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もっと日本語を楽しもう!

国立国語研究所

7月20日(土)に5年ぶりに一般公開された立川市にある国立国語研究所。鮮やかなポスターや商業施設の展示でイベント開催の告知を見かけた方も多いのではないだろうか。
国語の研究、と聞いても具体的に何をしているのか、私たちの生活にどのような影響を及ぼしているのか、なかなか想像ができない。

「国立国語研究所(通称 国語研)はどのような機関なのか?」「どのようなことを行っているのか」を国立国語研究所 前川喜久雄所長に聞いた。

2024.08.28

国立国語研究所 前川 喜久雄所長 2023年就任 専門は音声学、言語資源

国立国語研究所 通称 国語研
「国立国語研究所(通称・国語研)は、1948年に日本語を科学的に研究することを目的として設立されました。戦後、日本語の仮名遣いや漢字などを平易にするという、いわゆる国語改革の動きが強くなり、それを議論するためには科学的な研究が必要とされたからです。当時、国語の研究といえば、過去の日本語を研究すること、つまり歴史的な研究を行うことでした。しかし、現在、使っている日本語について議論するのであれば、当然、現代語の研究をする必要があります。全国の大学では現代語の研究はほとんど行われていませんでしたので、国語研が先陣を切って現代語の研究を行い、新しい研究方法を開拓していったと言えると思います」。

研究所の歴史・沿革を説明する見ごたえのあるパネルがずらりと並ぶ廊下

研究室が並ぶ長い廊下壁面には研究者の成果が張り出されていて圧倒される

国語研の3つのミッション
―現在はどのような教育や研究に取り組まれているのでしょうか?

「国の直轄機関だったのが2001年に独立行政法人という種類の組織になり、そして2009年からは人間文化研究機構という法人に所属する大学共同利用機関として活動しています。大学共同利用機関というのは、例えばハワイにあるすばる望遠鏡を運用する国立天文台など、大学単独では難しい大規模な研究を支えるための機関で、国際的なネットワークを形成し研究者をサポートしています。当研究所は、言語研究のためのデータ整備や、組織の枠を超えた共同研究の音頭取りや支援を行うことで大学などのサポートをしています」。

―所属している「人間文化研究機構」は6つの機関があるのですね。

「佐倉にある国立歴史民俗博物館、うちのお隣の国文学研究資料館、京都にある国際日本文化研究センターと総合地球環境学研究所、大阪の国立民族学博物館、そして国語研で6つです。博物館や資料館はどういうところなのか説明しやすいのですが、「研究所」となると何をしているところなのかわかり辛い点は否めません」。

―確かに、何をしている機関なのか一般の人たちにはわかり辛いと思います。もう少し具体的にどのようなことをしているか教えてください。

「最近、国語研のミッションとして3つのことを打ち出しました。1番目は言語研究のためのインフラ整備。2番目は世界最先端の研究を目指そうということ。3番目は大学院教育などによる次の世代の研究者の育成、です。このようなミッションのもと、国語研は日々活動していますが、その成果を一般の方々へ伝える場として、今年7月20日に一般公開イベントとしてオープンハウス『ニホンゴ探検』を開催しました」。

 

国語研のとびら、開きました!オープンハウス『ニホンゴ探検』
―7月20日(土)5年ぶりに一般公開されたオープンハウス『ニホンゴ探検』は大盛況でしたね。

「これまで毎年一般公開は行っていたのですが、コロナ禍以降はオンライン開催にしていたので、今回は久しぶりの現地開催でした。1000人以上の方が来場くださり、今までの最高人数約400人を大きく上回る結果となりました。また、オープンハウスに先行してグランデュオ立川さんとの協力で開催したイベントも大変好評で、私たちも驚いています。他にも、一般の方に研究成果を報告する講演会形式の『NINJALフォーラム』も毎年行っていますし、リクエストに応じて『職業発見プログラム』や『ジュニアプログラム』として出前授業や見学受入などを行って、小学生から高校生に学びの機会を提供することもしています」。

 

2024年7月20日(土)国立国語研究所オープンハウス「ニホンゴ探検2024」チラシ(国立国語研究所HPより)

グランデュオ立川25周年イベント「教えて国語研!ニホンゴ探検」2024年7月3日(水)~7月9日(火) 

7月6日(土)には琉球語のおはなし会や、国語辞書を使ったワークショップ、カルタ作りなどが開催された

―『ニホンゴ探検2024』では、ことばのスタンプラリークイズや講演、図書室・資料室ツアー、国語辞書引きコーナー、など、盛りだくさんな内容で終了時間近くになっても夢中で楽しんでいる子供たちの姿が印象的でした。特に私が気になったのは資料室で拝見した『日本言語地図』と一般の方でも使える『コーパス』、今と昔の研究方法を対比するような、この二つの研究成果です。

 

『日本言語地図』
―方言を地道に調査した『日本言語地図』ですが、地道に方言を収集し、手作業で紙の地図やカードを管理していたことにかなりの衝撃を受けました。長年、研究者の方々が地道な作業で膨大な量のデータを収集していたのだな、と。

「これは日本全国の方言を調べたもので、1960年前後に調査し、1970年前後に出版されたものです。全国2400地点で、200以上の発音や語彙について調査して1枚ずつ地図にしています。これによって全国の方言の分布を把握することができます。国語研は文系の研究機関としては最も早くコンピュータを導入し、言語の計算機処理の研究をしていたので『日本言語地図』の時代に既にコンピュータがあったのですが、この地図のデータ管理や制作は基本的に手作業で行われています」。

 

『日本言語地図』 全国各地の方言の地図帳。手作業で方言ごとに異なるスタンプを押し、情報は全て手書きカードで管理していたそう
研究者の著書閲覧コーナー。言語地図だけではなく様々なテーマの本が並び、言葉の世界の幅広さに驚く

「コーパス」ってなに?
―一方で、一見、畑違いの研究かと思ってしまいますが、言語の研究には膨大なデータを処理するために情報処理研究、コンピュータが必要不可欠!と理解できたのが『コーパス』でした。

「『コーパス』とは、実際に使われた言葉や発話を体系的に集めて電子的に検索できるように整理したデータベースのことで、研究や開発に用いられる“言語資源”の代表的なものです。言語の研究だけではなく、例えばAIの研究にも利用されますし、日常的な言葉の使い方を調べることもできます。代表的なコーパスを挙げると、『現代日本語書き言葉均衡コーパス』は現代日本語の書き言葉を広くカバーしているデータベースで、約1億語あります。ウェブに掲載された日本語の文章を集めた『国語研日本語ウェブコーパス』は283億語。他にも奈良時代から現代までの歴史的な日本語をカバーした『日本語歴史コーパス』、実際の会話を分析するために、日常の会話や雑談を動画付きで収集した『日本語日常会話コーパス』など。国語研では積極的に先進的な情報処理技術を取り入れて研究し、これらの巨大なデータベースを作って公開しています」。

『ニホンゴ探検』で掲示されていた『日本語話し言葉コーパス』のパネル。関わった研究者の方から直接説明を聞けるのはイベントの醍醐味の一つ

―私たちが気軽に使えて役立つコーパスはありますか?
「『少納言』という無料で使えるオンラインツールがあります。これは『現代日本語書き言葉均衡コーパス』を簡単に検索できるものです。たとえば、「全然」という言葉は、「全然~~ない」のように必ずうしろに否定が来ると言われます。しかし、実際に「全然」がどのように使われているかコーパスで調べると、それに当てはまらない例がたくさん出てくるので、ぜひ調べてみていただきたいと思います。現在、言語の研究を支えている『コーパス』を一般の方々にも気軽に使ってもらい、私たちの研究がどのように役立つかを知っていただけると嬉しいです」。

体験コーナーで『少納言』に「たまねぎ」と入れ検索した結果、メディアやジャンルなどあらゆる情報がパっと表れ、見ているだけで楽しめて色々な言葉を検索したくなった
少納言:KOTONOHA「現代日本語書き言葉均衡コーパス」 少納言 (ninjal.ac.jp)

わたしたちの生活に役立っている、と明確に認識することが難しい研究を行っている国語研。

長い年月をかけ収集した膨大なデータは、身近なところで実はスマホの音声入力などにも活用されていることを知り、言葉が存在する限り、なくてはならない研究所であると感じた。

『コーパス』や、“ご苦労様”と“お疲れ様”はどう使いわけたらよいの?など、言葉の疑問を解決する『ことば研究館 (kotobaken.jp)』などのコンテンツで慣れ親しんだ日本語を楽しみ、研究成果を身近に感じてみてほしい。

大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国立国語研究所
〒190-8561 東京都立川市緑町10-2 
アクセス:国立国語研究所 (ninjal.ac.jp)
Tel:0570-08-8595 (ナビダイヤル) 
HP:https://www.ninjal.ac.jp/
X: https://twitter.com/kokugoken
YouTube: http://youtube.com/c/NINJAL-kokugoken

(取材ライター:西野 早苗)