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ギャラリー国立・グランデュオ立川・LUMINE立川
東京五美大公募展「ここから」の始まり
国立市にあるギャラリー国立が主催する本公募展は2022年、前身となる東京五美大生限定の企画展示「焔々-ene-えんえん」からスタートした。
翌年には、国立市内の3つの画廊による合同イベント「つなぐ展」が開催。
この年から、一般投票によるグランプリ選出が開始され、2024年から現在の公募展様式に至った。
今年の来場者数は約12,000人、投票数は707票に登り、入賞者にはグランデュオ立川やルミネ立川、ギャラリー国立での展示場が提供されるなど、本公募展が掲げるコンセプトの輪が着実に広がっている。

グランデュオ立川の展示風景

ルミネ立川の展示風景/写真提供:ギャラリー国立
新しい風を吹かせ、多摩地区を代表するアートイベントに
主催者であるギャラリー国立の高橋新樹さんに、本公募展を企画したきっかけを聞いた。
高橋さんの本業は、中小企業の経営コンサルタントである。

高橋新樹さん
「私は初めから美術業界にいたわけではないんです。
ギャラリー国立は、母親が2010年に設立しました。
その母が引退することになり、私が引き継ぐことになりました」。
美術業界は、一部のコレクターによる高値での取引がメインとなる。
一般的には、絵画など美術作品は美術館で鑑賞するものであり、ミュージアムショップで関連グッズを購入することはあっても、作品自体を購入することは殆どないのが現状だろう。
「そうなるとやはりアートギャラリーの中心地は、六本木や銀座など都心部になってしまいます。
だったら、ここで何ができるのか。運営の持続可能性を一丁目一番地として取り組もうと考えました」。
「そこで美術業界の中ではシード(種)にあたる若手作家や学生を発掘し伴走しながら共に成長する、長期的な視点に立った取り組みを始めました。
その一つが、本公募展です」。

「金色の時・妬」-鎹さやか(2023年・グランデュオ特別賞)/グランデュオ立川 1Fショーウィンドウ
例えば小平市には武蔵野美術大学など、美大キャンパスが多摩地域周辺には多数ある。
その学生たちに発表する機会を提供できたら。
またブランディングの観点から、若手作家にアドバイスできることがあるのではないか。
そんな思いが高橋さんにはあった。
「作家をリスペクトしていますので、作品について口出しはしません。
なぜこの絵を描いているのか、自分と向き合い、コンセプトをはっきりさせることの大切さを伝えています」。
更に、時代が求めるトレンドについては、「作品性を時代に寄せる必要はないと考えています。自分が表現したいものを作ることが重要なんです」と力強く答えた。
最後にこれからの展望を伺った。
「誰もが投票によって未来のアーティストを応援できる仕組み作りを大切にしていきたいと思っています。
投票数には、その数の分だけ、投票した人たちそれぞれの思いが込められています。
作品を観て心動かされた人たちが、熱量を持って入れてくれた一票ですから。
そして、いずれは、多摩地区を代表するアートイベントとして、芸術の力を地域に還元していきたいですね」。

展示会場に設置された投票スタンド
■ギャラリー国立
所在地:東京都国立市中 1-9-18 NTC高橋ビル 1F 2F
ウェブサイト:https://www.gallery-kunitachi.com/
結果発表と授賞式
今年は41名が出展し、一般投票による第一次選考で15名が選出された。
選抜展は、9月13日(土)から10月14日(日)まで、グランデュオ立川・8F多摩の小径、及び、ルミネ立川・7Fイベントスペースで展示。
最終日に、一般投票と審査員によって選ばれた各賞の発表と授賞式が行われた。

各賞の発表と授賞式
《各賞発表》
◆大賞 1名
|賞金5万円、グランデュオ立川で個展、ショーウィンドウ展示
KOH(武蔵野美術大学 油絵学科 2年)「透明な方角」
◆ルミネ特別賞 1名
|ルミネ立川で展示販売つきのアートワークショップ
粉川沙雪(武蔵野美術大学 油絵学科 4年)「食欲」
◆優秀賞 3名
|ギャラリー国立の企画展で展示
築山知香(東京造形大学 絵画専攻 3年)「みあげる」
木住野瑞紀(多摩美術大学 日本画専攻 3年)「郷愁」
綾部拓実(武蔵野美術大学 油絵学科 4年)「クレシー」
受賞者と審査員のコメント
◆大賞 KOHさん/「みあげる」

KOHさん/写真提供:小石川ひさ(ギャラリー国立)
「自分なりの気持ちよさを絵の中に作り上げることが自分の仕事だと思っていますが、観る側の人にも「きれいだ」と思えてもらえたことが嬉しい。様々な人々が行き交う場所で、色々な方々に作品の良さが伝わったのだとしたら、感謝したい気持ちです」。
【作品について】「油絵の具の透明性を活かして塗り重ねていくと、幾層もの膜になっていきます。その過程で、空間が現れてくる感覚が好きです。これからも、自分の感覚を大事に、制作に向き合っていきたいです」。
◆ルミネ特別賞 粉川沙雪さん/「食欲」

粉川沙雪さん/写真提供:小石川ひさ(ギャラリー国立)
「まさか賞を頂けるとは思っていませんでした。ルミネ特別賞は今年から創設されたとお聞きしていますが、選んでもらって嬉しい気持ちです。ルミネ立川でのアートワークショップに向けて、取り組んでいきたいです」。
【作品について】「食べることには、喜びと罪悪感の両方があります。今回の作品は、旅行での体験がモチーフです。温かさを伝えるため、黄色やオレンジなどの暖色系の色彩を使用しました。ほおばる表情や膨らんだお腹などに注目してほしいです」。
◆優秀賞 築山知香さん/「みあげる」

築山知香さん/写真提供:小石川ひさ(ギャラリー国立)
「たくさんの方に共感していただける作品を作ることができたのだととても嬉しい気持ちでいっぱいです。この喜びを糧に今まで以上に制作に力を入れたいと思います。本当にありがとうございました。」
【作品について】「『この感覚、知っている』と感じて頂けるような作品を目指しています。今回の作品は、自分の形を確かめる様子を描きました。絵に透明感を出すことで、空気に溶けていくような感覚を表現しています」。
◆優秀賞 木住野瑞紀さん/「郷愁」

木住野瑞紀さん/写真提供:小石川ひさ(ギャラリー国立)
「嬉しいです。美大生にこの様な機会を作ってくれたことに感謝します。商業施設の様な大きな場所で来場者に観てもらえたことや、次回、ギャラリー国立で展示できることも嬉しく思っています」。
【作品について】「故郷が開発されていく様子に寂しさを感じます。絵に描かれたソテツは、家の近くに生えているものです。クロアゲハは、虫捕りが好きだった子ども時代、夏になると現れていた思い出があります」。
◆優秀賞 綾部拓実さん/「クレシー」

綾部拓実さん/写真提供:小石川ひさ(ギャラリー国立)
「受賞できるとは思っていなかったので、驚いています。食べ物の力が強かったのかも。観てくれた人が楽しんでくれたら、何よりも有難いと思います」。
【作品について】「作品のテーマは、“家族の食卓”。一人暮らしを始めた頃の寂しさから生まれました。モチーフのスープは、フランス映画の中で親子が食べていたスープを自分なりに想像して描きました」。
◆たましん美術館 学芸員 相澤美貴さん
「今回の公募展は、技術的な水準が高く、異種格闘技戦といった感じでした。高橋さんに審査基準をお聞きしたところ、お任せするとのことでしたが、それは通常ではなかなかないことですので、自由度が高い公募展だと思います。私としては、技術を使って自分の表現を突き詰めているかどうかを審査基準としました」。
出展者の紹介
■池優衣奈(東京造形大学造形学部 1年)/「泥中の蓮」

「鑑賞者と対話できるような絵を描きたいと思っています。逆境下でも努力する姿は美しいと感じ、水の渦の中を逆らうように泳ぐ金魚を抽象的に描きました」。
■大前美奈(武蔵野美術大学 4年)/「結。」

「幼少期、手や足など一つずつがバラバラだと思っていましたが、それらがすべて繋がっていることに初めて気が付いたとき、整合性がとれた気持ちになりました。その時の感覚を表現しています」。
■須澤芳美(武蔵野美術大学 3年)/「在処」

「人についての絵をよく描いています。目の前にいる人物の奥にあるものを知りたいと思っていますが、場面によって見せる姿は異なり、全部がその人だと思うと、軸がぶれる感覚があります。和紙に絵を描き、それらをコラージュすることで、様々な視点を表しています」。
■nagata yura(武蔵野美術大学 2年)/「cleaning」

「作品のテーマは、『愛着』です。ゴミが捨てられないのは、愛着があるからだと気づき、それらを縫いつなげ、フラッグとして掲げることで、自分にとって大事なことを示しています」。
■橋本春希(多摩美術大学 2年)/「今、俺は、」

「作品のテーマは、『変わらないもの』です。作品に描かれた3人は、中学の同級生です。人生の岐路に立つ私たちの立場はそれぞれに異なりますが、3人は変わらず、地元のいつもの公園で遊んでいました。その時の、現在と過去がゴチャ混ぜになったような違和感を表現しています」。
・アザミユウカ(東京造形大学 1年)/「光の墓標」
・菅野実結(女子美術大学大学院 1年)/「回想の形」
・田村優太(武蔵野美術大学 2年)/「窓」
・317(女子美術大学 2年)/「Time like treasure タカラモノノヨウナジカン」
・lime (女子美術大学 4年)/「派生」
表現者たちの未来にエールを
出展者の皆さんにお話をお聞きすると、ささやかだけど大切にしたい思いを作品にしている人が多かったように感じた。今、「ささやか」と書いたが、それはきっと「大きなこと」でもあるだろう。高橋さんとベテラン作家さんについて話した時、その作家さんが晩年になって、今までの中でも一番じゃないかというくらいの絵を描いたことを教えてくれた。表現の道は長く続く。それはきっと、人生と共にあるだろう。この公募展に出展した皆さん、そして、表現の道を歩まれている多くの皆さんに、アーティストとしての未来と豊かな人生を願って、エールを送りたい。
■展覧会概要

提供:ギャラリー国立
■【ここから選抜展 2025(選抜作品展)】
会場:グランデュオ立川 8F「多摩の小径」
住所:〒190-8554 東京都立川市柴崎町3-2-1
会期:2025年9月13日(土)〜10月14日(火)
展示作品:選抜対象作品(入選作品)
■【もうひとつの「ここから」展(特別展)】
会場:ルミネ立川 7F イベントスペース(ユニクロ前)
住所:〒190-0012 東京都立川市曙町2丁目1-1
会期:2025年9月13日(土)〜10月14日(火)
展示作品:キャンバスサイズ15号までの小作品
(取材ライター: 岡本ともこ)