
TACHIKAWA
BILLBOAD
念願の店舗オープン直後に訪れた危機
もともとクラフトビール好きの2人。
マシューさんは日本の醸造所でビール造りを約2年経験する中、その過程で得た知識、経験を活かし独立したい気持ちが芽生えていった。
一方、友人のダニエルさんも自分のお店を持ちたいという夢があり、2人でクラフトビール店のオープンを決意。
しかし開業のためには、日本の法律を理解し、書類の作成、申請、そして許可や免許を取得する必要がある。
店内でのビール製造開始は、2人が決めたオープン日には間に合わないことはわかっていたが、マシューさんは友人のビール製造所に足を運び、自身でビールを製造。
坂道ブルイングに製造したビールを運び、販売しながら、並行してビール製造免許取得の準備を進めた。
2020年3月、待ちに待った「坂道ブルイング」のオープン。
しかし新型コロナ感染拡大と重なってしまい、東京都の指示に従い4月には一時閉店を余儀なくされた。
下を向くことなく東京都からの指示に従い、その後もテイクアウトのみの営業や、営業時間の制約などが1年半続き、2人にとっては辛い時期を過ごす。
その間、趣味のサイクリングで近県を周り、日本の自然に触れることで気持ちを切り替えるたり、常連や柴崎町の地元市民のサポートや励ましもあり、この危機を乗り越えることができたという。2021年9月、遂にクラフトビール製造所を併設した店がフルオープン。
1杯目のビールを注ぎ、提供した時の気持ちは「やっと、できた!」だった。
2020年3月オープンした直後に一時閉店を余儀なくされた「坂道ブルイング」外観
力を合わせて危機を乗り越えたダニエルさん(左)とマシューさん(右)
坂道ブルイングのこだわり
大変な時期を乗り越えた坂道ブルイングには、ビールの美味しい「最初の一口」に辿り着くまでの譲れない信条がある。
「ビール造りに対必要なのは『根気』、『技術』、『努力』、『こだわり』」。
具体的な内容を聞いた。
根気は「麦汁の中での酵母の発酵は、急いでどうにかなるものではなくじっくり待つことが必要」。
技術は「ビールの材料は水、麦芽、ホップ、酵母の4つ。シンプルな材料を元に、一つひとつ小さなプロセスを丁寧に積み重ねていくところに職人の技がある」。
努力は「麦25Kgの袋を人が持ち上げ、タンクに入れる。また、醸造所は蒸気、炭酸ガス、薬品などがあり、一般的な事務所とは危険度が異なる。
このような環境においても、丁寧に仕事をすることが重要」。
こだわりは「温度、pH、圧力、重さについては毎日測定値を確認し記録を残し、管理している。
また、タンクをはじめとしたビールづくりで使用する装置や道具は定期的にきれいに掃除をしている。
ビールのおいしさは9割が相似、1割が数字」だという。
クラフトビール仕込みの様子
危機を乗り越えた2人、夢はさらに膨らみ、クラウドファンディングに挑戦し、2店舗目のオープンに至った。
応援者の1人は1週間に3回、「坂道」に通っているという。
「坂道ノース」開店の応援者名
6番の「No Stone Unturned」は応援者が命名。ビールサーバーのハンドルは伊豆産の木
ビールのお店にアートギャラリー!?
坂道ブルイング、坂道ノースともに店内に広い壁がある。
飲食店であればそこには、びっしりと書かれたメニューやポスターといった掲示物がありそうだが、「坂道」の壁はそうではない。
店のロゴ入りTシャツ、帽子、雄大な自然を撮影した写真、ペーパーアートなどが展示され、トイレにも愛嬌のある絵が3点飾られている。
また、壁に展示できないような造作物も、展示が可能なスペースがある。
「坂道」はクラフトビール店でありながらアートギャラリーでもある。
さらに、アートスペースは無料で貸し出しを行っているというから驚きだ。その理由をマシューさんにたずねた。
「イギリスにはパブが都市だけではなく地方にも数多くあり、伝統的に誰でも楽しめる社交場のような役割を担っている。
そのため、パブは無料で誰でも利用できるアートギャラリーや、ライブハウス作品を展示できるアートギャラリーや音楽を楽しめる場所がある。
日本は絵や写真、アート作品などを多くの人に見てもらうためには、お金を払って展示スペースを借り、音楽の場合はスタジオやホールを借りる必要がある。
お金が必要なため、特に若手アーティストは発表の機会が限られてしまう。
イギリスの文化の良いところを取り込み、もっと気軽に作品を展示してもらえる場を提供したい」という。
「坂道ブルイング」は若手アーティストや、趣味でアートを楽しんでいる人たちに展示機会を提供するだけでなく、より多くの地元の皆さんにアート体験をしてもらいたいと考えている。
美術館は敷居が高くなかなか足を運ぶことができない人でも、「坂道」はビールを飲みながら気軽に鑑賞ができる場作りを行っている。
これまでに15名ほどの作品を展示したそうだ。
アートギャラリーについてはSNSで発信中であり、オーストラリアからも問い合わせがあり、縦30cm×1mほどの絵と、30cm×50cmほどの絵があわせて5枚送られてきたそうだ。
作品展示の条件は、20歳以上で「若手アーティスト、趣味で楽しんでいる人」であることのみ。
ジャンルは問わない。展示期間は1か月。自分の作品を発表したいと思われたら是非「坂道ブルイング」「坂道ノース」に問い合わせをしてほしい。
「坂道ノース」アートスペース
「坂道ブルイング」内観。シンプルで木のぬくもりを感じる。
名前の由来と、ロゴ、これからの夢
そもそも店先に坂があるわけでもないのに店名に選んだ「坂道」とは。理由は三つ。
一つ目はサイクリングが趣味の2人が、ツーリングに出かけた際によく使っていた言葉であること、二つ目は「SAKAMICHI」は外国人にも発音しやすいこと、そして三つ目はお店のオープンまでの険しい道という意味を込めている。
そんな想いを表したロゴは、シンプルでストレートに意味が伝わってくる。
店舗ではロゴをプリントしたTシャツ、帽子なども販売している。
2店舗目をスタートした二人に「これからの夢」を聞いた。
「さらに大きなアートギャラリーでアート作品の展示やイベントを毎月行いたい。
また、立川はもちろんのこと多摩地区の皆さんにぜひ足を運んでもらいたい」と2人は語る。
坂道ブルイングのロゴ(上)/坂道ノースのロゴ(下)
イギリスのパブでは持ち込みも一般的であり、この文化も坂道ブルイング、坂道ノースでは取り入れている。
好きな食べ物を持参してクラフトビールを飲みにでかけてみてはいかがだろうか。
きっとお気に入りのクラフトビールに出会えるだろう。
そして、アートで盛り上がるのもよい。
■「坂道ブルイング」Taproomギャラリースペース展示会予定
4月:https://www.instagram.com/ipageek/
5月(予定):https://www.instagram.com/not.found.by.akane/
心を込めた一杯。どうぞ召し上がれ
◆坂道ブルイング
営業時間:平日 12:00-21:00、金/土/日 12:00-22:00、祝日 12:00-22:00
所在地: 〒190-0023東京都立川市柴崎町2丁目-6-5青木ビルディング#103
Web https://www.sakamichibrewing.com/
X https://x.com/sakamichi_beer
Instagram https://www.instagram.com/sakamichibrewing/
Facwbook https://www.facebook.com/SakamichiBrewing/
◆坂道ノース
営業時間:平日 15:00-23:00、金 15:00-0:00、土 12:00-0:00 12:00-23:00
所在地:〒190-0012 東京都立川市曙町2丁目13−7
Instagram https://www.instagram.com/sakamichibrewing/p/DDQnUiwqdpo/
(取材ライター:後藤直子)