseum.org/post/collection2026spring

たましん美術館で、「春のたましんコレクション展2026 ソウゾウのめばえ」が開催されている。
昨年春に続き、所蔵作品を紹介するシリーズの展覧会で、今回は多摩地域ゆかりの作家、日本近代美術の作家による作品を展覧している。

本展では、たましん美術館で初公開の作品も展示されている。
そんな作品の展示や関連イベントを通して、誰もが気軽に鑑賞を楽しめる企画となっている。

2026/04/11 (土) 2026/07/05 (日)
開催場所

たましん美術館

2026.05.03

楽しさがめばえる展示の工夫
会場は6つのゾーンに壁で仕切られており、大小の絵画や立体作品が数多く並んでいる。
ゾーンの壁には、それぞれのテーマが書かれたパネルが貼られている。
「風景のさまざま」「素材のちがい」「色彩の効果」「からだをとらえる」「みえるもの/みえないもの」「タイトルに注目」といったテーマだ。
「風景のさまざま」のゾーンでは、多摩地域や日本各地を描いた作品が並ぶが、一見風景に見えない抽象的な作品もある。
「からだをとらえる」のゾーンには、人物画や、フラメンコを踊るブロンズ像、馬に乗る人らしき絵が飾られている。
一つのテーマでも、作家や作品それぞれの表現や視点があり、いろんな見方を楽しめる構成になっている。
順路も決められておらず、気になるテーマや作品から、自由に観ることができる。

各作品のキャプションには作品解説の文章に加えて、「景色の切りとり方に注目すると?」「色の重なりから見えるものは?」といった、問いかけの言葉が添えられている。
解説を読んで作品の背景を理解するだけでなく「作者の意図を自分なりに考える」きっかけになる仕掛けだ。

対話で深める鑑賞体験
会期中の4月25日には、他の人と一緒に鑑賞する「おしゃべり鑑賞ツアー」が行われた。
案内するのは、今回の展覧会を企画した学芸員の佐藤菜々子さんだ。
当日は、子どもを含む幅広い世代の12人が参加した。

最初に佐藤さんが、「今日の体験を通して鑑賞を深めて欲しい」と参加者へ語りかけ、ツアーへの期待が高まる。
佐藤さんの先導で「色彩の効果」ゾーンへ移動し、人の身長ほどもある大きな作品の前に皆が立つ。
正方形の画面に、黄・赤・青といった原色で抽象的な形が描かれた、奈良達雄の「マクロタイム “拖”(た)A」という作品だ。
「まずは2分間、じっくり観ましょう」と佐藤さんから声がかかり、作品の前で静かな時間が流れる。
時計を確認した佐藤さんから「それでは、みんなでおしゃべりしながら観ていきましょう。作品を観て見つけたものを教えてください」と対話が始まる。

最初に小さな男の子が「真ん中に星がある」と指を差すと、佐藤さんは「ここのこと?ほんとだ、星のような形だね」と微笑む。
すると、大人の参加者からも次々に言葉が出る。
「綿棒みたいなものがある」「目の玉に見える」「人の関節のよう」と、お互いの発見に触発されたようにおしゃべりが進む。
佐藤さんが「では、見つけたものから、みなさんがどう感じたかも教えてください」と問うと、「いい気持ち」「高速で回転しているようで不安」「外に広がっていく感じがする」といった感覚が共有された。
佐藤さんは参加者の言葉を受け止めながら、「黄色は外に広がる性質がある色」といった説明や、作品が制作された背景を補足する。
「作家は47歳という若さで病気で亡くなった」という話を聞いた女性は、「どんな想いでこれを描いたのかしら」と少ししんみりと語った。

人それぞれの自由な見方
次に佐藤さんが案内したのは、「見えるもの/見えないもの」ゾーンにある、中嶋一雄の作品「空炎」。
台座の上にステンレスの棒が2本並び立った作品が、ガラスケースに入っている。
「立体作品なので、周りから観て自分がベストだと思うポジションを探して教えて」と佐藤さん。
参加者が、作品を観ながらガラスケースの周りをゆっくりと歩く。

「どこから観るとおもしろい?」という問いに対し、やはり先ほどの男の子が「ここからだと2本が1本に見える!」と口火を切る。
大人の参加者も次々にその位置に移動し、男の子の目線にしゃがむと、「本当だ」と声を上げる。
他にも「横から見ると、2本の棒の間の曲面が、ゆらゆらと揺れる炎のよう」「観る位置によって全然違うものに見えておもしろい」と、ガラスケースを囲んで意見が飛び交った。

ツアー終了後、参加者からは「自分だけでは分からない見方を、みんなから聞けておもしろかった」「立体作品をこれから他で観るときの参考になりそう」と、満足げな声を聞けた。

美術が市民の身近になるきっかけに
佐藤さんに展覧会の企画の意図を聞いた。
「展覧会のタイトルにある『ソウゾウ』は、観る人の『想像』と、作家の『創造』の両方の意味を込めた。作品を前に想像し、作家の創造に触れる。その往復の中で、観る人の中に何かが芽生えてほしい」と話す。
キャプションの問いかけは、佐藤さん自身が作品を観たときに気になったことを、そのままお客様への問いかけにした。
「自分の鑑賞のきっかけ、作品や作家にせまるための足がかりにしてほしい」と語る。

佐藤さんは、武蔵野美術大学の出身だ。
「通っていたころ、アトリエで友人が作品を制作している過程を見たり、制作の話を聞くのが好きだった」という。
「創る人の想いを知った上で出来上がった作品を見るおもしろさを、他の人にも伝える仕事をしたい」と思い、学芸員になった。

「おしゃべり鑑賞ツアー」も、佐藤さんが強く望んで実現させた。
作品を観て自分が感じたことをみんなで共有し、作品の魅力にせまっていくおもしろさを体験する機会、として企画した。
「作品の前でお互いの意見を肯定し合うことで、自分の見方や感性を信じられるようになってほしい」と語る。
この日実際に、参加者がそれぞれ感じたことを素直に発言して、お客様同士の会話のやりとりもあったことを、佐藤さんはうれしそうに振り返った。

「コレクション展では、たましん美術館が所蔵する作品を展示する。市民の皆さんに、ぜひ自分のお気に入りの作品を見つけてほしい」と佐藤さんは願う。
今回の展覧会が終わっても、またいつかここで観ることができるのが、コレクション作品ならではだからだ。
「そうして、たましん美術館が市民の身近な存在、心の拠り所の一つになれば」と静かに語った。

■春のたましんコレクション展2026 ソウゾウのめばえ
会期:2026年4月11日(土)~7月5日(日)
会場:たましん美術館
協力:ファーレ倶楽部
後援:公益財団法人立川市地域文化振興財団

●おしゃべり鑑賞ツアー
日時:5月5日(火祝)、6月13日(土)、7月4日(土) 各回14:30〜(30分程度)
場所:たましん美術館展示室内 

●街へとびだそう!おしゃべり鑑賞ツアー
日時:6月6日(土)14:00~、6月18日(木)10:30~
場所:たましん美術館展示室内およびファーレ立川街区内

●ファミリーデー
日時:5月5日(火祝)
場所:たましん美術館展示室内

(取材ライター:いけさん)

会場地図