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山上一郎:Yamagami Ichirou家具職人http://www.kitori.jp

[出身]東京・立川市
[経歴]大学卒業後、テレビ番組制作会社に入社。自宅の家具づくりがきっかけで28歳で転職、家具職人に。1999年、長野県上松技術専門校木工科卒業後、2000年に立川市にて家具工房「木とり」を設立 。

2016.03.26

「机や椅子、ついたてから新築までを手がける、元テレビマンの家具職人」

横浜(上)と金井(下)の中古住宅リノベーション例 (左:施工前 右:施工後)

横浜(上)と金井(下)の中古住宅リノベーション例 (左:施工前 右:施工後)

 

家に合う棚を作っていたら無性に面白くって夢中になって

Yamagami Ichirou_photo2

コンコンコン。アトリエの部屋をノックすると、「さあ、さあ。立ち話もなんですから。どうぞ、どうぞ。お入りください、コーヒーとお茶、どちらがいいですか?」と、とびっきり気さくに出迎えてくれた家具職人の山上一郎さん。「ぼくの作る空間にはデッドスペースって無いんですよ。」と話す山上さんの言葉どおり、アトリエというよりも、まるでインテリア雑誌の特集に出てくるような収納上手な書斎だ。

山上さんが石田倉庫にアトリエを構えたのは2000年の2月。前職はマスコミで、テレビ番組制作を行うサラリーマンだった。「当時住んでいた家が狭くて、家に合う棚を作っていたら無性に面白くって夢中になって。夏休みに家具職人さんたちの話を聞きに行ったら、どの人も『家具職人は食えないからやめろ。』って言うんですよ。そして、最後に必ずみなさんこう言うんです。

『でも、楽しい』って。そんなに楽しいって思える仕事、素敵じゃないですか。」そして、28歳で転職。職業訓練校や家具屋で修行を積み、「家具工房 木とり」を構えた。

No.5の2階が山上さんの事務所、1階は作業のできる工房。

No.5の2階が山上さんの事務所、1階は作業のできる工房。

「お客様とのやりとりは、なぞ解きみたいでね。この先5年、10年の人生の話とか。ほら、子どもが生まれて、育って、いつか独り立ちしたりすると、空間の使い方も変わって行くでしょう。だから、お客様の話を聞いて、聞いて。それから、たくさん話して、話して。断片情報を取り入れて、自分の中に入れてガラガラポン!って形にするんです。これが楽しくて。お客様に喜んで頂けて、自分も楽しいなんて、いい仕事をさせて頂いてるなって思います。」

 

「石田倉庫アトリエ展」。地域とアーティストをつなぐきっかけに

山上さんが工房をかまえている「石田倉庫」には20人近くのアーティストやクリエーターがアトリエを構えている。今では、地域のお祭りのような盛大なイベントになった「石田倉庫アトリエ展」だが、このイベントの発起人が実は山上さんだった。

2011年のアトリエ展では、木とり、立川のオリオン書房、TACHIKAWA BARU とでBOOK & BAR「とんがり書房」をコラボレーション

2011年のアトリエ展では、木とり、立川のオリオン書房、TACHIKAWA BARU とでBOOK & BAR「とんがり書房」をコラボレーション

「家具が作りたくて石田倉庫に工房を構えたものの、すぐにたくさん仕事が入ってくるとは限りません。また、展覧会を開くと家具の在庫が溜まっていくので、在庫展を開きたいなあと思って。ちょうどアトリエの前に来る人来る人お茶にさそって話を聞いてみたら、入居者のみなさんが面白い人ばかりだったので、みなさんのアトリエを公開しつつ、在庫展を開いたら面白いんじゃないかと思い、持ちかけてみました。2005年のことでした。」入居者のみなさんも、これまではお互いに誰がどの部屋で何をしているのか全く知らず、このアトリエ展がきっかけで横のつながりもできたとか。

「アトリエ展をやることで、自分たちも横のつながりができ、さらに、地域とのつながりもできていきました。2011年には、『こんな本屋さんがあったらいいなぁ』から始まって、地元のオリオン書房さんと、TACHIKAWA BARUさんと一緒に、1階の工房をBOOKS & BARにしました。オリオン書房さんはイベントのために、“とんがった”1,300冊の本を仕入れてくださいました。アトリエ展のコンセプト“落書き”に合わせて、本棚やブースの壁は黒板にして、チョークで落書きできるようにしたりして。これが大成功で、ルミネの30周年でも屋上庭園で開催したんですよ。」

 

「いつか街を―。これが今のぼくの夢というか、野望なんですよ」

「ぼくの仕事は、高級な“オーダーメイド”と安価な“量産”の間にあるんですね。部屋をリノベーションしたくても誰に頼んだらいいか分からないでしょう。そんな人がぼくのところにいらっしゃるんです。お店を持っているわけではないので、これまで15年の家具をご覧になって、口コミで来てくださるという、いいお客様に恵まれているんだと思います。机や椅子、ついたてから始まって、新築まで請け負うようになりました。

もちろん、ぼくは建築士ではないので、いくつもパターンを作ってお客様とやりとりをし、設計は建築士さんに頼んでいるのですが、そういった信頼のおける設計士さんや職人さんとの関係もこの15年で培ってきました。新築まで来たので、いつか街を作りたいなと思っててね。これが今のぼくの夢というか、野望なんですよ」 本棚にはテレビマン時代にお世話になった島田紳助さんから頂いた色紙が。「夢の最高の喜びは、結果ではなくプロセスです」山上さんの夢はまだまだ続く。