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成清北斗:Hokuto Narikiyoアーティストhttps://www.hokutonarikiyo.com/

1986年 大阪府生まれ
武蔵野美術大学 卒業(在学中にベルリン芸術大学美術学部に留学)
同大学院修士課程 美術専攻彫刻コース修了
多摩地域を拠点として活動するアーティスト
アートプロジェクト、造形ワークショップの企画・実施など、人とのコミュニケーションを主体とした「新しいアートの形」で様々な活動を展開している。
非営利芸術活動団体「Nomado Art ノマドアート」代表

2019.03.14

JR立川駅南口から15分ほど歩いたところにある、「立川市子ども未来センター」。
子育て世帯や、地域の住民のための活動拠点として開設された複合施設である。

ここで年1回開催される「おやこ・de・アート展in 立川」は、子どもが楽しめる展覧会として、今年で3回目を迎える。

本展の企画をしているアーティストの成清北斗さんに、話を聞きに行った。

 

———「おやこ・de・アート展」は、どのような展覧会ですか?
「子どもや子育て中の親御さんは、日頃アートとの接点を持つ機会を得にくいのではないかと考え、企画した展覧会です。『子ども未来センター』という身近な施設が美術館となり、展示された作品を鑑賞することや、造形ワークショップに参加することを通して、直接アーティストと接することができます。親子のコミュニケーションが生まれ、ひいては地域文化の発展にも貢献できることを目的としています」

 

———どのようなことをテーマにしてきたのでしょうか?
「2017年開催の第1回目は、地域の美術大学学生と市民との関係づくりがテーマ、2018年の第2回目は、地域で活躍する多様なアーティストと市民との関係づくりがテーマでした。そして3回目の今回は、過去2回からさらに広がった『誰もが』、つまり大人も子どもも、障害のある人もない人も、プロもアマチュアも、誰もが一堂に会し『作る人』にも『見る人』にもなりうることを、『ダイバーシティ(多様性)』というテーマに込めています。改めて振り返ってみると1回目のポスターに載せた言葉『カコのこどもとミライのおとなへ』は、大人も子どもも同じなのだという意味にも捉えられ、まさにこの展覧会そのものを象徴している表現だと思います」


写真の子どもは、幼少時の成清北斗さん

 

———成清さんご自身は、どのようなお子さんでしたか?
「何かを作ることが好きで、こだわりや執着心の強い少し変わった子どもでした。友達と一緒にごく普通のことをして遊んでもいましたが、いつも退屈していて面白いことを探していましたね。絵も上手に描いていたと思いますが、それ以外の様々なことも卒なくこなしていました」

 

———お父様が美術家だそうですね。
「父は昔ながらの木彫家で、いつも黙々と作品を作っていました。父の仕事を認めながらも、自分は同じことはできないと思っていましたし、何かもっと違う表現方法があるのではないかと『新しい芸術の在り方』をいつも考えてきました」

 

———進路について、親御さんから示唆されたことはありますか?
「もしかしたら父は、私が美術家になることを望んでいたかもしれませんが、直接は何も言いませんでした。私が美術の道へ進んだのは、他の道を知らなかったからです。習い事をする機会もなく、接する大人といえば両親と学校の先生くらいしかいませんでした。もし他の職業や特技を持つ大人と出会っていたら、もっと違う世界を知ったり学んだりできたのではないかと思います。この経験は、私が今、子ども対象のワークショップを数多く企画し実施していることに繋がっています」

 

———美大在学中にドイツのベルリンへ留学されましたが、そこでの生活はいかがでしたか?
「交換留学生としてベルリン芸術大学美術学部に入り、ファインアートの教授に師事しました。日本では社会や環境をテーマに作品を作っていましたが、初めて訪れた自分と全く接点のない土地ではテーマを見いだせず、何も作ることができない悶々とした日々を過ごしていました。帰国時期が迫ってきた頃に、せめてヨーロッパの美術をできるだけ観ておこうと思い、各国の美術館を回ることにしたのですが、これが転機となりました。美術館の空間の巨大さに度肝を抜かれたことから始まり、次々に観て歩くうちに、少しずつ美術の面白さが見えてきたのです。それまでは、自分が苦悶していることを自分以外の何かのせいにして、しまいには『美術が悪いのだ』とさえ思っていました」

 

———帰国されてからの作品のテーマや活動形態が、留学前とは変化したように見えますが?
「作品は作り続けていましたが、それだけでは埋められないものを感じたので、併行してワークショップを始めました」


ワークショップ作品「未来の多摩を描こう!」

———その後、ワークショップが増えていったことの理由は何でしょうか?
「作品を作って個展を開くより、ワークショップのほうが多くの人と直接関われると思いました。参加者は『つくる』という行動により『気づき』を得て、その人の日常に活かすこともできます。広く一般の人と一緒に『つくる』ことをするワークショップは、重要なコミュニケーション・ツールだと思っています」

 

———子どもを対象にしたワークショップが多いようですが、何か理由はありますか?
「いつも退屈していた自分の子ども時代の経験がつながっています。子どもたちに『面白いこと』をしてもらいたいという気持ちと、親や先生とは違う大人として、子どもたちが今まで知らなかった世界を見せてあげられたらいいと思いました。教育への関心は強いのですが、自分が興味を持てることを子どもたちにもさせてあげたいので、自由なことができる場としてワークショップを行っています」


おやこ・de・アート2018にて

———最近は新たに、アートプロジェクトという活動形態も増えましたね。
「子どもたちのワークショップを重ねていくうちに、子どもといえども『刺激』を求めているのだと感じました。そこから発想が広がり『おやこ・de・アート展』が生まれました。子どもは何にでも興味を持つ傾向があります。だからといって何でもいい訳ではなく、子どもが触れるものだからこそ、企画者自身が何を伝えたいのかというコンセプトが必要だと思います。アーティストの『生の』作品を届けたいですし、それぞれの作家に、それぞれの意味、それぞれの魅力があることを感じるので、ぜひ子どもたちにも観ることを体験して感じてほしいです。『現代アート』というと硬い感じになってしまいますが、作品や作り手に興味を持つことから少しずつ入っていけるものではないでしょうか」

 

 

彼は現在、3月21日から開催される「おやこ・de・アート展2019」の準備で多忙な日々を送っている。

その一環として、地域の子どもたちが同展覧会に展示する作品を制作する「ツキイチ☆ワークショップ『ワタシ・フラッグをつくろう!』」を、昨年11月から毎月1回、立川市内5ヶ所の児童館などで開催している。

普段接することの少ないアーティストと一緒に文化芸術を体験できるようにと、成清さん自ら各会場へ出向いて行っているイベントだ。

その中の1回、立川市富士見児童館で行われた「ツキイチ☆ワークショップ」の様子をお伝えしたい。

 

ほとんど地元の参加者とはいえ、初対面の人も大勢いる中で、子どもたちは少し緊張しているようだった。
普段はクールでスマートな印象を受ける成清さんだが、子どもたちの中に入ると、「近所のおにいさん」になる。

「みんな、3分ってどのくらいの時間かわかる? カップラーメンができあがる時間だよ」。
親しみやすい言葉で、子どもたちの気持ちをほぐしていく。

「ワタシ・フラッグ」になる布地は、長い辺が1m以上もあるだろうか、子どもにとってはかなり大きなキャンバスである。
自分の好きな色の布地を選んで、思い思いの場所に陣取っていく。

こんなに大きい絵を描く機会はないのではないか、と思って見ていたが、迷うことなく刷毛やローラーを手に取って描き始めた。

 

道具を持ち替え、色を替えて、どこまでも自由に描き続ける子どもたち。
手も足も、服も、絵の具で染まっていき、全身を使った大作が次々に生まれた。

 

たくさんの「ワタシ・フラッグ」が完成した。
同じものは二つとない。

作品はそれぞれ児童館などで保管され、プロのアーティスト作品と同じ空間に展示されるのを心待ちにしている。

 

———最後に「おやこ・de・アート展2019」のテーマ「ダイバーシティ(多様性)」に向けて一言いただけますか。
「この展覧会のコンセプトは、プロもアマチュアも、大人も子どもも、障がいのある人もない人も、『誰もが』アートによって同じ空間を共有することにより、ダイバーシティ(多様性)の理解につなげることです。
多様な表現や様々なバックグラウンドを持つ表現者が存在するからこそ、鑑賞する人は、誰もがどこかに、自身を投影することができます。その過程を経て他者を想像することができるようになり、鑑賞する人が『主体的に』展覧会と関わることができるようになると信じています。自然な形でアートと市民との距離を縮め、他者理解にもつながるといえるでしょう。

例えば、たまたま子ども未来センターを訪れた子どもが、展示されている自分の、あるいは友人のフラッグを見つけることで、『表現すること』に親近感を覚え、その他の作品や作者とも同様に関わることができるようになるかもしれません。

ワークショップに参加した子どもにとっては、たくさんの様々なフラッグが一堂に展示されている光景や、展覧会全体を通じ、多様性の中におけるワタシの素晴らしさに気づき、ワタシ一人ひとりが多様性を構築しているのだという実感、あるいは達成感を感じてもらうことができればと願っています」

—————「おやこ・de・アート展2019」in 立川 —————
2019年3月21日(木)〜24日(日)立川市子ども未来センターにて開催
11:00〜18:00
※詳細情報は下記のサイトをご覧ください。

Nomad Art ノマドアート https://www.nomadart.jp/

 

—————取材後記———— 
成清さんに直接会うまでは、寡黙な人を想像していた。
しかしそれは見事に裏切られ、質問を挟むのが難しいほど、止めどなく話し続ける人だった。
幼い頃から今に至るまで、彼は常に何かを深く突き詰めて考え、こだわり、繊細な感覚を以て「問いを立てる」ことを続けてきたのだろうと感じた。社会に対しても、芸術に対しても、自らに対しても。
活動形態や表現手法の変遷、絶え間なく新たな芸術の形を求める姿勢は、それを物語っている。
「複数のことを同時進行させている状態が望ましい」とも語っていたので、脳が休まる暇は無さそうだ。
結果的に3時間を超える長いインタビューとなったが、話しながら整理できたことも少なからずあったようで、話し終えたあとの彼の表情には爽快感が感じられた。
彼の芸術活動は、これからも、折に触れて別の形に変化しながら続いていくのかもしれない。

取材:中川内 容子