ホッと一息、公民館の喫茶店へようこそ
喫茶わいがや
JR中央線国立駅南口から徒歩約5分。富士見通りをまっすぐ行ったところに、国立市公民館がある。
図書室、集会室、イベントスペース、休息所など市民の憩いの場として長年親しまれてきた。
公民館の階段を下って行くと、右側に市民交流ロビーがあり机と椅子が並べられて休息所になっており、左側に「喫茶わいがや」が併設されている。
真夏に駆け込んだ都会のオアシス
8月、あまりの暑さにどこか入れる店はないかと探していた時に、ふと目に入った「喫茶わいがや」と書かれた看板。
休憩というより吸い込まれるように入った。
半地下のせいか、ほどよく日が差し込み、適度な明るさを保っている。
外の猛暑からようやく解放され、カウンターに座りようやくホッと一息つけた。
コーヒーは一杯220円。トースト、カレー、どれも採算度外視と言っていい程の値段だ。
アイスコーヒーを注文すると、「15分位お時間かかりますがよろしいですか?」と聞かれた。
カウンター越しにドリップしているのが見える。手際がいいのが印象的だった。
運ばれてきたコーヒーに口をつけて、再度驚いた。
コーヒー専門店かと思われるような深みがあり、本格派なのである。
料金を支払った時に「ありがとうございました。」と最高の笑顔をくれた。
味も接客も本格派。
しかも安い。
再びカンカン照りの外に出た時、公民館の「喫茶わいがや」の秘密について調べたいと思った。
実は老舗だった!?喫茶わいがやヒストリー
今回、国立市公民館の社会教育主事の井口啓太郎さんに話を聞いた。
1955年に国立町公民館(当時)が開館。
1979年に今の公民館に建て替えかえられ1981年、市民交流ロビーに併設して「喫茶わいがや」はオープンした。
オープンして43年という長い歴史があったのだ。
発起人は当時の若者達。どうしてもお堅いイメージが付きまとってしまう公民館。
しかし○○学習とかいわずにたまり場をつくり、「コーヒーを飲みながら活動したいね」「だったら喫茶店やっちゃう?」「障がい者と一緒に何かやりたいね」というノリから始まったのがきっかけだったそう。
開店以来、喫茶の営業は「障害をこえてともに自立する会」が運営母体になっている。
写真:国立市公民館提供
ちなみに名前の由来は「わいわいがやがや」から来ているという。
障害を持つ人がホール、接客を担う福祉就労型の喫茶店。
今は全国に広まりつつあるが、このスタンスを第一号店として始めたのが国立市公民館の「喫茶わいがや」だというから驚きだ。
正に草分け的存在だったのだ。
障害を持つ人、持たない人が一緒に運営ができる仕事と場所
なぜ喫茶店という業態を選択したのか。井口さんが教えてくれた。
一般的に福祉の就労支援は、軽作業が多いという。
建物の中にいると、なかなか障害を持つ人が地域に暮らしているのが見えにくい。
しかし、喫茶店だとカウンター越しに働いているのが可視化される。
今までサービスを受ける側だった障害を持つ人の方が、サービスをする側に回れる。
苦手なこともボランティアスタッフと助け合いながらやっていける。
色んなメリットが喫茶店という業態にはまり、公民館がリニューアルした時に、厨房の設備も整えてスタートした。
メニューの味の秘密
冒頭でも書いたが、コーヒーの味と香り、クオリティーの高さには感心してしまう。
コーヒーショップ経験者によるものかと思っていたら、基本的には「素人」の集まりだという。
年に一回程、プロの先生にきてもらい豆、入れ方、焙煎を教えてもらったりしている。
後は自主練だったり、ベテランが新人に教えたりと腕を磨いている。
このクオリティーはそんな努力のたまものだ。
そしておすすめメニューのカレー。
カレーの上にドーンと骨付きチキンがのっていて、インパクトは充分。
スプーンを入れるとホロホロと肉がほどけるほどの柔らかさだ。
ルーもじっくり煮込まれているのが分かる。一口一口味わって堪能した。
このカレーは岩手県宮古市の「鳥もと」さんから仕入れているそうなのだ。
障がい者雇用、障害福祉サービスの事業所で昔から「喫茶わいがや」とはお付き合いがあった。
東日本大震災の復興支援の意味合いもあり、「喫茶わいがや」で提供している。
採算度外視?値段の謎
手間ひまかけた、これらのメニューを、リーズナブルに提供できる仕組みを、井口さんから聞いた。
「公民館の建物は市の持ち物であり行政財産。その一部を無料で貸している。
無料で貸す代わりに市民、障害のある人、色んな方の居場所、活動の場所にしてほしい」と運営目的を話す。
そして「営利を目的としない」というのが最大の理由でこの価格になったのだ。
しかし、安いといっても経費や働いてくれる方の交通費や食事代はしっかり運営団体が出している。
肩に力が入らない働ける場所
ボランティアスタッフからも直接話を聞くことができた。
学校の学園祭に「わいがや」が出店していて、親がコーヒーを飲み、とても美味しかったそうで、それが縁で喫茶店のボランティアを知った人。
中学生が体験ボランティアで来たり、ひきこもりだった人が一歩踏み出すためだったり、きっかけや理由は人それぞれであるという。
実際働いてみた感想を聞くと、「本当に優しく教えてくれるし、気軽に働けるんです」と明るい表情で話してくれた。
ゆるく、スロー、「わいがや」のモット―なのだ。
みんなと一緒に
初めて来た時から気になっていたのがコーヒーカップや器である。
どれも温かみのある色をしている。
これは公民館の陶芸教室(現在は休止中)で制作されたものを使用しているという。
形も大きさも異なり、「大きなカップだった時はその分コーヒーが多めに入るので、当たりなんです」と、井口さんは目を細める。
壁にはホワイトボードに今日は何の日かミニ情報が書かれていたり、先ほど話を聞いたボランティアの方が心をこめて折った折り紙が飾ってあったり、メニューを提供するだけでなくお店全体をみんなで作っているのが伝わる。
○○を見ている人がゼロ!
同店に4回ほど足を運んだが、スマホを見ている来店者に未だに出会わない。
勉強している学生、新聞を広げる男性、編み物をしている女性。
カウンターには常連だと思われる男性が、ボランティアスタッフと話し込んでいて、一人一人の時間を大切にしているようだ。
中には障害を持つ方の淹れたコーヒーを飲むために、来店する人もいるという。
今回、喫茶店を通して行政、公民館、障がい者就労支援、ボランティア活動について触れることが出来た。
「喫茶わいがや」はたくさんの笑顔と可能性に満ちた、でも頑張りすぎない所。
それが43年もの間、続くゆえんなのだろう。
■告知:公民館を飛び出して、くにたち秋の市民まつり出店!
【日時】 11月4日(月・祝)
午前9時半~提供開始 ※無くなり次第終了
【飲物】ハンドドリップコーヒー 紅茶
何と一杯100円!
【問合】国立市公民館 042-572-5141
写真:国立市公民館提供
<参考文献>「わいがや通信」、『「思想」としてのわいがや』(障害をこえてともに自立する会発行)、『深いりコーヒーハウス73』(国立市公民館発行)
■喫茶わいがや
東京都国立市中1-15-1(国立公民館内)
国立駅南口 富士見通りをまっすぐ徒歩5分
TEL:042-572-5141(国立市公民館)
X :@k_waigaya
インスタ:@k_waigaya
営業日 Xやインスタに掲載されてますのでご確認ください
営業時間 12:00~18:00(閉店30分前ラストオーダー)
※変更になる場合もあります
国立市公民館の営業時間:9:00~22:00
休館日:月曜日・年末年始
(取材ライター:永田容子)