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石田倉庫のアートな2日間 〜アートと人と〜http://www.ishida-soko.com/

JR立川駅北口から徒歩15分ほど、バス通りから路地を入った住宅地に、「石田倉庫アトリエ」という幾つものアトリエを有する建物群がある。

地元企業が35年ほど前に、お金のない芸術家や美大生に賃貸を始めたという倉庫は、びっしりと蔦に覆われた外壁が歴史を感じさせる。

石田倉庫のアートな2日間」と名付けられたアトリエ祭は、2005年から毎年開催されており、今や地元住民だけでなく、立川市を代表するアートイベントとして広く認知度が高まっている。

15回目の今年は、11月24日(土)・25日(日)の2日間。好天に恵まれ、場内は多くの来場者で賑わった。

2018/11/24 (土) 2018/11/25 (日)
開催場所

東京都立川市富士見町2-32-27

2018.12.05

普段はなかなか見ることのできないアトリエ内部の公開をはじめ、特設ステージでのパフォーマンスやワークショップが行われたほか、アーティスト手作りのフードやドリンクの販売、地元飲食店の出店もあり、大人も子どもも一日中楽しめるイベントだった。

 

 

—— 和太鼓とダンスの即興コラボ ——
ステージの真っ白な空間に、衣裳の鮮やかな緑色が映える。
和太鼓の音をバックに、あるときは激しく、あるときはもの憂げに、思いつくままに身体が動く。

踊るのは、ここにアトリエを構える「葉画家」群馬直美さん。
普段はひたすら「葉っぱ」を精密に描いている画家にとって、ダンスはもう1つの表現手段だ。
傍らで和太鼓を演奏するのは、SEKINE MOTONARIさん。

椅子に腰掛けてみたり、置かれている本を手にしてみたり、時に観客も巻き込みながら即興ダンスは続く。
コミカルにも見える顔の表情や身体の動きを、幼い子どもたちは楽しそうに笑いながら見ていた。

あるとき小さなライブハウスで、群馬さんが彼の演奏にインスパイアされたのが、コラボのきっかけだった。
二人の武者修行ライブは日本各地に留まらず、アメリカにもフランスにも渡った。

それから、長い歳月の中で、SEKINEさんは聴覚を失い、群馬さんは大病を乗り越えた。
14年ぶりに二人で立ったこのステージで、彼らはそれぞれの「これまで」を放出し切ったように見えた。

観覧料は投げ銭制度。

アラジンのランプのような古い壷は、小銭からお札まで、観客の「想い」で溢れた。

アトリエに戻った群馬さんは、「今日は踊ったから、疲れちゃった」と微笑む。
ステージ上の緊張感がほどけて、とても穏やかな表情だった。

<作品展とイベントのお知らせ>
●群馬直美展『ネギの一生と葉っぱたちの一年』 2018.12.21(金)〜2019.1.27(日) 
<時間> 9:30〜16:30(12/31、1/1は休館、最終日は16:00まで)
<会場> 国営昭和記念公園 花みどり文化センター ギャラリー1 ※入場無料

・オープニングスペシャル企画『伝統農法 下仁田ネギに捧ぐ』和太鼓とダンス
 和太鼓/SEKINE MOTONARI  ダンス/群馬直美  
 2018.12.22(土) 14:00〜 展示会場にて上演 ※観覧無料

・新春スペシャル企画『伝統農法 下仁田ネギに捧ぐ』ダンス ー愛の讃歌ー
 ダンス/群馬直美  
 2019.1.13(日) 14:00〜 展示会場にて上演 ※観覧無料
※詳しくはこちらで、http://www.showakinen-koen.jp/

 

—— 〜非日常の部屋〜 らくがきほうだい! ——

次は子どもたちが主役のイベント「らくがきほうだい!」。
普段はできない「らくがき」を子どもたちに思う存分してもらおう、というイベントだ。
ステージ上の真っ白な空間は、このイベントのために作られた「〜非日常の部屋〜」だったのだ。

スタートの合図と同時に、筆やローラーを使って絵を描き始める。
花、魚、なんだかわからない形が、いろいろなところにどんどん増えていく。
家具にも、壁にかけてある服にも、バッグにも、ここでは自由に描いていいのだ。

楽しそうな子どもたちの様子に、見ている大人たちもソワソワしてきた。
赤ちゃんを抱いてお兄ちゃんを応援するお母さん、自ら画材を持って参加するお母さんもいる。
子どもも大人も絵の具にまみれて、やりたいほうだい!

 

夕暮れが近づいた頃、2回戦を終えたステージは、たくさんの色で埋め尽くされていた。

 

—— ワークショップ:アルミ象嵌(ぞうがん)アクセサリー作り ——

いくつかの作家ブースでは、様々な手作りワークショップも行われている。

二人の女性が、金槌を使ってアルミの板に細かい金網や鎖を打ち込み、象嵌のブローチを作っている。
象嵌とは、1つの素材に異質の素材をはめ込む工芸技法のこと。
作り方を教えているのは、金属造形家の安東桂さん。
安東さんは銅や真鍮などの金属で、絵本に出てきそうな可愛らしい小物から、大きな換気扇フードまで作ってしまう作家だ。

金槌で叩いていると、金網や鎖はアルミ板にめり込んでいき、美しい模様となっていく。
無心になってカツカツ叩いていると、日々の雑多なことを忘れていられそうだ。
自分で作るブローチには、そんな素敵なおまけも付いてくる。
※安東桂さん 公式HP https://www.keiando.com/ 

 

—— アトリエ展 ——

石田倉庫に関わるアーティストが多数参加するのが、このイベントの目玉である「アトリエ展」。
ここを拠点とする作家が、自室に作品を展示して行うため、普段のアトリエの雰囲気が感じ取れる。
作家自ら説明をしてくれるのも、楽しみの1つだ。

<栗 真由美さん> 
アトリエの中には、入口に黒い幕がかかった別の空間が作られている。
栗さんに案内されて中を見た瞬間、「あー、きれい」という言葉が漏れた。

吊るされているのは提灯のような柔らかい光を放つ、たくさんの小さな建物。
店であったり家であったりする、これらは新潟県の越後妻有の街に実在する建物を模した作品だ。
今年の「大地の芸術祭」に出展した「builds crowd〜街の記憶〜」をここへ持ってきたという。

石田倉庫の先輩に勧められ、初めて公募展に出品したのが2013年のこと。
以来ずっと、各地の芸術祭で、地元の人とつながる灯りの作品を作り続けているそうだ。

知人が観たときには、「暗闇の中で家々が、ほわっほわっと時間差で点灯していく」という仕掛けがあったらしいのだが、残念なことに見逃してしまった。
※栗真由美さん 公式HP http://www.ne.jp/asahi/kuri/mayumi/kurimayumi/top.html

 

<宮坂 省吾さん>

鮮やかな色使いの小さな作品が、整然と並ぶ真っ白な壁。三重に天井から吊られた大きな薄布。
声を立てるのもはばかられるくらいの、静寂感と清涼感に包まれたアトリエ。
薄布を透して霞んで見えるのは、窓辺の蔦の葉とガラスの向こうの日常。

薄布には、地平線に連なる山や街並みが描かれている。
いろいろな地域で、人々は異なった暮らしを営んでいる。
光に透けて絵が重なったとき、山のむこうに街の風景が遠く薄く見え、反対側からは街中から遠くの山並みが薄く見える。
風景の重なりには、人が自分の周りには無いものに抱く「憧れ」も浮かび上がって見える。

真夏には緑の蔦の葉が窓を覆うが、照りつける西日には勝てないという。
室温は40°Cにもなるというアトリエで、こんなにも涼しげな作品を製作しているという、現実世界とのギャップも透けて見えた。
※宮坂省吾さん 公式HP http://www.miyasaka-shogo.com/

 

<槙島 藍さん>

廊下から真っ正面に見える、深い青の大作。
吸い込まれそうに感じながらアトリエに足を踏み入れると、もう1点、側面にも青の作品。
「ここよりもっと遠く」という槇島さんの今回のテーマ通り、どこまでも遠くに行けそうな気がしてきた。

傍らには1辺が6〜7cmくらいの可愛らしい絵も、展示されている。
ミニキャンバスはワークショップで使うこともあるそうで、槇島さんが手作りしている。
このくらい小さな絵なら、初心者でも描いてみようかと思えそうだ。

後日拝見した槇島さんのHPには、今回の作品製作中の思い出が詰まっていた。
※槇島藍さん 公式HP https://ai-makishima.com/

 

<茂井 健司さん>

アトリエを覗くと、細い木材と大きなガラス板や鏡を組み合わせた巨大な作品が置かれている。
その周りで、ひっきりなしに訪れる来場者の応対に追われる、作者の茂井健司さん。

立つ場所によって、作品の見え方が変わる。
床に立って作品の上方を見上げると、無限の吹き抜けのような、どこまでも高い空間が見える。
壁際に設置された階段に上がって見下ろすと、今度は床下の方へ続いていく空間が見える。
鏡と光の「イリュージョン」だ。

大型のインスタレーションを作る作家だが、小さな作品も展示されていた。
部屋に飾って楽しめる、小さな鏡の立体。

天井には2つの光色の異なる蛍光灯があり、ある面はオレンジ色の、またある面は白色の、2色の光を反射して周囲に映している。
照明光を変えてみたり、別の鏡を組み合わせたりすれば、いろいろな楽しみ方ができそうだ。
※茂井健司さん 連絡先 kenji.shigei@mx2.ttcn.ne.jp

 

<星野 祐介さん・町田 結香さん>

2年前からここでアトリエをシェアしているという星野さんと町田さんは、美大の同級生だった画家。
普段は作風も使う画材も異なる二人は、それぞれ別々の作家活動をしているが、このアトリエではコラボで製作しているそうだ。
互いに下絵を交換して続きを仕上げたり、背景を描いて渡したものに人物を書き込んだりするという。
想定を超えた作品に仕上がりそうな、ワクワクする共同製作だ。

※星野裕介さん 公式HP https://majimeeropop.wixsite.com/mysite 
※町田結香さん 公式HP http://yukamachida.wixsite.com/yukamachida/profile

 

 

「石田倉庫」のアトリエ展では、作品を生み出す楽しさと同時に生まれる「苦しさ」と日々闘う製作現場の空気を、少しだけ感じることができた。
大家族の兄弟姉妹のように、互いに刺激を受けながら、気遣いながら、一つ屋根の下で製作に勤しんでいる様子が窺い知れた。

このアートイベントが毎年続いていることの根底には、石田産業という地元企業の大きな力と愛情が存在する。
長年にわたり、物心ともに若い芸術家たちの活動をバックアップしてきた歴史が、ここにはあるのだ。