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大谷和彦:Kazuhiko Otaniくにたち桜守https://k-sakuramori.sakura.ne.jp

国立駅からまっすぐに伸びる道、通称「大学通り」。ここは春の足音が聞こえてくると「桜通り」という名前に変わる。
国立市が誇る桜の名所であり、市民は「国立市の桜は日本一」と口をそろえる。

ここで活動する「桜守(さくらもり)」と呼ばれる人物がいるのをご存じだろうか?
今回はそんな「桜守」、大谷和彦さんの活動にスポットを当ててみた。

2025.04.16

春だけではない、桜守の活動とは?
桜守とは文字通り桜を守る、メンテナンスの仕事だ。

病気になっていないかチェックをし、実際に弱っている木があると薬を塗るなどしている。

また木の本体だけでなく周囲の雑草を取り、肥料をあげるなど、作業は多岐にわたる。
毎年桜の花が美しく咲くためには、散った後のシーズンも年中パトロールが必要なのである。

たった一人のスタート
大谷さんが桜守の活動を始めたきっかけは、今から約30年以上前。

たまたま大学通りを歩いていた際、恐らく車がぶつかったのであろう、桜の幹が大きく剥がれているのを目にした。
行政に伝えたがなかなか動いてくれないのが現状。

「だったら自分が」と一人で作業を始めたのがきっかけだった。

「市民に桜に感心をもってもらうには、どうしたらいいのか」と考え、桜まつり実行委員会に入った。

国立市の桜の歴史を知るところから始まり、桜を植えたメンバーの一人で当時、存命だった関栄一さんに話を聞くことが出来た。
桜まつりでは「桜を植えた男達」というブースを作り、誰がいつ植えたかなど、大桜の歴史を紹介し「桜の木はつらいよ」というタイトルで傷んだ桜の木の写真を並べた。
まずは国立市の方に知ってもらう、ここから桜守としての一歩を踏み出した。

五感を使う環境学習
大谷さんは地元の小・中・高の学校にも足を運び、桜を通して環境学習も行う。

特に小学校では子どもにどうやったら伝わるか、1年生、2年生、3年生と話の内容を変えているという。
1年生の例だと、1学期はいきなり桜の話をするのではなく、ミミズの話から入る。

「桜だけでなく植物が元気に育つには、ミミズさんが大事なんだよ」と、イラストを添えて分かりやすく伝える。

桜は、イチョウやケヤキと違い根が横に伸びているのが特徴だ。

人間が歩き回れば、土が固くなり雨が染み込みづらくなる。

大谷さんと子どもたちは、人が入らないように根元に菜の花を植える活動を始めた。


また幹回りを測ったり、枝や葉っぱの計測をしたり「桜の定期健康診断」の実習もある。

「桜と話が出来る」という大谷さん。

コンコンと幹を叩いて桜の声を聞く。

高い音だと空洞になっていて元気がない、低いと大丈夫な音。

最初はどうやって話をするのか不思議がってた子どもたちも、桜からのメッセージだということを理解していく。
大谷さんは桜にとっての医者でもあり、声を聞いてくれる友達でもあるのだ。
秋には肥料づくりもやる。

桜の肥料は落ち葉でもなく虫の死骸でもなく、私たちが口にしている米からだった。

米の外のぬかと皮に糖蜜と微生物を混ぜて発酵させる。
そして団子状に丸めて、空気を入れるために一度壊して次の学年の子たちに渡すのだそうだ。

教室で話をするだけでなく、外に出て実際に桜の幹や土に触れたり、桜の音を聞いたり、肥料づくりでは発酵のにおいを感じたり、環境学習では五感を使うことを何よりも大切にしている。
大学通りを歩いていた際、虫かごを持っていた男の子からは「大谷さんが課外授業で教えてくれたミミズさんを取りにきたんだ」と話しかけられた。

桜が満開の展示


立川市にある国営昭和記念公園の花みどり文化センターでは、今年も大谷さんが手がけた「桜コンシェルジュ展」が開催された。
エリアに足を踏み入れると、ピンク一色の空間が迎えてくれ一足先に春の訪れを感じることが出来た。
子どもたちの活動内容や写真、手紙、お手製の桜の木など、桜守の活動の歴史を知ることが出来る。
毎年「桜コンシェルジュ展」は開催されているが、毎回レイアウトを変えている。

「去年と同じでは意味がない」「やるからにはベストを尽くす」。

準備だけでも大変なのに疲れを一切感じさせず語ってくれた。

次の世代への継承
「世界は一人では変えられない、でも一人からアクションを起こさないと変わらない」。

大谷さんの想いが込められた言葉。
一人で始めた桜を守る活動だったが、金銭面、人手不足など大変なことはたくさんあった。

しかし、ここまで続けられたのはお金に変えられない、たくさんの人達の出会いがあったからだという。
大谷さんの考えに賛同して一緒に桜守の活動をしてくれるボランティアたち、高校生企業家の「カマエ」さん。
「一人でも多くの人に桜守の活動を知ってほしい」。

大谷さんの想いは少しずつだが確実に広がっている。


最後に大谷さんがとても嬉しそうに見せてくれたものがある。

環境学習で訪れた小学生達からのお礼の手紙だ。

桜をきっかけに、思いやりとともに生き物や環境を大事にする心を持ってほしい。
次世代の子どもたちに想いを託す。

<くにたち桜守ホームページ>
https://k-sakuramori.sakura.ne.jp

<インスタグラム>
@kunitachi.sakuramori

<桜守ボランティア活動>
毎月第3日曜日 9:30~12:00
集合場所 大学通り一橋大学南門前
作業内容 杭やロープの補修、木の根元の雑草とりなど

<問い合わせ先>
くにたち桜守 代表 大谷和彦
TEL FAX 042-535-2723
メールアドレス kntcsakuramori@gmail.com

<取材協力場所>
国営昭和記念公園 花みどり文化センター
あけぼの口 徒歩5分
3月~10月 9:30~17:00
11月~2月 9:30~16:30

※桜コンシェルジュ展は4月13日で終了しました。

(取材ライター:永田容子)