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美と出会い、対話する場所、たましん美術館のコレクション展https://www.tamashinmuseum.org/post/collection2025spring

多摩地域に根ざすたましん美術館が、この春、意欲的な展覧会を開催している。

タイトルは「春のたましんコレクション展 対話する美のかたち」。
展示作品数は過去最大級の85点となる。
すべて異なる作家の作品で構成されており、絵画だけでなく陶磁器などの立体作品も多数展示。
平面作品と立体作品が同じ展示ケースに入っていて、見比べられるように並んでいる。

特に注目したいのは、会場全体で来館者へ、ある呼びかけをしている点だ。
静かに並ぶ作品たちが、互いに語りかけるように共鳴し、来館者との対話を誘っている。

本展の企画を担当した、たましん美術館の学芸員・村山閑係長に話を聞いた。

2025/04/19 (土) 2025/07/06 (日)
開催場所

たましん美術館

2025.05.14

多摩地域に息づく「たましんコレクション」
たましんコレクションの起源は1973年にさかのぼる。
歴史資料の収集から始まり、翌年には展示室が設けられた。
1977年には「たましんギャラリー」と改称し、多摩地域の作家たちの作品を積極的に紹介し続けた。
作品は購入や寄贈によって少しずつ増えていき、今では5千点を超える規模にまで成長。
多摩地域にゆかりのある作家の作品や、近代日本の優れた美術作品、質の高い古陶磁器が揃う、独自性の強いコレクションとなっている。

「たましん美術館は、都心まで行かなくても、市民が身近に美術へ親しめる場でありたい」と村山氏。
立地だけではなく、今回の展覧会では、美術館を“遠い存在”にしない工夫が、随所に光っている。

11の視点で、作品と「対話」する
今回の展覧会の最大の特徴は、展示全体を11の“鑑賞テーマ”に分けた構成にある。
「視線」「色と形」「輪郭と模様」など、作品を鑑賞するための視点が書かれた、小さなパネルが壁に貼られている。
パネルの側には、テーマによって人物画が複数展示されていたり、海を描いた別の作家による絵画が二枚並んでいたりする。
それらを同じ視点で見比べることで、表現や素材の違いを探すことにつながり、鑑賞をより深められる。
美術鑑賞に不慣れな来館者でも気軽に楽しめる仕掛けだ。

各テーマや作品の解説文は、簡潔にまとめられている。
「長い文章だと読むのに集中してしまい、作品を見る時間が減ってしまうことを避けたかった」と村山氏は語る。

テーマの順番にも工夫がある。
序盤は「線」や「色」など分かりやすい視点から始まり、後半になるにつれて「距離、速度、時間」や「奥行き、広さ」など、より深いテーマへと進んでいく。
見方を段階的に深めながら、来館者自身の“鑑賞力”が育つように設計されている。

ワークシートで発見する、自分なりの「まなざし」
会場入り口には、6種類のワークシートが用意されている。
これらは、作品との対話をさらに楽しむためのプラスアルファな存在だ。

ワークシートには、シンプルな言葉で作品の見方の手がかりが記されている。
「何をみているのかな?」「同じものを描いていても」といった問いかけが、鑑賞体験を一層豊かなものにしてくれる。
「どう見れば良いか分からない」という不安を持つ人にとって心強いツールだ。

中には、シートをくるっと巻いて望遠鏡のように作品を覗くよう勧めるシートもある。
そこから色や線、形をよく見てもらう意図だ。

1つの見方ができたら、他の作品でも試してみるようシートには書かれている。
シートを使うことで、たくさんの作品も飽きずに、色々な見方で楽しめるだろう。

今回の展覧会では、「眼で触れるようにじっくりと作品と向き合う」ことを呼びかけている。

対話─人と作品、作品と作品
展覧会のタイトルにある「対話する美のかたち」。
「対話」は、来館者と作品との対話、そして作品と作品との対話、の両方を意味している。
類似した題材や形の作品を並べることで、それぞれの違いや特徴が際立ち、自然と比較したくなる。
対話は言葉だけではない。
目で見ることで始まる、静かなやりとりだ。

他の来館者と語り合いながら作品を鑑賞する「対話型鑑賞ワークショップ」も予定されている。
「あーちゅびー」という団体の経験豊かなメンバーがファシリテーションを行い、参加者同士の対話を促す。

村山氏は以前から、「来館者が家族や友人とおしゃべりしながら観ることで、豊かな鑑賞体験に繋がる」と考えていた。

自分とは異なる他人の視点を知ることは、アートの世界をさらに広げてくれるきっかけになる。

“次の一歩”につながる美術館へ
「美術館を、人々がゆったり時間を過ごす場にしたい」と話す村山氏。
「じっくり見れば、作品から必ず何かを感じ取ることができる。
花を買うように、ちいさな感動を持ち帰る時間。
その記憶が、日々の暮らしのなかでふと蘇るような、そんな体験を届けたい」と願っている。

たましんコレクションには、他館でも評価されて展覧会用に貸し出し要請が来るほどの優品がある。
「地元の美術館に、こんなに良い作品がある」。
それを知った時、多摩地域で暮らす人々は、きっと誇らしい気持ちになるだろう。

たましん美術館は、これからも“地域に根ざしつつ、独自の発信を続ける”ことを目指していく。
ここでの体験が、他の文化施設へ足を運ぶきっかけになる──そんな未来を見据えながら。

■「春のたましんコレクション展 対話する美のかたち」
会期:2025年4月19日(土)~7月6日(日)
会場:たましん美術館
関連企画
・おしゃべり鑑賞会 2025年6月14日(土) 13時30分~15時 
・いろいろ鑑賞会 2025年5月31日(土)、6月28日(土)各回14時30分~15時
HP:https://www.tamashinmuseum.org/post/collection2025spring

(取材ライター:いけさん)