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国営昭和記念公園 花みどり文化センター
コツコツ積み上げた10周年
アール・ブリュットと言う言葉、初耳の方も多いだろう。
これはフランス語で、生のままの芸術という意味を持つ。ちなみに英語では「アウトサイダー」と言う。
このアール・ブリュット立川の展示会では、障がいのある方々が創作した絵画、オブジェなどを鑑賞することが出来る。
アール・ブリュット立川実行委員会は、障がいのある子どもを持つ親と、臨床美術士で成り立っている団体で結成10年を迎える。
障がいのある方のアート作品にふれる機会がありこんなにも豊かに表現出来るのかと感銘を受け、みんなにこんなにも素晴らしいものを知ってもらいたいという気持ちから始まった。
スタートは伊勢丹立川店から。
展示会が出来ないかお願いしたところ、原画を見た途端「やりましょう!」と快諾を得て、2015年に2月に立ち上げた実行委員会。
10月には展示会を開くことが出来た。伊勢丹立川店での展示会は6年間続き、その後も色々な会場を渡り花みどり文化センターで開催され、今年で10周年を迎えた。
展示される作品は、メンバー自ら足を使い、アート活動をしている方や事業所などを地道にコツコツ周り、発掘しているという。
「大変なこともあるが、その分発見した時は『やったー!』となってしまうんです」と、お二人とも目を輝かせて語ってくれた。
まさしくそれは宝探しのような感覚なのだろう。
観る、聴く、触れる、展示会の新しい形
訪れる客層は赤ちゃんからシニアまで幅広い。会場が公園内だけあって、公園で遊んだ後に気軽に立ち寄ってほしいという。
①観る
あらためて会場を歩いてみたが、このアール・ブリュット展は「会場内は静かに」「手を触れてはいけない」などという従来の展示会の概念を次々に壊してくれる。
作品も壁にかけられているだけではなく、解放感あふれる空間を生かしたレイアウトは美大卒業チームの腕のみせどころだ。
そこに子どもたちの笑い声が加わり、まるで公園にいるみたいだ。
アール・ブリュット展のアーティストは美術教育を受けてない人が基本。
絵の具の色彩はダイナミックに描いている人もいれば、とても繊細な色使いをしている人もいる。
絵の具かと思ったら、実はちぎり絵だったり、毛糸で描いていたり、大きい、小さいに関係なく一枚一枚にかける情熱が絵から伝わってくる。
②聴く
何と言ってもアール・ブリュット展の魅力は、個性あふれる体験型オブジェ。
「海の箱」と言って、人が一人入れる小さな個室だ。
入口に筒が置いてあり、一つ選んで中に入る。
ステンドグラスのかけらを通して、外からゆらゆら淡い光が射しこんできて、たくさんの魚達が迎えてくれた。
それだけではない。
筒を上下に動かすと「ざあーざあーっ」と波の音が聞こえるのだ。
他の筒を試してみると、今度は「こぽこぽ」と水の音が聞こえる。
気がつけば子どもより大人の方が筒を傾け、海の世界に夢中になっていた。
③触れる
そして、「ぜひ!」とすすめられたのが視覚障がい者の方の作品だ。
これは従来の展示会ではなかなか出来ない触れる体験が出来る。
目をつむり、じっくりと指先と掌に神経を全集中させて作品をさわってみる。
海の生き物だが、ちゃんと口があり、目があり、鱗があるのが感じ取れる。
目を開けて、再度見るとびっしりついている鱗や、手が入れられる程の大きな口に鋭い目、作り手の想像力にただただ感嘆するばかりだ。
圧巻のアートパフォーマンス!
また同展では「スペシャルパフォーマンスDAY」が開催され、間近で楽器演奏や作品作りなどを鑑賞することが可能だ。
取材日のアーティストは「クレイアート」の林航平さんと、「ペン画」の柴田将人さん。
二人が作品作りを開始すると、あっという間に人だかりが出来た。
クレイアートとは粘土を使って創作するアート。
器用に粘土を形成する指先に何が出来上がるのか注目が集まる。
周りにはカラフルな粘土細工の恐竜、鳥、動物が並ぶ。ツノ、うろこ、口の中には一本一本歯が生えており、豆粒のように小さな動物にもキチンと目が描かれていて、細かい作業に見入ってしまう。
柴田さんは、黒い画用紙に銀色のペンで海の生き物を描いている。
驚くことに、下書きなしで一発で描いていくのだ。
ペンの動きを一度も止めずにスラスラと描かれていく、迷いのない筆運びに来場者は固唾を飲む。
最初は、ペン一色で絵を描いていたそうだが、近年は色を入れるようになり鮮やかな色彩で楽しませてくれる。
二人とも一心不乱に創作しているが、来場者が作品について質問したりカメラを向けたりするとこっちを向いて答えてくれた。
思いやりと優しさの伝染
実行委員長の松嵜ゆかりさんは「普通の絵の展示はもう少し上に掛けてあるが、ここではいつもより下げて掛けているんです」と話す。
理由は親子連れの来場者が多いので、子どもや車いすの方が鑑賞しやすいように低めにしているという。
何気なく生活をしていると気づかない心遣いだ。
また、来場者同士で「細かいですねー」「繊細ですよねー」と初めて会うのに作品を見ながら会話が生まれているのが、あちこちで見受けられる。
会場を作っている方々の思いやりと優しさが伝染し、自然と和む場が作られているのだろう。
寒波も吹き飛ばすエネルギー
岡本太郎さんの有名な言葉「芸術は爆発だ!」は正にアール・ブリュットにピッタリのフレーズだ。
冒頭のインタビューで堀内さんと川嶋さんは「作品からエネルギーをもらえる」と目を細める。
最終日の2月11(火)まで残りわずかだが、障がい者の方の内なる想いや感情をアートを通じて、寒波も思わず逃げ出すエネルギーを一人でも多くの人に感じてもらいたい。
■アール・ブリュット立川 10周年記念展示
開催:2025年 1月17日(金)~2月11日(火)9:30~16:30
※1月20日(月)~ 24日(金)休館
会場:国営昭和記念公園 花みどり文化センター
入場無料
主催 / アール・ブリュット立川実行委員会 共催 / 国営昭和記念公園
後援 / 立川市、立川市地域文化振興財団、立川市社会福祉協議会
特別協賛 / 株式会社立飛ホールディングス
協賛 / 東京立川ロータリークラブ、東京立川こぶしロータリークラブ、(宗)真如苑
助成 / 令和6年度 立川文化芸術のまちづくり事業補助金・奨励金助成事業
協力 / KANTAN lnc.、たまfunアート
(取材ライター:永田容子)