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西村暁子:Akiko Nishimurapaper work /golaagotaa (和紙造形作家)http://www.golaagotaa.com/

東村山市在住。和紙作りから完成までの全工程を自らの手で行う。平面作品にとどまらず、オリジナルデザインの和紙を用いたアクセサリーなどの商品も販売。今年5月には伊勢丹立川店の催事に出店。9月9日(金)〜17日(土)には東村山市の絵本屋「トロル」で個展「紙は音 紙に歌」を開催予定。

2016.09.03

和紙で表現されるもの

和紙造形作家・西村暁子さんにお会いすべく、東村山市にやってきた。お邪魔するのはご自宅兼アトリエ。「こんにちは!」と素敵な笑顔で出迎えてくれた西村さん。和紙との出会いから表現方法について、西村さんの創作の源を探った。

 

 和紙との出会い 

西村さんが和紙と出会ったのは、16年前に友人と開いたグループ展。和紙を使った照明器具をつくった際、思うような風合いの紙になかなか巡り会えなかった。そこで「和紙を自分でつくれないか」と一念発起。越前和紙の担い手である岩野市兵衛さんにお会いし、初めて「コウゾ(和紙の原料である植物)」を知ると一気に和紙の世界に引き込まれたという。その後、和紙造形大学に数年通って紙漉を応用した造形技術を身につけた西村さん。穏やかな笑顔の奥には、行動派で情熱家の一面も。

できあがったときの色やかたち、質感を念頭において作品をつくる。

できあがったときの色やかたち、質感を念頭において作品をつくる。

和紙造形の難しいところは、水の流れと素材(コウゾやパルプ)の繊維のバランス。簀(す)の上に水と素材を混ぜたものを流してデザインを形作るが、水の流れる方向と繊維の向きが合わないと滑らかな質感にならない。水の量と、繊維の長さを調整する技巧が必要なのだ。

「わざと凸凹をつけるときもありますが、デザインを邪魔しないように、できるだけ滑らかな質感を目指しています。繊維の向きが揃うと、できあがったとき光の反射が均一になって発色がよくなるんです。とくに色をのせる面積が小さいときは、より短い繊維を使うように気をつけています」

乾燥させたコウゾを煮詰めて叩いて色で染めて…手間ひまのかかる作業を全てひとりでこなす西村さん。自らの手で触れ素材をよく知っているからこそ、光を反射するような独特の質感が生み出されている。

西村さんのアトリエのデスク。現在は個展に向けて手製絵本の製本作業中。

西村さんのアトリエのデスク。現在は個展に向けて手製絵本の製本作業中。

 

言葉からイメージをかたちにする 

西村さんは作品をつくるとき、心の中に湧いてきた言葉から風景をイメージするという。言葉だけが先に浮かんでくるときもあれば、言葉と情景が一緒に思い浮かぶときもある。どちらであっても、西村さんにとって「言葉」は作品の大事な構成要素になっているようだ。

「家の中にひとりでいるときや、子どもと外に遊びにいったときなど、ふとした時間に言葉が浮かぶことが多いです。」

西村さんの作品の源は、日常の中で自然と湧いてくる言葉。そのため西村さんの作品は、“暮らし”に密接に関係している。そして今、暮らしの中で大きな存在となっているのが息子のともくんだ。

 

子どもを授かって、第二の人生がはじまった

「子どもが生まれてから、自分の世界が一変しました。ものの感じ方や考え方が変わったんです。子どもが生まれる前は、自己中心的な表現に疑問がありました。でも子どもを授かってからは、自分のために表現したものの方が誰かの心に届く、と感じています」

ともくんにはハンディキャップがある。自分たちとは違う視点で世界を見ているともくん。「何を感じているの?」「何を聴いているの?」そうともくんに心を寄せることで、西村さんは「自分の幅が広がった」と言う。

「今は考えすぎたり、ひねりすぎたりしない“無垢なかたち”を求めています。自分も大人なので『こうした方が格好いいかな』なんて考えてしまうんですけど…そうではなくポーンと出てきたものをそのまま表現したいと思っています。だからこそ、彼(息子)の存在に助けられていて。彼の目線で世界を見てみると、『感じたままでいいんだよな』と思えるんです」

ともくんのことを優しい声で「彼」と呼ぶ西村さん。その声には、息子として、ひとりの“ひと”としてともくんを慈しむ気持ちが込められていた。

新作の手製絵本「おとひろい」。ともくんの目線で見た世界が1ページごとに表情を変えて描かれている。

新作の手製絵本「おとひろい」。ともくんの目線で見た世界が1ページごとに表情を変えて描かれている。

 

“うた”と“おと”から生まれるもの

西村さんは平面の作品だけではなく、ブローチやブックバンドなどの商品も製作している。オブジェの要素を取り入れたブローチは、和紙の質感を手のひらで楽しんでほしいと考案したもの。それによって西村さんの作品が暮らしに取り入れやすくなった。
「今は布にデザインを印刷してみたいと思っています。来年にはかたちにしたいなと! 布の繊維の上に和紙の繊維が印刷されたらどうなるんだろう、と楽しみです」

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オーダーメイドした木材と和紙を組み合わせてつくったブローチとブックバンド。手のひらでそっと触れてみると、和紙のざらざらとした触感が心地よい。

オーダーメイドした木材と和紙を組み合わせてつくったブローチとブックバンド。手のひらでそっと触れてみると、和紙のざらざらとした触感が心地よい。

表現のかたちが広がる中、市内でのワークショップの定期的開催をはじめ、地域のつながりもより多様になっている。そのひとつが、9月から東村山市内で開催される個展だ。

会場は東村山駅にほど近い絵本屋・トロル。以前からお店で商品を扱ってもらっていたこともあり、今回の個展が実現した。テーマは「紙は音 紙に歌」。

「意識していなかったんですが、これまでの作品で“おと”や“うた”という言葉をたくさん使っていたんです。とくに音楽が得意なわけではないんですが…(笑)。でも作品をつくりながら歌っていたり、息子の音に対する反応がよかったりするので、自分にとっては“おと”や“うた”、“ことば”は暮らしの中に自然と入り混じっているのだと思います」

西村さんの作品を眺めていたら、ふと「歌うように(cantabile)」、という言葉が浮かんだ。西村さんの創作の源には、湧き出てくる言葉がある。それらが紡がれ、色やかたちがつけられ、作品になる。それはひと粒の音から歌をつくることに、少し似ているかもしれない。
西村さんの作品を見て、あなたにはどんな言葉が湧いてくるだろうか。

 

[文・写真 / 佐藤琴音(けやき出版)]

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