古典藉の森でわたしたちのルーツに出会う
国文学研究資料館
学生時代に学んだ『源氏物語』に『枕草子』『平家物語』や『徒然草』。
現代では使用しない言葉で書かれた書物を、大人になってから再読する機会は少ないと思う。
しかし、ここ最近 大河ドラマ「光る君へ」で使用される和歌や漢詩などでリアルな平安時代の文化に触れ、若かりし頃の懐かしい記憶が蘇った方も多いのではないだろうか。
深い歴史と多様な作品群によって私たちを長く魅了し続けている古典籍(古典の本)と現代のアーティストがコラボし、新たな視点でその魅力を目いっぱい体感することができるのが国文学研究資料館の「ないじぇる芸術共創ラボ」だ。
古典知にふれることで、アーティストや専門家がそのイメージを刷新し、新しい表現としてその魅力を発信するという“時空を超えた本の森"が、立川にある。
写真左:大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国文学研究資料館 副館長(企画調整担当)研究部 入口敦志教授
写真右:大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国文学研究資料館 研究部 中西智子准教授
国文学研究資料館、通称「こくぶんけん」
入口教授は近世文学研究、また副館長として企画調整を担当。中西准教授は平安時代文学、物語文学を研究している。
入口副館長に「国文学研究資料館」について聞いた。
「国文学研究資料館は設立から52年、今年度52年目に入る。基本的な役割として、大学共同利用機関として発足。
つまり各大学に研究者はいるが、それぞれの大学で個別に情報を集めていては、なかなか収集しきれないため、国文学に関する情報を集める目的で始まった機関。
本来我々は大学の教員に向けて情報を提供するのが一番ベーシックな仕事となる。
国立大学の法人化の際に、我々も法人化し、現在の大学共同利用機関法人・人間文化研究機構・国文学研究資料館が正式名称となった。
隣に国立国語研究所もあるが、同じ機構の中に6機関(歴博、国文研、国語研、日文研、地球研、民博)あり、人文学の共同体として活動している。
基本的には国文学に関する資料を集めるということで、調査収集と発信ということを中心に進めている」。
30万点の資料をデジタル化し提供
「日本の資料は世界中に散らばっているため、世界中の情報を集めている。
現在は、集めたデジタル画像を研究者に提供している。
2023年度まで10年間、政府の大きな予算を獲得し、歴史的典籍ネットワーク事業を推進して10年計画で30万点の画像を作った。
今まではマイクロフィルムで撮影・保管していたが、ここへ来ないと見られなかったため、遠隔の研究者もわざわざ東京まで来て見なければならずかなり不便だった。
デジタル画像として提供し、世界中どこからでも見られるようになった」。
古典藉を電子テキスト化する10年計画
「2024年度からは、さらに次の計画が進行。
今まで集めてきた画像は、くずし字で書かれたもので、研究者は読んでそのまま研究者材料として使うことができる。
一方で、一般の方々にもどんどん使っていただけるような形にしたいという意向もあり、電子テキスト化し、より使いやすくしていこうという計画が始まった。
集積した研究情報を多くの方に使っていただける形にすることを使命として、我々は今活動している」。
過去10年で蓄積したデータをより使いやすくするための新たな10年プロジェクトがスタートする
https://lab.nijl.ac.jp/humanitiesthroughddps/
ないじぇる芸術共創ラボとは?
「一般の人や地域の人に我々が持っているリソースをどう関連づけ提供していくか、を考えないといけない。
調査対象は全国、あるいは世界中の各機関に所蔵されているので、古典籍セミナーを各地で開催している。
例えば私が担当しているところでは大分県日田市の廣瀬資料館で集めた資料にどういう意味があるか、ということを地元の人にお話する機会を設けている。
これはアメリカやヨーロッパでも同じようなことをしており、全国の拠点で今、精力的に活動しているところ」。
「地域の方々はそこにある資料がいかに素晴らしいものであるかを、意外とご存知ない。
それを還元していこうという非常にベーシックな活動をしている。
前館長のロバート・キャンベル氏の際に、多くの人に理解してもらおうと発案した二つの活動がある。
一つは「ないじぇる芸術共創ラボ」これは古典籍にインスパイアされた芸術家の方々がどういう作品に結実させていくか?
その過程を共有しようという我々にとっても大変刺激的な試み。様々な分野のアーティストに参加、協力してもらっている」。
ないじぇる芸術共創ラボ NIJL Arts Initiative
お互いに刺激を受けあう共同創作の面白さ
中西さんに「二つの活動」について聞いた。
「『ぷらっとこくぶんけん』として国文研カフェやワークショップなど、多摩地域と連携した活動を展開している。
また、芸術家や翻訳家の方々に当館の資料を見てもらい、古典藉にインスパイアされた作品の創作過程と完成した作品を共有している。
現代社会において古典藉はどういう意味を持っているのか?
そういう視点が研究者は結構抜け落ちてしまいがちだが、その意義を専門家以外の方々と「共創』していく、つまり共同で創作活動を行い、お互いに刺激を受けあうプロジェクト。
現在、漆芸家や画家の方など、アーティスト・イン・レジデンス(AIR)として在籍している。
一番新しいところではアニメーション映画監督の片渕須直さんが今、清少納言とその時代を描いたアニメを製作されており、AIRとして創作秘話をトークイベントで披露してもらっている」。
「この世界の片隅に」片渕監督がリアルな平安時代を描く作品制作秘話のトークショーは何度か開催している
ないじぇるの活動・イベント | ないじぇるアートトーク2 清少納言たちがそこにいた「空間」を探る (nijl.ac.jp)
「例えば、こちらのチラシ。この右の絵は何を表現しているか。
「ゆく河の流れは絶えずしてしかももとの水にあらず」という一文を表現している。
女子高生が男子になったりして、一瞬も止まることなく千変万化する。
『方丈記』からインスピレーションを受け、こういう作品がうまれることは、私たちにとっても大変刺激的なこと」。
(国文学研究資料館HPより)2023年1月11日(水)~1月17日(火)ないじぇる芸術共創ラボ二人展 染谷聡(美術家/漆芸)×谷原菜摘子(画家)「わだかまる光陰」文房堂ギャラリー
作品は共有せずつくる過程を一緒に楽しむ
具体的にはどのようにコラボレーションしていくのか?その過程を入口副館長に話を聞いた。
「ないじぇる芸術共創ラボでは、作品そのものではなく、ワークショップであるとか、あるいはトークショーという形で作品が出来るまでの過程を共有する。
片渕さんとは主にトークショーの形でどういう作品になっていくのかという過程を我々は共有し、作品をどのように発表するかについてはお任せしている。
創作過程を我々としては楽しんでいるが、それを我々だけが楽しんでいるのはもったいないので、トークショーの形で皆さんに披露している。
これは今後も続けていきたい。
今、中西から『方丈記』から生まれた作品の説明があったが、我々は研究者なので、それが当時どういう意味であったかなど、ある意味真面目な研究はするが、自由な発想で何か繋げていくということを全くしてこなかったので共創で風穴を開けていきたい。
この取り組みは前館長ロバート・キャンベル氏の発想に我々が共鳴し、こういった形でチャレンジしてみたところ、お互い非常に刺激になった。
あまり古典に詳しくない芸術家の方々も我々の説明からいろんな材料を得られるため、一方的なレクチャーではない。
ひょっとしたら、当時の人々もそういうコラボレーションがあったかもしれない。この形は年度で変化し、今年度また新たに2名のアーティストが加わることになった」。
今年度は『源氏物語』がテーマ
今年のテーマとそれに伴う新たな試みを入口副館長と中西さんに伺った。
「この活動は今、中西中心でやっている。
今年はたまたま大河ドラマの主人公が紫式部ということもあり、来年年明け『源氏物語』の展示をたましん美術館で開催する。
国文研の展示室では常設展も特別展も何度も開催しているが、外部に持ち出して展示するのは初。『源氏物語』をテーマにし、さらにその『源氏物語』にインスパイアされた2名のアーティストの作品もその会場に展示予定だ。
2名のアーティストとは、昨年度からもう既にワークショップなどは始めており、今年度から正式にAIRをしていただくこととなった」。
中西さん
「油絵と版画の若手アーティストの方が新たに加入する。『源氏物語』を読んだことはなく、話のあらすじを伝え、どこに反応してくれるか?
夏には作品の構想を聞き、年明けに展示予定。
インスタレーション的なことをやりたいという案がでているが何がでてくるかまだわからないところが面白い」。
来年、2025年1/11(土)~3/16(日) 立川駅北口より徒歩3分のたましん美術館で「源氏物語の新世界」開催
国文学研究資料館が所蔵する『源氏物語』関連資料(写本、画帖、絵巻など)に加え、若手アーティスト芦川瑞季、成瀬拓己が『源氏物語』を題材として創作した新作を展示
アートと文学が楽しめるワークショップ
引き続き、外部でのイベントやワークショップの開催内容についてお二人にお伺いした。
入口副館長
「例えば、片渕須直監督のトークショーや、美術家の染谷聡さんの参加型漆芸ワークショップなど、色々な企画を様々な場所で開催している。
アキシマエンシスや、一昨年は神戸大学でも開催。今後も色々な場所で開催したいと思っている。
ワークショップは私が主に担当しているが、例えば和本を作ってみるワークショップを立川では子供向けに開催した。
富山の市立図書館や京都では大人の方向けに開催。本の歴史解説をした上で装訂を作るという内容だ。
実は東アジアの本は素人でも製本できる。西洋製本は専門の機械が必要であり、素人が製本するのはかなり難しいが、江戸時代までの本であれば、大体針と糸があればできてしまう。
我々も学生の頃から接しており、実際に古い本を修理している。
作ってみるとよくわかる。
何種類もある装訂も作ってみると、ああなるほど!こういうふうにできているのか!と、すぐにつくりが理解できる。
ただ開いているだけ、本を見るだけでは、これはこういう装訂です、と書いてあってもわからない。
それは我々も説明するのはとても困難。
しかし、ワークショップで作ると非常に簡単なつくりだということが即座にわかる。
このようなワークショップは海外でも開催し積極的に普及活動をしている」。
江戸時代までの本の装丁を見る事ができる「和書のさまざま」
2022年9月17日アキシマエンシスで開催された美術家/漆芸 染谷聡さんの「ものがたりを保存する-漆でつくる時間封筒-」
参加型ワークショップは古典籍をコラージュするという斬新な企画だ
一般の人でも見ることができる展示もある!
ワークショップ以外に、一般の人が観賞可能な展示はあるのだろうか?
「どの展示も一般の方に開放されていて、常設展示は2種類ある。
「和書のさまざま」と「書物で見る日本古典文学史」の二つで、毎年2〜3ヶ月位の期間で展示をしている。
本年4月18日(木)から始まるのが「和書のさまざま」。
文学のテキストとして中身を読むだけではなく、本そのものの研究をするということも使命で、日本人がどういう形で本を読んできたのかを皆様にご覧いただき、そこに興味を持っていただきたいと思っている。
読む形態により、中身は一緒でも受け取り方が違うだろうと考えている。
今、古典は大概教科書か、文庫本で読めるが、江戸時代では例えば『源氏物語』は文庫本的な気軽さで読むことはまずありえない。
そういった読み方の変遷が本の形から理解でき、中身と密接に関わっていることもよく理解できる展示。
もう一つは「書物で見る日本古典文学史」。
なるべく古い形態を見て欲しいと思い並べているので展示が開始されたら是非ご覧いただきたい」。
データベースでも閲覧可能(国文学研究資料館HPより)
和書のさまざま (nijl.ac.jp)
電子展示室「書物で見る 日本古典文学史」 – 古典に親しむ | 国文学研究資料館 (nijl.ac.jp)
https://www.nijl.ac.jp/etenji/bungakushi/
世界的な国際交流の場としての役割
国際的な研究者向けの会議、交流などはあるのだろうか。
国際交流も盛に行われている。世界中の研究者を招き、研究者向けの学術的な会議、「国際日本文学研究集会」を開催している。
今、このような時代なのでリモートで参加の方もいる。毎回当館が会場で、今年は15名ほどお招きし5月に2日間行う。
今年度の「国際日本文学研究集会」プログラム(国文学研究資料館HPより)
第47回国際日本文学研究集会 | 国文学研究資料館 (nijl.ac.jp)
古典を知ってもらう機会を模索する
一般の人への普及活動には、どのような苦労があるのか?入口副館長に現状を伺った。
「研究者は研究のことは考えるが、それを一般の方に普及するということについて考えてはこなかった。
研究者は学生には教えるがそれは学生を研究者に仕立てるため。
自分たちが研究をしてきた知見をそのままぶつけて、わからない奴は悪い、というやり方になってしまう。
学生には高みを目指し、研究の深いところを学んでほしいと強く思うがゆえ一心にやってきたが、一般の方に研究の深いところをわかってほしいというようなことは、やってこなかった。
今の時代、よく政府が言っている説明責任のような、我々が国から予算をもらってやっている限りはやはり、国民の皆さんに自分たちの活動を認知してもらうよう努力することを考えなければいけない。
様々な形(ぷらっとこくぶんけん、など)で、地域の方に開放ワークショップもしながら、そういった活動は必要と考えている」。
国文学研究資料館を中心に多摩地域の各参加団体で構成するプラットフォーム「ぷらっとこくぶんけん」(国文学研究資料館HPより)
ぷらっとこくぶんけん – 国文研の活動 | 国文学研究資料館 (nijl.ac.jp)
古文漢文不要論〜国文学を学ぶ意味とは?
今年も受験シーズンにSNSなどで活発に議論が行われた「古文漢文不要論」。
大人になってから使わない、もしくは役にたたないと思われる学問は学ぶ必要があるのか?
という問題提起から学ぶことの意味まで、このような世論を研究者の方々はどのように感じているのかを入口副館長にぶつけてみた。
「このことは相当危惧している。新味はないが非常にベーシックなことは続けないといけない。
現在公開している30万点の資料を一人の人間が全部見られないのは当たり前のこと。
しかし、それは必要なのか?と問われた際、ある人はこの資料が必要だが、ある人は別の資料が欲しいのであり、そういう意味では無駄ではない。
ある人から見れば「これは全部いらない」と簡単に発言してしまえるが、俯瞰してみると、”人類”にとってはそういう単純な話にはなってはいない。
声の大きい人のそういう主張が世論を左右してしまう、そこは我々としては危惧している。
一般の方にどのように伝えられるか、ということを今まであまりやってこなかったが、我々もどうすべきかについて考えている。
人間文化研究機構でも危機感があり、“人文知コミュニケーター”を今配置している」。
人文知コミュニケーターの誕生
「研究者と一般の人を結びつける「人文知コミュニケーター」の役割。これはヨーロッパやアメリカではすでに始まっている。
現役を退いた研究者があえてコミュニケートすることに特化した専門職。
職域の問題があり難しいが、人間文化研究機構でもそういう存在は必要だということで、「人文知コミュニケーター」という人文学に関することを一般の方にコミュニケートする職を今つくっている。
人間文化研究機構は6機関あり、機関に1人ずつ配置し、人文知コミュニケーターが研究しつつ、展示を企画したりしている。
研究もしなければならないため、なかなかコミュニケーションだけに特化できないのが現状」。
人文知コミュニケーターの紹介
対談 人文知コミュニケーター×古典インタプリタ 古典との出合いを提供するために (nijl.ac.jp)
古典に出会える新たな入り口をつくりたい
「研究者の側で様々な企画はしているが、一般の方が本当にそれを欲しているかどうかはまた別だ。
本当に届いているのかどうか。それを知るためにも意見を聞く機会があることはとてもありがたい。
一般の方々の要望を共有しながら我々の方もそれに応える形にしていきたい。
実際にやってみて反応が良ければ繰り返しやってみよう、というような実験的な側面もある。
むしろそのリアクションとして、あるいは要望として、一般の方から何か反応がある、というのは非常に重要。
ただ、今までそういう窓口もなく、機会を設けることもなかった。
こういう形で窓口ができ、一般の方々と対話する機会が今後設けられればそこで意見交換をしながら双方向で何かイベントなど組み立てていきたく思う。
そこを打破していきたく実は、前々からたましん美術館で何かできればいい、という話をしていたところ、幸いなことに、この3月末で転出した人文知コミュニケーターの発案で、来年年明けにたましん美術館で初の展示企画を開催することとなった。
たましん美術館で資料や収蔵品を見ていただき、“これらは国文研にあって時々は展示している”、ということが認知され、国文研にも足を運んでもらえるような動線も今後は必要と考えている」。
裁判所など国の機関が連なるエリアにあるため、確かに足を踏み入れるには敷居が高く感じる
アートと文学の親和性が高い日本
ないじぇる芸術共創ラボのように非常に前衛的な活動の源泉はどこにあるのだろうか?
アートと文学の関り、その歴史について入口副館長に問いかけてみた。
「アートと文学、一見全く分野が異なるがこのコラボレーションは割と古くからある。
日本の本は挿絵が非常に多く、『源氏物語絵巻』のようにたくさんの絵入り本が存在する。
文字と絵が一緒になって楽しめる形式の本は、東アジアで比べても、中国はそれなりにあるが、韓国にはほとんどない。
文字と絵を一緒に楽しむという国民性と関わり、古いものを調べるとそういった発見をすることも、またも知ることもできる。
古典藉はアートと親和性が高い一面があるということを是非、皆さまにも知っていただきたい」。
読んでいないのに知っている?江戸時代の凄さ
「江戸時代には、わからないなりに古典を使っている部分があり、『源氏物語』を読んでいないだろうが、『源氏物語』を基にしたのだろうと想像される文章や絵がある。
私はそれを古典と言っていいだろうと思う。
皆が知っているが誰も読まない。そういったものが江戸時代には沢山あり、大変面白いと思っている。
『源氏物語』は上流の人は全部読めたと思う。
しかし、それ以外の人たちでも『源氏物語』は知っている。こういう感覚は現代にも通じるのではないか」。
実は日常生活に散りばめられている古典
「恐らく気がついていないが、あらゆるところに、これは『源氏物語』だ、『伊勢物語』だ、
と、ある種無意識の中に染み込んでいる古典はたくさんあり、それを掘り起こす作業も我々の研究者の側から一般の方々にアピールする非常に重要なことだと思う。
“源氏物語を読んでください!“と言う訳ではなく、既にあなた方が見ているここにもう、源氏や伊勢はありますよ、と。そういう伝え方を私たちはしたいな、と。
私は伝統芸能が好きで、歌舞伎座などに行くと着物姿の方を沢山お見かけする。
着物の柄は色々な古典の集約。多分、気がつかずにお召しになっている場合もあるかと。
そう考えると気がついていないだけで私たちの生活の中に、古典はたくさん溢れている。
それに気がついて、学びたい、読んでみたい、と思っていただけると嬉しい」。
過去を知ることで今が鮮明に見えてくる古典の面白さ
2025年の大河ドラマ「べらぼう」は蔦屋重三郎が主人公。
様々なアーティストたちの才能を開花させていく江戸時代のメディア王の物語だ。
入口副館長より、現代に通ずる古典の興味深いお話を伺った。
「幸い大河ドラマが2年連続で文学に関わることなので、これはもう文学と芸術との結節点。
我々としても楽しく、それに関わる企画を一緒にやっていきたいと考えている。
蔦屋重三郎は『百千鳥(ももちどり)』などいくつかの狂歌絵本があり、非常に重要で貴重な作品として国文研にも所蔵している。
絵と文学が同じ画面の中に共存しているものをプロデュースしている人物だ。
そういう意味では、アートと文学、両方の素養を持ちあわせていなければプロデュースはできない。
このような人間がそれこそ吉原から出てきて活躍するわけで、どれだけの素養があったんだ!という驚くべき話でもある。
そういったことからも江戸時代はとても興味深く面白い時代だと思う。
歌麿の美人画でも、『伊勢物語』や『源氏物語』を背景としたものがあり、ただ単に美人を描いたりしている訳ではなく、背景にはそういう知識がある。
でも歌麿はおそらく『源氏物語』を読んでいないと思う。
読んではいないがストーリーを知っていて、自分の中でインスパイアして何らかの作品にしていくという、今我々がないじぇる芸術供創ラボでやっていることと同様なことが起きていたのではないかと思っている。
当時の浮世師が身分からしても古典を読み込んでいたとは思えない。
だけど、皆が知っている古典文学の世界。これは今も昔も変わらないだろう」。
確かに、例えば「香炉峰の雪」と聞くと白居易の原文を読み込んだことはなくとも自然と『枕草子』の名場面が浮かぶのは教育されたから、というだけではなく、日本人特有の気質なのかもしれないと思った。
私たちのDNAに組み込まれている情報なのであれば人は千年たとうと変わらない、ということだろうか。
「そう。1000年たっても人は変わらない。
それを知ることができるのが古典の面白さだと思う」。
過去を知ることは今を知り、まだ見ぬ未来をつくりあげること。
私たちの日常に溢れる古典をみつけるきっかけづくりをアートと文学の融合でアプローチするこの活動にぜひ気軽に参加していただきたいと感じた。
今回お話を伺い、普段から古典に慣れ親しんでいなくとも、長い歴史の中で受け継がれてきた意味と現代にどう活かしていくか、ということに焦点をあて、
必要か不要か?使うか使わないか?と、学問の存在を二極化するのではなく、未来に向けた建設的な議論が活発に行われる世界をそれこそ”共創”したく思った。
目まぐるしく変化する時代の中で、効率やコスパなどの追求を一旦停止し、私たちのDNAに組み込まれているルーツをみつけ、今をみつめなおす旅を古典の森でしてみるのもよいかもしれない。
次々立ち上がる斬新な企画から目が離せないため、今後の活動も随時追っていくと同時に、館内探検ツアーは是非とも実現させてみたい。
◆国文学研究資料館
〈開館時間〉
書庫資料出納 9:30~17:00 (土曜日は16:00まで) 閲覧 平日 9:30~18:00 (史料・貴重書は17:00まで) 土曜日 9:30~17:00 (和古書は16:30まで) ※土曜日の史料・貴重書・特別コレクション・寄託資料の閲覧は不可
電話:050-5533-2900
アクセス:JR立川駅下車、多摩モノレール立川北駅に乗り換え、高松駅下車、徒歩10分 またはJR立川駅下車、徒歩約25分
住所:〒190-0014 東京都立川市緑町10-3
ホームページ:国文学研究資料館 (nijl.ac.jp)
(取材ライター:西野早苗)