
TACHIKAWA
BILLBOAD
まさに3本の矢~高校生起業家たち~
会社名は「カマエ」。
社長、広報、経理の3人で運営されている。
<社長>
鈴木亜里紗さん
臨機応変に対応し、人と話すのが得意。仕事相手と打合せをする時は全部つないでくれる。取材では理路整然と答えてくれた。
<広報>
松浦有紗さん
モノづくり、デザインに興味があり、インスタを担当。センスがオシャレとメンバーのお墨付き。
<経理>
眞田しおりさん
真面目でまめな性格。実際にお金が動く事業のため、お金の管理を任せられるとメンバーからの信頼も厚い。
会社名の由来は、3人が所属している少林寺拳法部から来ている。少林寺拳法の基盤となる「構え」、そしてお客様への「心構え」をかけて、「カマエ」社が誕生した。
高校生模擬企業グランプリ、リアビズへの挑戦
国立高等学校には「探究」といって、自分でテーマを決めて研究し、論文を書く授業がある。
「お店をやりたい」と思った鈴木さんに、眞田さんが「こんな大会があるよ」ともちかけたのがきっかけだった。
さらに松浦さんが加わり、スタートである。
高校生模擬企業グランプリは、高校生が自分たちで企画して商品を開発し、実際に売り出すという「リアルビジネス」そのもので、通称「リアビズ」と呼ばれている。
一般の企業グランプリは、企画段階で終了することが多いが、このリアビズは一次審査を通過すると30万円という資金が支給され、実際に起業できる。
規定でメンバーの人数は3人~6人。
まず、予算やビジネスプランを提出してエントリーから始まる。
全国の高校からの応募数は過去最高の91組。
ここから厳正な審査の末にカマエ社も含めて6社が一次審査をクリアした。
いくつものハードルを越えて、いよいよ本格始動である。
地域に密着したビジネス
カマエ社が開発し、売り出した商品は入浴剤。
透明な手提げバッグに4つの入浴剤が入っており、国立市が誇る桜の名所・大学通りの桜が描かれている。
注目すべきはパッケージのイラストだ。
「春…ピンク 夏…緑 秋…茜 冬…白」と四季折々の桜になっており、中身の入浴剤も同じ色になっている。
桜の入浴剤はピンクが一般的だ。
しかし毎日通学する中、「桜は春だけのものではない。どの季節も美しい」と考え、春夏秋冬の4色にしたのだそうだ。
作画は美術部の部長の力作である。
入浴剤にしたのは色と香り、肌触りなど全身で桜を味わっていただきたいという思いからだ。
また、入浴剤を入れているミニバッグもレジ袋がいらないように持ち手をつけ、そのままお土産用に渡せるなど、細やかな心配りが感じられる。
桜守との出会い
商品開発にあたり、キーパーソンとなる人物がいた。
桜守の大谷和彦さんである。
大谷さんは国立駅から果てしなく続く桜並木を、たった一人でメンテナンスし、植樹を行っている。
さらには桜とは別に、花を植えるなどの活動もしている。
先程触れた「探究」の授業で、大谷さんが桜を守る活動について講義をしに学校を訪れたのがきっかけだった。
生徒たちは「後継者がいない」「自費でメンテナンス費用を出している」などの切実な問題を知ることになる。
「少しでも大谷さんの助けになれば」と、入浴剤の売上は全額、大谷さんに寄付したそうだ。
大谷さんの地道な活動は現在、ボランティアで植樹を手伝ってくれる人の増加にもつながっている。
学生、企業家としての苦悩、そして最終審査へ
カマエ社が事業を行う上で一番難しかったのが、商品の値段を決めること。
分析した結果、グランプリを取るには15万円程の利益が必要だと分かった。
購入者が買える範囲内で利益を出すことが、一番頭を悩ませたのだそうだ。
周囲の大人にも相談し、4つ一組の入浴剤の値段は1250円と決めた。
また、少林寺拳法部との両立も大変だった。
学校にいる間だけでは話が進まず、放課後や夜に通話した。
入浴剤もネット通販だけでなく、休みの日に国立駅や温泉施設に足を運んで手売りする。
役職の壁を越えて、色々な仕事を2つ3つと掛け持ちし、ハードなスケジュールをこなす日々だった。
そして、半年の期間が経過した12月、いよいよ最終審査がやってきた。
最終審査は都内の会場で成果発表として行われた。
他校のチームも、ふりかけ、ゼリー、カードゲーム、問題集、実験キットなど趣向を凝らしたツワモノぞろいだ。
成果発表の制限時間は、わずか5分。
当日、眞田さんは少林寺拳法の大会出場のため、鈴木さんと松浦さん2人で台本を暗記し、情熱を込めて話した。
笑顔が咲きほこった結果発表
結果は見事に「カマエ社」がグランプリを獲得した。
大谷さんも会場に来ており、一緒に喜びを分かち合うことも。
後日インタビュー時に「やってて良かったと感じたことは何ですか?」と聞いた際、メンバー全員が「大谷さんの笑顔が見られたこと」「大谷さんが喜んでくれたことがやって良かった」と満面の笑みで答えたことを思い出した。
優勝賞品は研修旅行。3人が選んだ行先はシンガポール。
既にガイドブックも購入済みで、顧問の教員と、起業するにあたりサポートをしてくれた「メンター」と共に4月に訪問予定だ。
今後の活動とメッセージ
来年は受験ということもあり、「カマエ社」の活動は一旦終了。
しかし「国立高校の後輩に桜を守る活動の一環として、カマエの活動を引き継いでいけたら」と想いを語る。
来年は先輩の背中を見てきた後輩たちが、高校生起業家に挑戦するのかもしれない。
松浦さん「実際に来て国立の桜の美しさを実感してもらい、国立市の観光名所として発展していけたらと思います。ぜひ国立にいらしてください」。
眞田さん「これからどんどん暖かくなって、桜が咲いて綺麗な時期になると思うので、他県や他の市の方にも来ていただければと思っています。国立市民の方にも、桜の魅力を伝えていきたいです」。
鈴木さん「この活動を通して、地域の問題に着目して考えることは大切だし、意義のあることと思いました。私たちの活動を通して先駆者となり、これからも若者達が社会に出れるきっかけになればと思います」。
終始笑い声が絶えない、チームワークばっちりの3人だった。
(取材ライター:永田容子)