世界各国のビアスタイルと文化が紹介された書籍「ビール大全」がきっかけで、ロンドンで飲み歩き、ビールの奥深さに目覚めたそうですね。
はい。当時は、ブルワリーを立ち上げるなんて、まったく考えていませんでした。イギリスのビール文化が古いことを知って、「ロンドンのビアバーをいろいろ巡ってみよう」くらいの気持ちだったんです。結果的にすごく楽しかったんですが、今振り返ると、もっと味わっておけばよかったなとも思いますね。
著者のコメントを参考にビアバーを4軒ほど巡って、「グリーンピースが山盛り」と書いてあった店で同じメニューを頼んだら本当に山盛りの料理が出てきたり(笑)。イギリスではビールの温度が日本より高めでリアルエールは炭酸もマイルドだと書いてあったものの、あるバーでサマーエールを頼んだら炭酸がしっかり効いていて冷えていて驚きました。あと日本のビールは炭酸が強めですが、イギリスではハンドポンプで注ぐリアルエールが主流のため炭酸もマイルドでした。店によって提供の仕方が全然違うことも面白かったですね。僕の好きなギネスビールが、本国では一番安くてどこのバーでも飲めることは意外でした。
学生時代、憧れだったスターバックスでのアルバイトをきっかけに、接客やコーヒーの魅力を知ったと伺いました。
そうですね。憧れのバイト先という感覚から始まったんですが、接客やコーヒーを通じて、仕事の面白さや人との関わりに魅力を感じました。当時は機械設計を学び、ものづくりの道を進んでいましたが、スタバでの経験がずっと心のどこかに残っていて。「あの感覚をもう一度仕事にしたい」と思うようになったのが、今の道のきっかけです。
スタバの目標となる言葉は「Amazing sarvice」です。想像を少しでも上回る驚きや感動体験がカスタマー・サティスファクション向上につながりまた来たいと思ってもらえます。当時は豆の説明をしたり、抽出器具を売り切るまで販売したり。店長も非常にカリスマ性のあって刺激を受けたんですが、クリスマスには地域で一番の売り上げを達成するほどの人気店でした。その元店長がある日、イサナに飲みに来てくれて。「一緒に何かやろうよ」と声をかけてくれたことがきっかけで、「金子半之助」とのコラボビールが生まれました。

そのコラボビールが、5月に登場した「金子半之助 醍黒天エール」ですね。
はい。まずは「金子半之助」さんから、天ぷらに使っている素材をいろいろ送ってもらい届いたのは、揚げ玉、タレ、七味、ごま油、そしてガリ。どれも香りが強く個性的で、ビールとの相性を探るのにわくわくするラインナップでした。
丼たれやごま油の香りなど、「金子半之助」らしさをどうビールに落とし込むか考え、試作を重ねた結果、柑橘系ホップが香る軽やかなIPAに「醍醐味(だいごみ)」というオリジナルブレンドのスパイスを加えるアイデアにたどり着きました。ミリ単位での調整を重ね、辛すぎず香り高く仕上がる絶妙なバランスを探りました。「醍醐味」の繊細な風味を活かすため、麦汁の温度管理にも細心の注意を払いました。焙煎麦芽を使って香ばしさと深みを出し、天丼や天ぷらと相性の良い、特別な一杯になったと思います。

地域の神社や銭湯、日本酒蔵とのコラボも行っていますが、次の企画を教えてください。
最近のコラボレーションは立川にあるブルワリー「立飛麦酒醸造所」とのコラボレーションです。先日、先方の設備を使って一緒に仕込みを行いました。ビールのスタイルはセッションIPAで、軽い飲み心地でふわっとホップの効いた爽やかな仕上がりになる予定です。
コンセプトは立川と昭島のコラボレーションということで、両市にまたがる昭和記念公園。公園になる前は米軍の基地として運用されていました。昭島側に軍の洗濯工場があり、ランドリーゲートというバス停がありました。ユーミンもランドリーゲートというタイトルで歌っています。そのバス停は今はもう無くなっていますが、その歴史を鑑みて洗濯工場の爽やかな洗剤をイメージする柑橘の香りをホップで再現しました。7月後半にリリース予定です。瓶ビールでも販売されます。見かけたら是非飲んでみてください!!
色々な方とのコラボレーションを積極的に行っていて、ビールはこちらとあちらをつなぐ架け橋となっています。そこにはお互いの好きがクロスオーバーする楽しみがあります。

ビールが美味しい季節、そのほかに今夏のおすすめを教えてください。
夏にかけて仕込む予定の「沖縄そば出汁エール」はイサナブルーイングの初の試みの出汁ビールです。豚骨を煮込んでかつおだしを引いたビールを仕込みます。過去にはうどん出汁エールというイサナの準定番がコンペで金賞を取りました。日本は出汁文化です。出汁をモチーフにした和風のビールでみなさんに楽しいビールタイムを過ごしてもらいたいですね。
あとは定番のヴァイツェン。バナナのようなアロマがふわっと広がって、甘すぎず、飲み飽きないバランスが特徴です。ピルスナーやIPAはもちろん、「イチゴ大福サワーエール」「ナイトロビール(窒素100%使用)」など、個性的なビールも揃えているので、飲み慣れた味を大切にしたい人も、未知の味に惹かれる人も。それぞれの「好き」に寄り添う一杯を目指しています。
日本人のビールの飲み方をお寿司に例えることがよくあるんですが、ピルスナーしか飲まないのはマグロだけでお寿司食べているのと同じです。ビールには色んな味わい、香り、温度、飲み方があって、知れば知るほど楽しいので自分に合う一杯に出会えると、世界がちょっと広がると思います。
イサナブルーイングのコンセプトは「苦い飲み物でみんなを笑顔にする、ものづくりと実験の場」ですね。
人生を楽しむ秘訣は、「好き」をたくさん持つこと。たとえば、空を見て「雲って向こうまで続いてるんだな」と感じるような、小さな感動でもいい。ほんの少しでも「これいいな」と思えるものがあると、それだけで毎日がちょっと豊かになります。小さな感動でいいんです。
学生時代のスタバでの接客で得た成功体験や、趣味の旅行やカメラ、映画など、ばらばらだった「好き」が今、仕事の中で自然につながっている感覚があります。それが星座みたいに点と点が線になる瞬間があって、とても気持ちいいんですよ。これからも「好き」を大切にしたいですね。
■ISANA Brewing Brewery & Roastery
HP:https://www.isana-brewing.com/
Instagram:https://www.instagram.com/ isanabrewing
(取材ライター:Me Time Japan in Tama )
人生で影響を受けた【私の三冊】を教えてください

この本は好きと好きの点が線になり、今も繋がっている一冊です。 当時熱狂的なファンであったドラマ「踊る大捜査線」の織田裕二が映画「ホワイトアウト」にも主演するということで原作となったこの作品を高校生の時に読みました。 この時から映画は大好きで、繰り返し見た作品も含めるとすでに1000作品を超えています。 実際に見た映画も楽しかったのですが、映像では表現出来ない情報が文字でこんなに緊張感が有ってドキドキすることに読書の喜びを覚えました。ちなみに、この本は武装グループに占拠されたダムをダム職員が奪還するという男の子心くすぐる熱いストーリーです。今はダムが好きなものの一つとなり仕事にも繋がっていくとはこの頃は思いもしなかったことは言うまでもありません。

高校の時からの友人になんとなく勧められて借りた本です。それまではクラフトビール?海外のビール?くらいの気持ちでしたが、この本を読んでビールの概念が劇的に変わりました。各国のビール文化を丁寧に解説してくれていて、強く興味を持ちました。著者が実際に訪れた街のオススメのビアバーが紹介されています。イギリスがビールの発祥の地とは知らず、本場のビールを飲んでみたくなりすぐに渡英しました。英語は苦手ですが、入国審査の時に英語で”本場のエールビールを飲みに来ました”と伝えるとお堅い入国管理局のお姉さんを笑わせることが出来たのが良い思い出です。実際に本で紹介されたロンドンのビアバーを巡りながら経験を積むことが出来ました。この時の経験からホップよりもモルトが前面に出たビールのスタイルが好きになりました。今のイサナブルーイングの前進のきっかけとなった一冊です。

太陽の塔が大好き!から、岡本太郎のファンになり、沖縄文化や縄文土器が好きという同じものに興味があることをきっかけに岡本太郎の考え方に共感しました。この本には太陽は爆発だ!という名言の真意も書かれています。岡本太郎のべらぼうな生き方に痺れる思いです。到底あのような生き方は私には出来ませんが、人生のスパイスとして私の中で生きています。うまくなるな、きれいであるな、ここちよくあるな。